折り畳み式の椅子に座り、物憂げな表情でどこかを見ている彼女。視線の先には何が見えるのでしょう?それはおそらく「遠い渚」なのではないでしょうか。さて、今回紹介するのはEverything But The GirlのTracey Thornによる82年のソロ・アルバムです。前述Ben WattのNorth Marine Driveと並び称されることが多いこのアルバムは、とてつもなく上品なアコースティック・サウンドの結晶。ほぼアコギの弾き語りのみで形成されている盤ですが、それでも古臭いフォークなんかとは少し違い、小洒落たNew Waveの香りが全編から伝わってくるから不思議です。余計な音を贅肉のように削ぎ落とし、ただただシンプルさを追求していったがために到達した一つの真理。そんな雰囲気を感じる名盤ですね。アルバムを包み込むグルーヴが全体的にとても心地よいのですが、特に一曲挙げるとしたらA-2のSimply Couldn't Careが僕は好き。カヴァーとなるA-4のFemme Fataleもなかなか。夏も終わりを迎えて季節は徐々に秋へと向かっていくもの、そんな少し寂しげな気分の午後、自宅でコーヒーを飲みながら聴くとうまくハマります。クラブ的なアルバムでは決してありませんが、たまにはこんな盤を聴きながら過ごすのも悪くないですね・・・。
JAM~Style Councilを経て、現在はソロとして活躍している御大Paul Wellerによる昨年リリースされた限定7インチ。Studio 150というアルバムからのシングル・カットで、タイトル曲はSister Sledgeのフリーソウル人気曲カヴァー。元々がディスコ系ユニットの曲なので、原曲はしっとりとしていながらもダンサンブルなのですが、こちらはそれをゆったりめのネオアコ~ギター・ポップでカヴァー。スタカン時代なんかから比べると随分年を取った感のあるポールの声と相まって、渋く哀愁溢れる曲に仕上がっています。サビで入るストリングスも込み上げ度をアップさせている感じ。ピッチを少し上げてパーティーの終わり、明け方のフロアでかけたら似合うかもしれません。ちなみにB面に収録されている2曲はアルバム未収録曲だそう。オルガンとトランペットがモッドっぽいB-2のNeedles & Pinsがなかなかお気に入りです。なんとなくスタカン時代を彷彿とさせますね。それにしても彼のセンスって本当に日本人好みでオシャレ。僕は昔からのファンではないですが、日本で昔から人気があった人だというのも頷ける気がします。CDシングルでもリリースされているようなので、興味のある方はチェックしてみてください。今日みたいによく晴れた日には、たまにはこういうロックを聴いてみるのもいいと思いますよ。
白夜の下のジャズ、そんなタイトルと秀逸なジャケット・ワークも印象的な北欧ジャズの人気盤。Lars Lystedt率いるセクステットで63年に録音されたこの盤は「スウェディッシュ・モーダルの最高峰」と評されることが多いです。この度、例の優良再発レーベルCelesteからCD化されたので、さっそく買ってきました。アナログも最近ではよく出てくるので買っても良かったのですが、人気が出てしまったため7インチにしろLPにしろ2ndプレスでも意外に高く、なんか疑問を感じてしまったのでCDで我慢です。このアルバムは、なんと言ってもM-6のThe Runnerでしょう。生音Jazz系DJに人気があるスリリングな高速4ビート。冒頭の前のめりで突っ走るテーマがインパクトあって格好いいです。もちろんバピッシュな各ソロも抜群に冴えているので、クラブジャズ・ファンのみならずモダン・ジャズ好きの人でも気に入ると思いますよ。どのパートも良いですが僕はピアノのBerndt Egerbladhのパートが好きかな。このCDのみ収録の未発表ボーナス・トラックM-7のFanfarも同タイプの曲でなかなか。全部の曲がいいとは言いませんが2500円ならばThe Runnerのためだけにでも買う価値があると思います。アナログに高額を出すのはいかがなものかとは思いますが・・・。
後にEverything But The Girlを結成することになるBen Wattのソロ作品にして、80年代ネオアコを語るにおいての基本とされている盤。この手のレーベルではClepsculeなどと並ぶ有名なCherry Redからの83年のリリースです。特に際立った派手さはないものの、全編暖かいアコースティック・ギターの音色に彩られたグッド・ミュージック。とても耳障りが良くて部屋でかけてても全く邪魔にならないです。完全に周囲の空気と一体化し、かつゆっくりと雰囲気を変えてしまう不思議な感じ。曲単位ではA-1のOn Box Hillがややアップ・テンポ気味のクールなネオアコ経由ボッサで気に入っています。まさにアルバム・タイトル通りに海辺のドライブに似合う感じ。続くA-2のSome Things Don't Matterも中盤以降に入る哀愁のサックスが印象的でなかなかのナンバー。ネットなどを見ていると、わりと初夏に似合うアルバムだと評されることが多いようですが、僕の中ではこれは夏の終盤から秋に向けての今の季節によく似合う盤。全編から伝わる郷愁感が何となく秋っぽい。一人で落ち着いてコーヒーでも飲みながら聴きたいアルバムです。ちなみにジャケット・ワークも洒落ててかなり好き。定番ながら、こういう良ジャケ盤は是非アナログで持っておきたいものですね。
日本が世界に誇るクラブ・ミュージックの良心Flower Recordsの看板コンピ。現在のところ第三弾までリリースされていますが、この99年にリリースされた1枚目がやっぱり一番好きです。現在もクラブ界で活躍している第一線のFlower勢はみんなこのコンピから巣立っていったと言っても過言ではないでしょう。Jazztronikこと野崎さんによるA-2のNow Or Neverは傑作ジャジーR&B。続くSu-Paka-PoohによるA-3の「くらげ」も浮遊感溢れるディープなダウン・テンポ・ハウスで単純に今聴いても素晴らしいです。DJ KanamuraのエレクトロニカなC-2、Sleepin' Bunny辺りもかなりツボ。基本的に無機質な電子音楽なのに、そのなかにどこか暖かさがあってメロウなのが何ともいえない心地良さを演出します。そしてC-3のSunaga t Experienceによる「かすかなしるし」は本当に名カヴァー。個人的Subliminal Calmの原曲を超えたと思っています。静寂の中を美しいピアノとAsiana嬢によるつたないヴォーカル・ワークが揺れていき、そこにかすかな電子ノイズが被さる。まさに完璧としか言いようのない出来でいつ聴いても溜め息しか出ません・・・。本当に素晴らしすぎです。ちなみにCDで再発されていますが、何気にアナログは枚数が少なかったようで少しレア。もし中古屋で安く見つけたら買っておきましょう。ジャケット・ワークも綺麗でいいですよね。
1989年にリリースされたネオアコ隠れ名盤。スリランカ出身のギタリスト兼シンガーによる1stにして、同時に彼女の遺作となってしまったアルバムです。彼女はこのアルバムをリリースして間もなく病気で亡くなってしまったよう。数年前にSunaga t Experienceがカヴァーして話題になったA-2、No Reason No Rhymeが収録されているアルバムと言えばぴんと来る人もいるかもしれませんね。彼女によるオリジナル・ヴァージョンはわりと緩めでフルートが綺麗なボッサ・テイストの曲です。須永ヴァージョンと聴き比べるのも面白いかもしれません。家でのんびり聴くならば僕はこちらのオリジナルの方がのんびりしていて好きですね。同タイプとしてB-1のI Need To Knowもネオアコ経由ボッサでなかなかの佳曲。ソウルフルでファンキーなB-2、Ticket-To-The-Moonも若干時代がかった雰囲気ながら、重厚なコーラスとフュージョン・ライクな間奏でのホーン・ソロが格好いいです。タフなベースラインが印象的なA-4のKymも良し。これと言ったキラー・トラックがあるわけではないですが、全体的にそつがなく流し聴きするには良いアルバムだと思います。ちなみに年代柄アナログは枚数が少なく、なかなか見かけない挙句にヨーロッパでは凄い値段で売っているそう。CDだとわりとネットなどで安くみかけるので、買ってみてもいいかもしれません。日本よりも海外での方が人気のあるアルバムです。
Introducing Lynn Marinoってのが正式タイトルなのですが、長すぎるので例によって割愛。工業都市ピッツバーグ出身のピアニストFrank Cunimondoを中心としたトリオが、同郷の女性シンガーLynn Marinoと出会って録音したカクテル・ラウンジな一枚。この手のレア・グルーヴ以降のジャズ・ヴォーカルとしては基本中の基本となるアルバムで、初期のOrgan b. SUITEにも収録されたB-1のFeelin' Goodがその筋ではとても有名です。硬質なピアノが印象的な伴奏の上に若干あどけなさが残る女性ヴォーカルが乗った、非常に日本人好みするスウィング・ジャズ・ヴォーカルで、もちろん僕も昔から気に入っています。だけれどA-2に収録されたBeyond The Cloudsの方が今はより気分。ヨーロッパのジャズにも負けないモーダルで美しいワルツ・ジャズです。KoopのWaltz For Koop以降クラブジャズにおいても3拍子のワルツ・ジャズというものが市民権を得て、現在でもNicola ConteやThe Five Corners Quintetなどワルツのリズムを取り入れているアーティストは少なくないですが、この曲はそんな中に混ぜてかけても全然違和感がなさそう。もし既に持っている人は久々に引っ張り出してもう一度聴いてみてください。ちなみにCDでも出ててアナログも再発されています。
ここ数年のヨーロピアン・ピアノ・トリオ・ブームの火付け役となった、フィンランドのピアニストVladimir Shafranovによる81年のヘルシンキ録音1stアルバム。冒頭A-1に収録されたMoon And Sandのイントロ、切れ味鋭いドラム・ブレイクに繊細な彼のピアノが重なる瞬間に一気に部屋の雰囲気がグルーヴィーに包まれるような気がします。際立った派手さはないものの、その演奏スタイルはどこまでも透明感と気品に満ちていて美しい。これぞアメリカでは出せないヨーロッパ・ジャズ(それも北欧ジャズ)の醍醐味とでも言うべきものなのでしょう。アルバムではアップテンポなものからバラードまで幅広く演奏していますが、曲ごとに聴くと言うよりも、一枚通して聴くことでライブの雰囲気を楽しんだ方が良さそうな感じ。静かな夜にものんびりした昼間にもよく似合いそうなアルバムです。ちなみにオリジナルだと4万円くらいする上そこそこレアです。例によって澤野工房からアナログ/CD共にリリースされているので、よほどのマニアの方以外はそちらでお求めください。とは言えアナログだとこの再発でもなかなか見かけませんが・・・。どことなく夏の香りを感じる名盤、暑い夏を涼しく優雅に過ごしたい人にオススメです。
久々にそこそこ高いレコードを買ってしまいました。今や全てのアルバムが人気なSahib Shihabの中でも、ここ1~2年で急激に人気が上がった63年の米Argo盤のステレオ・オリジナルです。米盤と言っても録音自体はドイツで行われているのでヨーロピアン度全開。ドラムのKenny ClarkeやピアノのFlancy Bolandなど欧州ジャズの最強布陣を従えた二管セクステット編成で全曲オリジナルやってます。パーカッシヴなラテン・ジャズ・スタイルで展開するA-2のPlease Don't Leave Meの格好良さと言ったら本当に言葉になりません。10分超という長尺ながら全然気にならないほどの大名演です。特にボランが弾く繊細なピアノの音が僕は好き。メンバー被りありのClarke=Boland Sextet名義で録音されているヴォーカル・ヴァージョンよりも僕はこちらの方が気に入っています。もちろんこの曲以外も全て素晴らしくB-1のモーダルなジャズ・ワルツ名作Waltz For SethやB-3の高速アフロキューバンHerr Fixit辺りも充分にクラブプレイ対応。美しい女性のジャケットと共に彼らの美学の真骨頂が全編から伝わる素晴らしき名盤です。タイトルにもありますが、夏の夜に聴くならこんなジャズがいいですね。有名なので僕なんかが薦めるのも気が引けますがオススメの盤です。ちなみに詳細は分かりませんが80年代に一回再発されているそうなのでチェックしてみてください。
どこか母性を感じさせる暖かなジャケットも印象的なJoyce Coolingの88年にリリースされた1st。前述Rebecca Parrisでも紹介したIt's Youの元がこのアルバムだというのは有名な話ですね。ちなみにSunaga t Experienceによる2000年のカヴァーも未だに人気が衰えません。もちろんこの曲の素晴らしさは言うに及ばないのですが、このアルバムは決してそれだけのものではないと僕は思います。基本的にはブラジリアン・フュージョンながら白人特有のAORっぽさも随所に感じられ、また80年代後半という時代柄クリスタルっぽさも少々・・・。都会的でライトな感覚に全編が覆われたアーバン・リゾートなアルバムに仕上がっているのです。A-2のThe Way OutやB-3のIt's On Youはその好例と言った感じでしょうか?アコーディオンのときめくような音色が美しいA-3のVoo Doo Chickenも最高。暑い夏の日はクーラーのかかった部屋でこんな素敵な曲を聴いて涼みたいですね。ちなみに昨年再びアナログでの再発があったようです。でもCDでは普通に手に入りますが、アナログだと再発でもなかなか見かけないですね。ちなみにオリジナルは・・・未だかつて見たことありません。1000枚のみのリリースのようです。