木洩れ日通信

政治・社会・文学等への自分の想いを綴る日記です。

今に酷似している昭和十年代。映画『ちいさいおうち』

2014年03月01日 | Weblog

「秘密保護法成立」に「集団的自衛権容認」そして「武器輸出三原則緩和」と、安倍政権はどんどん「戦争への道」、標的は中国だが、に前のめりになっているというのに国民はまだこの危機を感じることができず、相変わらずの支持率を誇っているのはなぜ?と私には解釈に苦しむところだが。しかしかつて戦前の日本国民も同じ状態だった。
それが現代と殆ど何も変わらないことを見せてくれた映画作品がある。
山田洋次監督の『小さいおうち』だ。
昭和10年前後、東京の山の手の小さいおうちが舞台だ。
かつてこの家に女中奉公していた女性タキが高齢の今、その時代を思い起こして手記を書いている。
タキにとって最も幸せで輝いていた時代。小さいおうちに象徴されるような中流の市民生活も平穏に営まれていた。
しかしこの時代日本は中国への侵略を強め、満州国建国、南京大虐殺の歴史事実で知られる南京も攻略していた。
だが東京の生活はというと、デパートでは「南京陥落大セール」といった催しが開かれていたのである。
「ちいさいおうち」とは、その頃大都市に建てられるようになったサラリーマン向けの和洋折衷の文化住宅だ。
玄関のすぐ脇に来客用の洋間があり、家族が日常生活する空間は従来の和室。
台所が画期的だ。従来の土間ではなく、板の間で煮炊きのエネルギーは都市ガス。もちろん井戸ではなく蛇口から水が出る。電気冷蔵庫はまだないが、氷を使う冷蔵庫はある。
洗濯は手洗いだが、これらの家事の多くを地方出の女中達がになっていた。
タキの出身地は山形の農村ということになっている。地方と都市の生活格差が今とは比べ物にならないほどあった。
「ちいさいおうち」なのに女中が必要なのかというところだが、この時代のこうした仕事の人件費は安く、農村などの貧しい女性達にしてみれば狭いが女中部屋もあり、食費、住居費はいらず、その家の主婦からお下がりの着物をもらったり、時にデパートへの買い物に付いて行ったついでに食事をお相伴させてもらうこともあったりで、専門的技能を持たない女性の職業として一般的なものだった。
この映画では子供は一人だが、たいてい子供が次々生まれるのでその世話をするためにもお手伝いは必要だった。
主人は玩具会社の重役で、主婦の時子は女学生気分のまだ抜け切らない無邪気な性格である。
正月に会社の男たちがこの家にやって来て洋風の客間で話すことといえば、中国との戦争はすぐ片付いて、その後自分達の作る玩具も中国へ売り込みできて会社がさらに飛躍するだろうという楽観的なもの。
この戦争が抜き差しならないものになって、やがては欧米、特にアメリカとの戦争に発展し、破滅的な最後を迎えて終るだろうなどと誰も予測しない。
時子はそんな男たちの話には全く興味が無いが、その来客の中に画家志望だが生活のためにデザイン部に入って来た青年板倉がいる。彼もまた戦争の話にはなじめない。この板倉と時子はたちまち意気投合する。
この映画の原作は直木賞を受賞した中島京子の「ちいさいおうち」なのだが、原作とは設定がポイント、ポイントで違うらしい。
時子は会社のことで頭がいっぱいの夫に何となく不満を感じていて、それが音楽を聴いたりといった趣味の一致する板倉に惹かれて行く動機になっているが、原作ではもっと決定的な理由が置かれている。
一方、女中のタキも同じ東北出身の板倉に好意を抱くようになる。
板倉はどの女性にも優しく接するタイプの男で、女中のタキにも期待を持たせるところがあった。
板倉と時子は不倫関係になる。しかし板倉に召集令状が来る。最後に板倉に会いに行こうとする時子をタキは止める。
このまま行かせれば、時子は破滅の方を選んでしまう。タキは板倉も好きだが、時子のこともまた好きなのだと私は思ったのだが、それ以上の推測をする感想がネット上にあって、「そうか、そう言われればそれもありか」と思った。
結局時子の「家へいらして」という板倉への手紙をタキが届けることになる。が、タキはそれを板倉に渡さない。よく使われるパターン。
その後タキは米軍が本土を空襲するような事態に至って故郷へ帰る。そして「ちいさいおうち」は東京を襲った山の手の空襲で焼け、防空壕に潜んだ時子と夫も犠牲になる。
山田監督は昭和十年代の人々の身近に迫る「戦争の危機」をキャッチできないのん気さを描き、戦争って突然身に降りかかるようにやって来るんだよとメッセージを発している。
「アンネの日記」本の破損事件、日本社会に不気味な鼓動が響き始めている。
ナチスのユダヤ人絶滅作戦も、南京大虐殺もなかったと、あるいは「それがどうした、関係ない」という確信的行動に思える。

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