当初犯人視された河野義行さんが、松本サリン事件の実行に関わり刑を終えた元オウム信者の藤永宏三さんと交流する様子をテレビのワイドショーで見た。
藤永さんはいかにもいい人、きっと若い頃は物事を真剣に考え、悩み、適当に世渡りをすると言うようなことは下手な人という印象を受けた。
左翼運動が「連合赤軍事件」の無残な結果により退潮したあと、さまよえる若者達をひきつけたのが「オウム真理教」のような修行的宗教集団だった。
そういえば連合赤軍も、陰惨な山中のリンチに関わってしまった若者達は超真面目で、自身の、そして仲間の「共産主義化」を真剣に考えた結果、とんでもない袋小路に落ちてしまった。
連合赤軍のあとに登場した「企業爆破」を企て実行した「東アジア反日武装戦線」のメンバーも実に禁欲的で、遊びより革命だった。
松本サリン事件では、マスコミも警察発表を鵜呑みにし、河野さんを犯人視した報道をし、それを読んだり見たりする受け手もこの流れに乗せられて、河野さんを傷つけた。
15年前に比べるとインターネット等で多様な情報を取ることができるようになったが、私達はどれだけ起こる事件に関して、客観的な見方ができるのだろうか。
少し前、中央大教授殺害事件の容疑者として元教え子が逮捕された。
テレビの報道は、教授の判定で留年させられたり、その後就職したものの職場になじめず、転々としたりした恨みを教授に向けた身勝手な犯行というものだった。
しかしネット上では、テレビでは報道されない角度の視点があった。
容疑者は15年前に両親を亡くし、その後は祖父母がバックアップしていたが、その祖父母も亡くなり、そんな中で留年しなければならなかったわけで、理工系の学費の高さを考えるとその負担は相当なものであっただろうという。結果的に身勝手と言われても仕方ないかもしれないが、教授への恨みは大きかったことだろう。
どんな犯罪にも必ず「動機」がある。それを警察の記者会見では、例えば、「むしゃくしゃしてやった」などという簡単な動機発表しかしない。
それだけ聞かされれば「何だそんな程度のことで殺人を犯すのか」と、容疑者へのマイナスの予断を持つことになるだろう。
警察に作文能力がないのか、ただ面倒くさいからなのか。
それと容疑者の方も初動の取調べに対して、自分の行動や動機をそう簡単に明かさないだろうし、理路整然と動機を説明できるものでもないだろう。
動機の精査をし、犯罪の背景をきちんと解明しないと、裁判員制度はこうした警察や検察や裁判所の持って行く方向への追認制度になるしかない。