なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

「検査値を読むトレーニング」

2019年01月27日 | Weblog

 「検査値を読むトレーニング」本田孝行著(医学書院)を購入した。著者が内科学会講演会で「左方移動」の講演をされた先生と分かったので、即購入。研修医に絶対お勧め。

 ルーチン検査は13項目ある。

 1)栄養状態はどうか(アルブミン、総コレステロール、コリンエステラーゼ)

 2)全身状態の経過はどうか(アルブミン、血小板)

 3)細菌感染症はあるか(左方移動)

 4)細菌感染症の重症度はどうか(左方移動の程度)

 5)敗血症の有無(血小板、フィブリノーゲン)

 6)腎臓の病態(クレアチニン、尿素窒素、尿酸、尿検査、Ca、P)

 7)肝臓の病態(ALT、AST、AST/ALT、ビリルビン、肝臓での産生物質)

 8)胆管・胆道の病態(ALP、γ-GTP、直接ビリルビン)

 9)細胞障害(LDH、CK、ALT、AST、アミラーゼ)

 10)貧血(Hb、MCV、ハプトグロビン、網赤血球、エリスロポエチン)

 11)凝固・線溶の異常(PT、APTT、フィブリノーゲン、D-ダイマー、アンチトロンビン、血小板)

 12)電解質異常(血清Na、血清K、血清Ca、血清P)

 13)動脈血ガス(pHからアシデミアかアルカレミアを判断する、呼吸性か代謝性かを判断する、Anion gapを求める、補正HCO3値から、代謝性アルカローシスを判断する、一次性酸塩基平衡に対する代謝性繁華を判断する、総合的に判断する)

 

 そのうち、3)細菌感染症はあるか(左方移動)が面白い。

 「白血球およびCRPは感染症治療に役立たないと考える専門家も多い」(具体的に青木眞先生の本を引用)。それは、「多くの細菌感染症において白血球数は増加するが、感染初期や重症例では低下するので、白血球数で細菌感染症の有無を判定できない」、また「CRPは2~3日前の状態反映しており、タイムラグを考慮する必要がある」という。

 「しかし、白血球分画において左方移動を認めれば、細菌感染症と判断できる」。左方移動とは、白血球分画で、桿状核球の割合が15%以上になること。軽度左方移動は桿状核球が分葉核球の半分より少ない、中等度左方移動は桿状核球が分葉核球の半分より多い、高度左方移動は桿状核球が分葉核球より多い。

  

 好中球の体内分布と動態。血液中の好中球は、循環している好中球数(循環プール)を1とすると、脾臓・肝臓・肺などの毛細血管上に待機している好中球数(滞留プール)も1で、骨髄にはその40倍の好中球が貯蔵(骨髄プール)されている。好中球は、骨髄芽球から末梢血に出るまで7~10日間かかる。血管内滞留時間は数時間で、好中球は1日4~5回総代わりする。

 細菌感染初期は、循環プール+滞留プールの好中球が細菌に対応し、骨髄プールから供給されないので、血中の白血球数は減少する(細菌感染症のこの時期に検査されることは少ないので、感染初期に白血球数(好中球数)が減少することは意外に知られていない)。

 感染12~24時間後から骨髄プールの供給が始まるが、大量に消費されると貯蔵好中球はすぐに枯渇する。骨髄プールには循環プールの40倍の好中球があるが、分葉核球が消費されると、桿状核球・後骨髄球・骨髄球の順序で幼弱好中球が血中に出現し、これが「左方移動」。したがって、左方移動は骨髄プールにおける好中球枯渇を意味し、好中球を消費する細菌感染症を示唆する。

 左方移動が生じているとき、骨髄プールにおいて好中球の十分な蓄えがなくなるので、骨髄は好中球の産生を増加せざるを得ない。したがって、左方移動の程度は骨髄での好中球産生状態を表し、左方移動が高度であれば高t髄での好中球差産生が盛んであると判断できる。

 血中の白血球数(好中球数)は、骨髄からの好中球の供給量と細菌感染巣での消費量のバランスによりきまる。白血球数が基準範囲を超えていれば、細菌感染巣に十分な好中球が供給されており、基準範囲内もしくは下回れば細菌感染巣で必要とする好中球を供給できていない。

 

 左方移動と白血球数により、細菌感染症の病態は、以下の4つに分けられる。

1)左方移動なし+白血球増加  好中球消費はない。細菌感染症以外の原因(副腎皮質ホルモン投与、高サイトカイン血症など)で好中球が増加している。滞留プールから好中球が供給されている。

2)左方移動なし+白血球減少  好中球の消費があるが、骨髄が好中球産生を亢進していない。細菌感染症の初期。

3)左方移動あり+白血球増加  好中球の消費亢進があり、骨髄で好中球産生が亢進している。細菌感染症があり、必要な好中球の供給が行われている。

4)左方移動あり+白血球減少  好中球の大量消費があり、骨髄で好中球産生が亢進している。細菌感染症があるが、好中球の供給が不十分で患者は危険な状態である。

 

 左方移動を認めても細菌感染症でない場合(細菌感染以外の原因による血中の好中球減少)は、1)ウイルス感染症、2)無顆粒球症。

 左方移動を認めない重症細菌感染症は、1)感染性心内膜炎、2)細菌性髄膜炎、3)膿瘍。

 

 検査値を読むトレーニング: ルーチン検査でここまでわかる

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