今年最後のレビューとなるのは、昨日も別の盤を紹介したトロンボニストによるブルーノート3枚目のリーダー作。同レーベルに3枚ある彼のリーダー作の内の最終作ですね。Jazz Next Standard誌上においてもリコメンドされていたので、若い世代の人たちでもわりと良く知っている盤なのではないでしょうか。良くも悪くも地味な印象の強いThe Openerからメンバーを一新して、本作での彼はかなり切れのあるハードバップを演奏しています。特に強烈なアフロキューバンのリズムでドライブするA-1のLittle Messengerは間違いなくフロアーの花形的存在。ダスコ・ゴイコヴィッチのBalcan Blue辺りと相性良さそうなキラー・チューンです。アート・ファーマーとの2管フロントやドラムのルイス・ヘイズの存在も去ることながら、ここではソロ一番手を務めるピアノのソニー・クラークが存在感抜群。以前紹介したことのあるハンク・モブレーによる名曲Roll Callや、ドナルド・バードのGhanaらと並んで、ブルーノート音源の中でもジャズ・ダンサー度が極めて高い最強の1曲です。ラテンの影響が色濃いミディアム・テンポのマイナー・ブルース、A-2のQuantraleもフロアー向きではないものの素晴らしい出来です。考えてみれば僕の好きなユーロ・ジャズのルーツは、やはりこの辺りにあったりするんですよね。デンマークのJazz Quintet 60なんかも確実に影響を受けているわけで…。そう言った意味では幾らユーロ・ジャズ派の僕とは言え、この辺りの盤は押さえておいても良いかなと思います。しかしまぁ、この当時のブルーノートのジャケって、どれもこれも何でこんなに格好いいんですかね。とても50年前のデザインとは思えません。このジャケのためだけでも、お金を払ってしまいそうです。
ポーリッシュ・ジャズついでにもう一枚。既に色々なところで紹介されているため、もはやポーリッシュ・ハードバップの代名詞となっているアンジェイ・クーレヴィチの63年盤。7歳からピアノを始め、50年代半ばにはオルガン奏者としてディキシーランドを演奏していた彼が、後にトランペッターに転向してからのモダン・ジャズ作品です。音楽高校にてしっかりと音楽理論や作曲を学んだ彼らしく、アメリカのジャズをしっかりと研究した内容になっていて、一聴しただけではほとんどの人がこれをポーランド産だとは思わないはず。内容的には普通に50年代のUSジャズです。全曲メンバーのペンによるオリジナルなものの、どれも普通に聴いたことがありそうなものばかり。ブルース調の曲が多めかな。最もそれが逆に僕のようなヨーロピアン・ジャズ好きとしては不満と言えば不満なのですが…。そんな中ついつい惹かれてしまうのはM-6のNyamaland。クーレヴィチ自身のオリジナルで、ミディアム・テンポの5/4拍子によるモーダル・バップです。どこかミステリアスなテーマが東欧らしいと言えばらしいかもしれませんね。ダスコ・ゴイコビッチ辺りが書きそうなエキゾチックな一曲。高速ハードバップで展開されるM-4のYenom Onはヤン・プタシュン・ヴルブレフスキのペンによるもの。ただ、フロアー的にはややインパクトに欠けるかな。昨日紹介したJazz Outsidersでの演奏とは違って、DJ的にはそれほど「使える」曲ではないですね。若い人よりもジャズ親父世代からの人気の方が強そう。それよりも同じくヴルブレフスキ作のM-3、Green Eyed Girlの方が好き。今日みたいなよく晴れた昼さがりに、部屋でのんびりと聴くのに程よいモーダル・ナンバーです。まぁ、いずれにしろオリジナルのLPで買うほどの作品ではないとは思いますが…。こういうのはCDで充分です。
ジャズ批評の最新号で特集が組まれていたから…というわけでもないのですが、何となく気分だったので10インチを紹介。東欧におけるジャズ先進国であるポーランドで61年に吹き込まれた実況録音盤です。このシリーズだと翌年に5枚リリースされたJazz Jamboree 62というものが有名で、今号のジャズ批評でもそちらがクローズ・アップされていたのですが、こちらの61年盤もそこそこ悪くはないです。内容としては、6組の異なるアーティストによる演奏が1曲ずつ収録されていて、ちょうど我が国におけるMidnight Tokyoシリーズのポーランド版と言ったところ。時代がら全ての曲が純モダン・ジャズではなく、ディキシーが半分くらい混ざってるところも共通していますね。もちろん僕の興味はモダン・サイド。ポーリッシュ・ジャズ界の第一人者Krzysztof Komeda率いるトリオによるA-2のThis or Thisなど、なかなかにレベルが高いモーダル・ジャズで良い感じです。そして白眉は何と言ってもJazz OutsidersによるB-1のNineteenager's Riff。このグループ名、あまり聞き覚えがないかも知れませんが、実はPolish Jazz Quartetで有名なテナー奏者Jan Ptaszyn Wróblewskiを中心としたセクステットです。あの盤でのワン・ホーン演奏も格好いいですが、やはりこちらの2管の方が華があって僕は好きかな。曲もオリジナルではあるもののレベルの高い内容で、同時期の欧州産ハードバップとしてはフロアー対応度高めの高速ジャズ・ダンサー。まるでブレイキーばりにドカドカ叩くAdam Jędrzejowskiのドラミングが最高です。Lars Lystedt SextetのThe Runner辺りが好きな人には非常にオススメ。ちなみに他の曲ではまだディキシーを演奏しているZbigniew Namysłowskiが確認できたりするので、資料的にも価値がある一枚かもしれません。
ジャズ界においては割とマイナーな楽器であるトロンボーン奏者の中で、一際知名度が高いのがこのCurtis Fuller。後にメッセンジャーズに加入することで、例の黄金の3管時代を気付き上げることになる彼の、ブルーノートにおける初リーダー作が本作です。正確に言えば、これより約一ヶ月前にレコーディングされたプレステッジ盤が、彼の本当の初リーダー作となるわけですが、まぁ時期的に本作もほぼデビュー作と言って差し支えないでしょう。テナーのモブレイとの2管で正統派のハードバップをやっている盤です。トロンボーンとテナーの2フロントと言うことで、やや華に欠ける地味な編成ではありますが、聴き込んでいくとそれが逆に良い味と感じられるのが不思議なところ。曲自体もいわゆるフロアー対応のジャズ・ダンサー的楽曲は収録されておらず、ミディアム~ダウン・テンポのバラードが多めなものの、家で一人聴く分にはなかなか宜しいのではないかと。哀愁に満ちたA-1のA Lovely Way To Spend An Evening(素敵な夜を)など、聴いているとついお酒が欲しくなる好バラードに仕上がっています。クラブ世代的に聴いておくべきはA-3のOscalypso。ミディアム・テンポで小気味良く展開されるアフロ・キューバンなハードバップ・ナンバーです。取り立てた派手さはないものの、これから徐々にフロアーをジャズ・モードへ変えていくDJプレイの2曲目辺りにかけると、なかなかに渋く決まりそうですね。もちろんラウンジでのプレイやミックスCDへの収録も全然アリ。やっぱり全曲バリバリに決めたキラーな定番ジャズ・ダンサーや新譜ばかりでは聴く方も疲れてしまうわけで、こうした楽曲を効果的に使えるか否かでDJとしての真価が問われるような気がします。本物志向のDJ諸氏にはオススメ。要チェックです。
ブルーノートの4062番はピアニストHorace Parlanによる同レーベル4枚目となるリーダー作。正統派のジャズ・ファンからの評価は分かりませんが、ロンドン辺りのクラブ・シーンでは古くから愛聴されてきた一枚です。人気の秘密はオーソドックスなピアノ・トリオにRay Barettoのコンガをアクセントとして持ち込んだこと。ラテン・パーカッションを一つ加えただけで、演奏自体の雰囲気がガラリと変わるのだから不思議なものですね。中でも白眉は多くのDJがフェイバリットに挙げるB-1のCongalegreというパーランのオリジナル曲。タイトルからも分かるとおり、アルバム収録曲中でもコンガの魅力を最も引き出しているのがこれです。とは言え、主役のパーランのピアノ自体がラテン・タッチかと言うとそうでもなく、そのプレイはあくまでモーダル・マナーに則ったジャズ的なもの。その辺りの好対照が受けている理由かもしれませんね。Nicola ConteやGerardo FrisinaなどSchemaのミュージシャンがよく使う、モダン・ジャズ的な演奏にラテン・パーカッションを持ち込む手法の原点は多分この辺りにあるのでしょう。よく晴れた午後のティー・タイムに映えそうな、B-3のJim Loves Sueなんかもかなり良い感じです。今の時代の気分ならばモーダルかつアフロ・キューバンなA-1のタイトル曲かな。ちなみに東芝EMIから出た国内再発ならば一見どこにでもありそうな盤ですが、その人気のせいか中古盤屋でも意外なほど見つからない一枚だったりします。CDでも出てはいるものの現在はおそらく廃盤状態。時代がらアナログ再発は難しいかもしれませんが、CDで再リリースすれば普通に売れそうな一枚なのですが…。
ブルーノートが発掘したギターの新星Grant Green。いわゆる4000番台にリーダー作だけで18枚ものLPがあるほど多作な彼ですが、その一方で当時お蔵入りとなってしまった作品も幾つかあるようで、本作はそんな当時未発表盤のうちの一枚です。録音自体は1964年に行われているものの、日の目を見たのは確か70年代後半。国内キング・レコードによる「世界未発表シリーズ」の中の一枚として、日本盤オンリーでプレスされた作品としてマニアの間では知られています。ただ、その内容はこうした未発表集にありがちな陳腐なものではなく、しっかり一本の筋が通った佳作に仕上がっているのでご安心を。ピアノのMcCoy TynerとドラムのElvin Jonesという、あのコルトレーンと共に数多くの名盤を残した新主流派ミュージシャンをサイドに迎え、全4曲ブルージーなモーダル・ジャズを展開しています。その中で当ブログ的に注目したいのは、やはりA-2のMy Favorite Things。以前Jazz Next Standard誌のチャートで、Nicola Conteが「僕の最も好きな曲の一つ」として挙げていたのがこのナンバーです。参加メンバーが被っているので、当たり前と言えば当たり前なのですが、あのコルトレーンによる最高ヴァージョンを、フロントだけサックスからギターに変えたかのような名演。と言うかブルージーという観点から見ると、こちらの方が出来は上かもしれません。いずれにしろ間違いなく世界最高峰のワルツ・ジャズ・ナンバーでしょう。先日リリースされたD.M.R.小川さん監修のベスト盤にもセレクトされていたようですね。ちなみにアナログでの入手は若干困難かもしれませんが、CDでなら90年辺りに出た輸入盤で手に入れることが出来るはず。激しいハードバップに疲れたら、たまにはこんなジャズをどうでしょう。
引き続きブラジルものを紹介。コンポーザー兼マルチプレーヤーであるMoacir SantosのForma盤です。先日耳にした話では、カルトなジャズ・ボッサ好きには良く知られる同レーベル諸作の中でも、レア度そして人気共に最上級だそう。最もジャズ・ボッサと一括りに言っても、ここで普段紹介しているような作品とは少し雰囲気が違う作品なので注意が必要。仮にクラブ世代的なジャンル分けをするのならば、アフロの影響を大きく受けた作風になっていて、良くも悪くも全体的に非常に土臭い作品に仕上がっています。本来ボサノヴァが持っているはずの洒落っ気とは対極の位置にある作品ですね。収録曲は全曲Coisa N°○という味気ないタイトルになっていますが、2組の異なる編成で演奏しているためかN°1~6までとN°7~10までは少し毛並の異なる作品となっています。このうち僕が気に入っているのはN°7~10の方。N°1~6が8管編成の大所帯だったのに対し、こちらは3管編成と少しですが音的におとなしめです。ラテン・パーカッションが効いた演奏が良い感じ。軽快な変拍子で迫るM-6のCoisa N°6や、泣きのサックスが溜まらないM-10のCoisa N°8(Navegacao)辺り、相当に格好よい演奏になっています。そのパーカッシヴなリズムと哀愁溢れるフレーズから、ブラジル版のMusic For The Small Hoursと言ってしまっては少し言い過ぎでしょうか。また、込み上げるようなメロディーが美しいM-8のCoisa N°7(Quem e que nao chora?)は、収録曲中最も高速のナンバーとなっていて、おまけに演奏自体もわりとオーソドックスなジャズ・ボッサなので使いようによってはフロアでの使用もいけると思います。まぁ何にせよ、オリジナルはとにかく高価なので、興味のある方はとりあえずCDでどうぞ。
後にQuarteto Novoに参加することになるギタリスト、エラルド・ド・モンチを中心に結成されたOs Cinco Padosの1stアルバム。例によって基本的にブラジル盤には疎いもので、それほど気の効いた説明が出来るほどの知識はないのですが、64年にリリースされたいわゆるジャズ・ボッサ系の一枚です。何度かオリジナルも見たことあるのですが、僕が持っているのは先日ディスク・ユニオン企画でリリースされたParadise Mastersレーベルからの再発盤。まぁこの辺りのブラジル盤は運良くオリジナルが見つかっても、盤質やジャケの状態が異常に悪いものが少なくないので、それならいっそクリアな音で聴けるCDで手にするのも手ではないでしょうか。ピアノの変わりにギターが加わった変則二管クインテット編成が面白いですね。ルイス・ボンファやロベルト・メネスカル、それからバーデン・パウエルなどのお馴染みナンバーをジャズ度高めのボサノヴァで演奏しています。どの曲もアレンジの水準が高く、一枚通して聴ける佳作といった趣き。そんな中で白眉と言えるのはM-2のMilestones。言わずもがな御大マイルスのテーマであるこの曲を、パーカッシヴな高速ハードバップ風サンバに変換しています。これはもう完全にアイディア勝ちですね。二管でグイグイ引っ張っていくソロ回しが最高にクール。この圧倒的なグルーヴの渦に、当ブログを普段読んでくださっている方々ならば確実にKOされることと思います。いつも言っていることですが、本作もブラジル・ファンではなくジャズ・ファンにこそオススメしたい一枚。おそらく盤起こしでしょうが音質もかなり良いですし、ヘタなミドル・クラスのレア盤を買うくらいならば、こちらを手にした方がよっぽど良いかと思われます。
Nujabesの2ndを紹介した時以来だから、約1年ぶり(!)となるメロウ・ヒップホップ紹介。米オハイオ州シンシナティー出身の新進ラッパーによるデビュー作が本作です。一応CDでのデビューは来年アタマになるそうですが、巷では既に結構話題になっているようなので、耳の早いリスナーはチェック済みかもしれませんね。僕の中ではヒップホップの12インチとしてはかなり久々のヒット。これまで紹介してきたKero OneやGrooveman Spot同様、いわゆるJazzy Sport周りの音と言ってしまえばそれまでですが、やっぱりこの辺の音作りは生理的に好きなもので、試聴しているとついつい反応してしまいます。たとえば女性Vo.をフィーチャーしたA-3のLove Jawnsなんて、クリスマスの夜にぴったりな甘いラブ・ソング。Commonなんかの雰囲気にも近い音作りのA-2、We Do Itもおそらく嫌いな人はいないはず。甘いメロウなメロディーにメロメロです。そして当ブログ的に白眉と言えそうなのは、Shin-SkiがリミックスしたB-1のタイトル曲。このShin-Skiという人はあまり良く知らないのですが、やはりGems EP出身のトラックメーカーだけあって、DJ Mitsu The Beats直系の良質ジャジー・ヒップホップを作りますね。モダンジャズ使いのサンプル・トラックが耳に心地良い、お洒落な一曲になっています。外資系レコード店のポップみたいに「大人系ヒップホップ」だなんて言う気はありませんが、少なくとも未だにダボダボの服を着てキャップ被ってる人のための曲でないことは確か。ただ、某レコ屋が強烈にプッシュしてるA-1のタイトル曲は個人的に苦手。うまく言えないですけれど、なんかダサさと青臭さを感じてしまってダメです。
既に当ブログでも何度も紹介しているマルチ・リード奏者Sahib Shihabによる63年のデンマークDebut盤。サイドメンとしての活躍の多さと比較してリーダー作が意外に少ない彼ですが、その数少ないアルバムの中でもクラブ的に人気が高いのが以前紹介した独VogueのCompanionshipと本作でしょう。さて、そんな本作はコペンハーゲンの名クラブ、カフェ・モンマルトルにおける実況録音盤。もちろんサイドを務めるのは、当時Jazz Quintet 60として活動していたデンマークの若手ジャズメンたちです。ピアノレス+2ドラムスという一風変わった編成になっているため、初めて聴いた時は何か妙な違和感を覚えたものの、聴けば聴くほど耳によくフィットしていく不思議な魅力を持ったコンボが興味深いですね。中でも特に注目なのは、この頃まだ17歳であった神童ペデルセンによる超絶的なベース・プレイ。冒頭A-1の4070 Bluesの開始数秒で、一瞬にして完全にそのプレイに虜にされます。本当に彼はもう天才と言う他ありませんね。また、Alex RielとBjarne Rostvoldという当時のデンマークが誇る最強ドラマー2人による迫真のプレイも素晴らしいの一言。そしてもちろんリーダーであるシハブの演奏も文句なし。マルチ・リード奏者であり、何を吹いてもなかなかに良いプレイをする彼ですが、やはり本作A面のようにフルートを吹いている時が個人的には一番好きかな。その彼のフルート・プレイの真骨頂とも言えるのがA-2のCharade。多くのDJから愛される恍惚のサンバ・ジャズ・チューンです。これぞ正に男が男のプレイに惚れる最高の夜ジャズ・ナンバー。こういうのが普通にかかっているようなイベントがあったら、是非とも行ってみたいものです。ちなみにオリジナルは激レア。ただし廃盤ながらCD・LP共に再発出ているので、興味のある方はそちらで是非どうぞ。