なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

肝細胞癌

2024年02月19日 | 消化器疾患

 2月19日(月)の外来予約が入っていた83歳男性が、がんセンターの緩和ケア病棟で亡くなったと報告が来ていた。2月8日付けの診療情報提供書は、最初に紹介した外科医宛に来ていた。

 2018年6月に消化器科の上部消化管内視鏡検査・腹部エコー検査が行われた際に、腹部エコーで肝腫瘍を指摘された。肝炎はなかった。同年7月に当院外科で肝切除術が行われた。(当時は外科医が5名くらいいた)

 2021年12月に右恥骨部の痛みがあり、CTで同部への転移が確認された。手術した外科医はすでに他の病院に移動していて、残った外科医ががんセンターに紹介した。放射線療法が行われて、この転移部はその後も再燃はしていない。

 外科常勤医が不在となり、当方が経過をみていた。2023年5月に腰痛で検査すると第5腰椎への転移があった。またがんセンターに紹介して放射線治療が行われた。

 肝臓内の転移に対しては癌化学療法は希望しなかったため、消化器内科でTACEが行われていた。しだいに腹腔内に腫瘤が散在するようになった。

 2023年9月に肝臓内に腫瘤が複数あり、がんセンターに紹介した。またTACEが行われた。腰椎の病変も進行していた。

 2024年1月11日のがんセンター受診時に黄疸の増悪があり、消化器内科に入院した。その後は緩和ケア科に転科となっていた。

 癌性疼痛の治療とせん妄対策が行われていた。面会制限はなかったので、2月4日家族が見守る中で亡くなったそうだ。

 がんセンターに通院していたが、糖尿病の治療は当院で継続していた。12月に来た時に、もう当院に来ることはないかもしれない、といっていたがその通りになった。

 

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ふつうに通販で買える

2024年02月18日 | 精神科疾患

 エチレングルコールで事件が起きている。そういえば当院でもあった、と思い出した。

 

 2018年11月1日(土)の午後5時過ぎに18歳男性が倦怠感・脱力で受診した。祖父がおぶっての受診だった。当時在籍していた内科専攻医の若い先生(自治医大の義務年限)が診察していた。

 血圧は120/75で体温は35.8℃だが、頻脈(122/分)と頻呼吸(30回以上/分)が見られた。会話はできるが、見当識障害があった。

 血液検査で白血球31700・Hb18.8と炎症反応の上昇・血液濃縮があり、血清クレアチニンは1.75mg/dlと上昇していた。LDHも313と異常値だった。

 血液ガスで、pH6.924・PaO2 137・PaCO2 10.6・HCO3 2.2・BE -27.9と著しい代謝性アシドーシスを認めた。本人からの聴取が困難で原因は不明だったが、若い先生は高次医療機関で治療を要すると判断して、大学病院救急科に搬送した。(内科専門医のホスト病院は医療センターなので、大学病院がだめならそちらに交渉したのだろう)

 大学病院救急科からの返事には、もともと統合失調症があること、エチレングリコールによる急性腎不全と診断して、血液濾過透析を行ったこと、深部静脈血栓症を来してDOACを処方していること、が記載されていた。

 大学病院の精神科に通院していて、抗精神薬(オランザピン)や安定剤が処方されていたようだ。

 

 2019年8月22日には心肺停止で当院に救急搬入された。大学病院精神科に入院していたが、その前日に祖父の家に外泊に来ていた。室内を歩いていて、急に倒れて意識がなくなった。

 救急隊到着時は心室細動を認めて、AEDを使用したが反応せず、心静止となった。心肺蘇生・アドレナリン静注で搬入され、蘇生術を続けたが反応はなく、死亡確認に至った。救急当番の女性外科医(当時)が対応したが、その後は外科のトップの先生が、警察との対応を行った。

 Autopsy imagingでは両側肺に肺水腫を認めた。警察の検視のあと解剖のため大学病院に送られることになった。

 

 祖父の話では、3日前にアマゾンから本人宛に荷物が送られてきていたそうだ。中身はわからない。解剖の結果は来ていないので不明だが、前回のことも考えるとエチレングリコールかもしれない。

 エチレングリコールは、アマゾンでもモノタロウでもふつうに購入できる。

 

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急性心不全

2024年02月17日 | 循環器疾患

 2月16日(金)の午前9時ごろ、病棟で指示出しをしていると心不全の入院が来ると看護師さんがいっていた。呼吸困難の81歳男性が午前7時過ぎに救急搬入されて、昨日当直だった先生が診ていた。

 現在3つの病棟のうち2つでCOVID-19の院内発症があり、急性期病棟だけ今のところ出ていない。ただ落ち着いている患者さんを地域包括ケア病棟やリハビリ病棟に回せないので、週明けまではできるだけ新規入院は避けたい状況だった。

 

 患者さんは急性心筋梗塞の既往があった(ステント留置)。当院の循環器科に通院していて、担当医が開業する時に自分のクリニックに紹介としていた。(当時は循環器科があったが、現在は閉科)

 酸素飽和度が60%台(室内気)で、酸素マスク10L/分投与で90%台になっていた。血圧は201/117mmHgと高値で、血管拡張薬や利尿薬が効きそうではある。

 救急隊も陳旧性心筋梗塞・急性心不全と判断したので、地域の基幹病院へ連絡したが、満床で受け入れ困難だった。当直の内科の先生は循環器疾患は嫌いではないらしい。急変の可能性は家族(兄弟)に伝えていた。

 胸部CTで見ると、両側肺に肺水腫を認めて(胸水も軽度)、教科書に載せたいような急性心不全像だった。

 

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レジオネラ肺炎

2024年02月16日 | 呼吸器疾患

 2月15日(木)に感染管理ナースから、レジオネラ肺炎がありました、と報告がきた。2月14日(火)に入院した70歳男性だった。

 2月13日から40℃の高熱があり、悪寒もあった。咽頭痛、咳・痰があった。発熱外来でコロナとインフルエンザの迅速検査が陰性と判明して、内科外来に回された。

 高血圧症・糖尿病・高脂血症などで当院の内科外来に通院していて、担当医がちょうど外来に出ていた。血液検査で炎症反応の上昇(白血球11600・CRP)があり、画像検査で右肺炎を認めた。

 入院してセフトリアキソンが開始されたが、高熱が続いた。15日は呼吸器外来(大学病院から応援医師)があり、そこで相談していた。入院時にしていなかった肺炎球菌とレジオネラの尿中抗原検査を行うと、レジオネラが陽性だった。

 入院時の検査を見ると、筋原性酵素がCK 254で、肝機能がAST 65・ALT 60と上昇して、血清ナトリウムが133と低下している。腎機能はふだんも血清クレアチニンが1.15程度だが、1.51と上昇している。

 消化器症状は下痢などはなく、食事摂取もできなくはない。入院翌日に頭部CTを撮影したので、軽度の意識障害があると判断したのかもしれない。(高熱があるので、それだけの影響かもしれないが)

 一応レジオネラ肺炎を疑うヒントはあった、ということになる。画像に奇異な印象があると思っていたといっていたので、通常のβラクタムで数日診て効果がなければ、非定型肺炎の治療にはなったのだろう。

 抗菌薬をレボフロキサシン(点滴静注)とアジスロマイシン(経口)に切り替えて、レジオネラ肺炎の治療が開始された。患者さんは温泉には行っておらず、循環式のお風呂でもないそうだ。

 

 病棟で担当の先生に、レジオネラ肺炎はどのくらいありますか、と訊かれた。年に1例くらいでしょうか、とお伝えした。

 別の内科の先生は急性肺炎の患者さんは全部肺炎球菌とレジオネラの尿中抗原を出していて、それでレジオネラがひっかかったりしている。それをお伝えすると、私もそうしようかな、といっていた。

 

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院内勉強会~インフルエンザ

2024年02月15日 | インフルエンザ

 今日は感染管理の院内勉強会があり、インフルエンザの話をすることにした。

 外部から講師を招くと講演料が発生するので、自前でやるように、といわれている。

 以前は、大学教授10万円・准教授7万円・講師5万円という決まりだった。大学以外の病院の先生だと、それのどこ辺に相当するかで決めていた。(たとえは准教授相当なら7万円など)それに交通費が加わる。

 「感染管理」と「病院安全」では年に2回は院内勉強会を開くことになっている。「安全」の方は、無料で入手できるDVDを持ってきて週に何回か会議室で流して、都合のいい時に視聴することにしている。

 「感染管理」の方はCareNeTVのDVDを流したこともあったが、研修医向けなので、病院職員には面白くない。仕方なく、講演で呼びたかった先生の著書を当方が読んで要点だけお伝えする、ということにしている。

 勤務時間内に行うので、見に来れる職員はほぼいない。ICTのメンバーがお付き合いで見て、あとはDVDにして適当に視聴してもらうことになる。

 今回は「インフルエンザ診療ガイド2023-2014」(日本医事新報社)菅井憲夫編著にした。(うすい本なので5回読んだ)そのままだと面白くないので、医学用語の語源などの小ネタを入れたりしている。

 

 内科学会雑誌の内科100年のあゆみにインフルエンザの歴史が載っていた。その「はじめに」の部分がわかりやすい要約になっている。

 

 突然我々の前に現れるインフルエンザは、狭い地域からより広い地域、県・地方・国を越えてその流行はあっという間に広がり、学校や仕事を休むものが急増し、当直医は休む間もなくなる。

 内科領域ことに高齢者を扱う施設では肺炎の入院数が増え小児科では熱性痙攣・脱水・脳症の入院数が増加する。

 我が国のインフルエンザの流行状況は、毎年11月頃に小流行があり、年末年始で一時減少するかのように見えるが、年明けとともに大きな流行となり、4~5月にかけて減少していくというパターンである。

 しかしその規模の大小、ピークの時期などについては、その年によって異なっている。

 日本内科学会雑誌 創立100周年記念号 第91巻第10号・平成14年10月10日

   国立感染症研究所感染症情報センター 岡部信彦先生

 

 小ネタというのは、こんなスライド

 

抗ウイルス薬には、「ウイルスvirus」の「ビル-vir」がつく

 コロナの薬

  レムデシビル(ベクルリー)

  エンシトレルビル(ソコーバ)

  ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)

  モルヌピラビル(ラゲブリオ)

 抗インフルエンザ薬 

  ノイラミニダーゼ阻害薬 (-amivirまで同じ)

   オセルタミビル(タミフル)

   ザナミビル(リレンザ)

   ラニナミビル(イナビル)

   ペラミビル(ラピアクタ)  

  RNAポリメラーゼ阻害薬

   バロキサビル(ゾフルーザ)  

   ファビピラビル(アビガン)

 

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CTでコロナと診断

2024年02月14日 | 糖尿病

 2月13日の午後に地域包括ケア病棟の看護師長さんから、入院している86歳男性がコロナ(COVID-19)を発症した、と報告が来た。

 別の内科の先生が1月9日から入院治療をしていて、すでに1か月以上入院している。13日にリハビリ病棟でコロナ罹患と判明した患者さんはずっと家族の面会がないが、こちらの患者さんは時々家族が面会に来ていた。

 

 1月9日は尿路感染症として入院した。抗菌薬投与(セフトリアキソン)で解熱軽快して、炎症反応も軽快していた。明らかな肺炎像がなく、胆道感染症なども否定的で、除外診断としての尿路感染症だった。

 CRPが入院時の26.4が、10前後に低下したが、その後横ばいとなったのを気にしていたようだ。尿培養はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)が検出されている。多分コンタミで起炎菌とはし難いが、疑心暗鬼的になり、バンコマイシン投与を開始していた。

 平熱~微熱で推移して、改めて感染症の有無を検索しようとして、2月13日に胸腹部CTを行っていた。すると、胸膜直下に散在する、いかにもコロナ(COVID-19)という陰影が描出された。

 SARS-CoV-2の迅速PCR検査を提出すると陽性だった。食欲低下もあり、抗ウイルス薬はレムデシビル点滴静注を開始した。

 右肺に胸水貯留があり、無気肺像を伴っている。心不全というよりは感染症(肺炎・胸膜炎)が疑われる。炎症反応がくすぶっていたのは、これが原因だったのかもしれない。こちらは誤嚥性肺炎に準じた抗菌薬投与となる。

 

 別な病棟で関連はない。それぞれの病棟スタッフで発熱など症状がある人はいない。無症状感染者は検査をしないと把握できない。(厳密には全員検査になってしまう)

 2か所の病棟でCOVID-19の患者さんが出ると、入院が制限されて困ったことになる。

 

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貧血Hb3.7g/dL

2024年02月13日 | 血液疾患

 2月9日(金)、27歳女性が入院してきた。20歳代の入院は珍しい。20歳代の入院だと、大抵はインフルエンザで高熱・食欲不振とか、急性腸炎で下痢頻回・食欲不振などウイルス感染症になる。

 

 今回は極度の貧血だった。前日の外来で診た先生が、2日間入院して輸血をすることにしていた(濃厚赤血球2単位を2日行う)。

 精神科の診療所に通院していて、処方は抗精神薬・抗うつ薬・抗不安薬3種、それに抗てんかん薬(気分安定薬として?)とかなりの種類・量が出ている。

 東京の大学に行っていた時からの精神科に通院していたようだ。担当医が埼玉県の診療所に転勤したので、通院もそちらに替えていた。貧血を指摘されて、内科を受診するようにいわれたらしい。

 症状は立ちくらみ、動悸だった。Hb3.7g/dLと重度の貧血だが、白血球・血小板は正常域で、白血球分画も問題なかった。MCVが65.5と小球性貧血で、血清鉄4μg/dL・血清フェリチン1.5ng/mLと鉄欠乏貧血で間違いない。

 消化管出血や過多月経などはなさそうで、摂取不足らしい。身長160cm・体重64kgで現在はやせていないが、40kgだったこともある。摂食障害なのかもしれない。

 ここまで下がると、たまたま消化管出血などが併発するとショックで致命的になる。とりあえず、輸血でHbを5~6g/dlくらいにはしたい。輸血をする2日間だけの入院で、その後は外来で鉄剤を連日静注で投与することにしていた。

 精神科の主治医はいるので、内科では貧血だけ担当すればいい、ということになる。精神科の部分に関しては、内科では到底手に負えない。

 

 3連休だったが、病院からまったく連絡がなかった。金曜日は外部の先生が当直に来るまでの遅番をしていた。金土と内科の当番だったが、入院はなかった。(連休中病棟はいっぱいで入院不可となっていたが、受診後に要入院となることもある)

 入院の誰かが発熱して連絡がくることが多いが、それもなかった。ただ、昨日長期間透析で入院している患者さんが高熱を出してCOVID-19と判明した。職員からの感染が疑われた。(当方の担当患者も同室だった)

 

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痰が詰まった

2024年02月12日 | 呼吸器疾患

 2月9日(金)に腎臓内科の先生にパーキンソン病の治療について相談された。相談というよりも自分の判断を確認するために訊いてみたということのようだ。

 

 患者さんはパーキンソン病で当院の脳神経内科外来(大学病院からの応援医師担当)に通院していた。処方はパーキンソン病の処方がほぼフルで入っている。認知症もあり、認知症薬と抗精神薬も出ていた。

 1月14日(日)に肺炎で救急要請して、地域の基幹病院に搬入されていた。酸素10L/分でも酸素飽和度が90%未満で、たぶん最初に当院に依頼が来たはずだが、対応困難ということで断ったのかもしれない。

 両側肺、特に右肺の浸潤影が広範に広がっていた(誤嚥性肺炎)。気管挿管・人工呼吸ではなく、NPPVで対応していた。2週間の抗菌薬投与でしだいに軽快して、ネーザルハイフローを経由して、酸素量が漸減されて、酸素吸入から離脱できたとある。

 経口摂取は困難で、経鼻胃管による経管栄養が行われていた。その状態で当院に2月7日転院してきた。リハビリ・療養転院は内科系医師が順番に受けている。

 聴覚言語療法士による嚥下評価から始まったが、喀痰が多く、頻回の吸引を要していた。2月9日に担当医が診察した後に、痰が詰まったらしく、呼吸停止状態になった。

 すぐに気管挿管・人工呼吸が開始された。自発呼吸はあるが、抜管するとまた痰が詰まる可能性があり、連休明けの気管切開を考慮しているという。

 

 訊かれたのは、パーキンソン病の治療(点滴静注への変更)だったが、実際は先方の病院での対応が記載されていた。レボドパ製剤の点滴静注(ドパストン注)と ドパミンアゴニストの貼付剤が使用されていた、とある。

 点滴は末梢からだが、CVカテーテルを挿入して高カロリー輸液に切り替えていくという。経鼻胃管はそのままにして、薬剤投与だけ行うようだ。すでに関節拘縮があり、はたしてこの病状で大量のパーキンソン薬の投与はどれほど効果があるのだろう、と思ったらしい。

  

 急性期病棟はかなりの入院数のところに、COVID-19の患者さんと人工呼吸の患者さんをみるので、週末は大変だった。(地域の基幹病院は、当院なりの集中治療しているような患者さんばかりでなので、職員数は多いとしてもさらに大変なのだろう)

 

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非結核性抗酸菌症疑い、その後

2024年02月11日 | 糖尿病

 1月27日に記載した「非結核性抗酸菌症の疑い」の86歳女性のその後。

 呼吸器外来に来てもらっている先生に相談して、基礎に非結核性抗酸菌症(NTM)が疑われる、ということだった。ただ、画像からは通常の細菌性肺炎の併発があるかどうか判別できない。

 まずは細菌性肺炎の治療で経過をみることになった。スルバシリン(ABPC/SBT)の投与を開始した。解熱して炎症反応も軽減した。経過からみて通常の細菌性肺炎があったことは間違いない。(喀痰検査ができなかった)

 白血球は24100→10600→8900、CRPは11.3→1.7→0.6と軽快した(1月25日、1月29日、2月1日)。悪化してないかみるために、2月1日に胸部X線をみたが、単純X線でも陰影の軽減を指摘できた。

 2月7日(2週間後)に胸部CTを再検査した。初診時(1月25日)と比較して、陰影は軽減していた。

 放射線科の読影レポートには「ご指摘の非結核性抗酸菌症などの慢性気管支炎の所見があり、陰影は軽減している」とあった。肺陰影があるので、気管支炎ではなく何らかの肺炎だが。

 抗菌薬投与は10日間行った。食事摂取は思った通り、ちゃんと目の前に食事があれば食べられる。四肢の筋肉、とくに下肢の筋肉は極端にやせ細っているが、リハビリも開始した。

 

 Tスポットを提出すると陰性だった。そういえば、NTMの血液検査もあったと思い出した。肺MAC症の検査として、キャピリアⓇMAC抗体 ELISAがあった。

 すでに2011年から保険診療で使用できたが、出したことはなかった。下記は亀田総合病院呼吸器内科の中島啓先生が「亀田流呼吸器道場」に書かれていた。 

 

非結核性抗酸菌症(MAC)の抗体診断:キャピリア®MAC 抗体 ELISA

中年以降の女性が、慢性的に咳嗽や喀痰などの呼吸器症状があり、胸部CT上、中葉舌区に気管支拡張や小葉中心性粒状陰影を認める場合は、肺MAC(Mycobacterium avium complex)症が疑われます。
喀痰で菌が検出されず、気管支鏡で確定診断をつけにいく場合がありますが、気管支鏡でも菌の検出は必ずしも容易ではなく、高齢者のため気管支鏡が躊躇されるケースがあります。

そのような場合に、血液検査でMACの補助診断が可能になりました。
2011年8月からキャピリア®MAC 抗体 ELISA として保険診療で使用することができます。

亀田総合病院でも、外注で使用できるようになっており、まとめてみました。

概念

・キャピリア®MAC 抗体 ELISAは、非結核性抗酸菌の細胞壁を構成する糖脂質抗原であるGPL(Glycopeptidolipid)の部分において、結核菌やM.kansasii菌以外の非結核性抗酸菌が共通に持つGPL-coreを抗原とする血清中のIgA 抗体を測定する方法である。

GPL(Glycopeptidolipid)とは?

・GPL は従来、MACの血清型を規定する抗原であることが知られてきた。MACの血清型はSchaeferらの分類によると28種類あるとされており、地域的な分布の差異や、病原性の違いが報告されている。
(American Review of Respiratory Disease. 1965 ; 92 (Suppl.) : 85_93.)

・血清型は共通部分であるGPL-coreのスレオニン残基に結合する各血清型特異な糖鎖によって規定される。GPL-coreは血清型やM.avium, M.intracellulareの菌種にかかわらず共通した抗原性をもつことかが確認されている。

・結核やM.kansasiiの細胞壁には存在しないが,M.abscessus,M.chelonae,M.fortuitumなどの迅速発育菌にGPLを有する菌種が存在することには注意が必要である。

成績

・本邦の多施設共同研究では、肺MAC患者70名、肺結核患者、37名、その他の肺疾患患者45名、環境からの混入と考えられた者18名、および健常者76名を対象とし、血清抗体価は肺MAC症群で有意に上昇しており、カットオフ値を0.7U/mLとすると肺MAC症の診断的有用性は感度84%、特異度100%であった。
(Am J Respir Crit Care Med. 2008 ; 177 : 793_7.)

・本邦で行われた関節リウマチ患者の気管支病変とMAC症との鑑別に関する研究では、63名の関節リウマチ患を対象とし血清抗GPL-core IgA抗体価が測定された。対象の内訳は、肺MAC症 14名、MAC以外のNTM症 3名、気管支拡張所見を有する患者 16名、胸部異常所見のない患者 30名で、カットオフ値を0.7U/mLとすると、感度47%、特異度100であった。

(Mod Rheumatol. 2011;21:144-9)

・米国で行われた検討では、肺MAC症 100名、健常ボランティア 52人を対象とし、カットオフ値 0.3U/mLでは感度 70.1%、特異度 93.9%であった。一方で日本で使用されているカットオフ値 0.7U/mLを当てはめると、感度51.7%、特異度93.9%と感度が低値であった。著者らは、カットオフ値 0.7U/mLの感度が低くなった原因として、対象とした患者の菌種の違い、疾患活動性、異なる人種で行った事を挙げている。

(Eur Respir J. 2013 Aug;42(2):454-60.)

最後に

キャピリア®MAC 抗体 ELISAは、特異度は高いが、感度は十分に高いとは言えず、たとえ, 検査が陰性でもMAC症を否定できるものではなく, あくまでも補助的診断と位置づけるべきである。また、環境中のMAC暴露による偽陽性の報告もある。

・菌種の同定や感受性検査のためにも、基本的には、喀痰培養や気管支鏡検体による培養が重要と考えられる。

参考文献

北田清悟ら。3.MAC症診断における血清診断法(妥当性と臨床データ)。結核 第87巻 , p439-441; 2012年

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膝関節偽痛風

2024年02月10日 | 整形外科疾患

 2月6日(火)の午前中は救急当番で、89歳女性が救急搬入された。デイサービスに行っていたが、ふらつき・脱力があり、体動困難だという。

 急性期病棟の入院が厳しいベット事情だったが、前日にも当院に救急搬入されているという。確認すると、確かに前日に搬入されていた。前日帰していることもあり、来てもらうことにした。

 

 5日(月)は左膝痛を訴えて、動けないための救急搬入だった。その日も入院が厳しく、診察だけということでの搬入だった。受け入れが決まった後で、発熱があるという情報が入っていた。

 発熱38.4℃があった。インフルエンザとコロナの迅速検査は陰性だった。前頭部を打撲していた。頭部CTと膝関節X線が施行された。頭部CTでは頭蓋内出血はなかった。

 血液検査で白血球10800・CRP0.5と急性期の像を呈している。胸部X線や尿検査はしていないが、尿路感染症疑いとして、レボフロキサシン(小柄ということで250mg)が処方されて、帰宅となっていた。

 この患者さんは息子と二人暮らしで、翌日は発熱がないため?、いつも通りにデイサービスに出かけていた。

 

 前日の画像を確認すると、両側膝関節に関節内石灰化がある。頭部CTの骨条件で軸椎の歯突起周囲に石灰化がある。頸椎偽痛風(crowned dens syndrme)になってもおかしくない。

 搬入時に訊くと、両側の膝関節は痛くないという。触診しても熱感・腫脹はなかった。屈曲もできる。前日の痛みがなくなったのが不思議だった。

 血液検査は白血球10900・CRP4.8と、CRPが遅れて上昇してきていた。尿検査は導尿で培養も含めて提出したが、沈査で白血球30-49/HPF・細菌(3+)と膿尿・細菌尿を認めた。ただ高齢女性なので、無症候性の可能性もある。(レボフロキサシン内服後ではある)

 肺炎の有無と尿路系の異常を見るために、胸腹部CTを行った。肺炎像はなく、尿路系にも閉塞を来す病変などの異常はなかった。

 

 急性期病棟のベットをやりくりしてもらって、午後に入院できることになった。尿路感染症(急性腎盂腎炎)疑いとして、セフトリアキソンを開始した。

 翌7日は左膝関節の痛みを訴えていた。前日と違って、左膝関節に熱感・腫脹があった。腫れてぷよぷよしている。いったん痛みや所見が軽快してぶり返した経過がわからない。

 膝関節偽痛(関節炎)としてNSAID内服(セレコキシブ)と湿布貼付を開始した。(頸椎や手関節の痛みはなかった)

 

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