なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

ゾフルーザはXO

2019年01月19日 | Weblog

 昨日は医師会の講演会に行ってきた。新規抗インフルエンザ薬の話で、講師は東北医科薬科大学の関雅文先生。ゾフルーザ・ラピアクタを販売している塩野義製薬の共催だった。専門の先生にゾフルーザの話を聴きたいということで、開業医の先生方が多数出席していた。

 今年はインフルエンザA型のN1H1pdm09(新型インフルエンザ)が72.6%、H3N2が24.5%と、単純な流行状況になっている。H1は若い人が罹って高熱になる、H3は高齢者が罹ってあまり高熱にならないという特徴がある。昨年(2017~2018)はA型B型同時流行パターンで、むしろB型の方が少し早く出た。

 沖縄など暖かい地域では夏でもインフルエンザに罹ると言われていたが、東北でも冬に限らず、春夏秋もインフルエンザが発症している。お盆の時期に学級閉鎖になったこともあるそうだ。気道分泌物(ムチンなど)付きなら湿度に関係なく、新鮮なウイルスでも1時間放置ウイルス(agedという)でも感染性がある。

 年少者では脳症が、高齢者では肺炎が危険だが、圧倒的に後者の問題が大きい。インフルエンザ関連肺炎は、原発性(ウイルス性)よりもウイルス性+細菌性の混合型、さらには二次性細菌感染型の頻度が高い。日本呼吸器学会ではインフルエンザ・インターネット・サーベイを行っていて、重症インフルエンザは70~80歳代が多い(前後の60歳代、90歳代も多いが)。重症になるほど治療は難しいので、ワクチンによる予防や早期診断・早期治療が重要だ。

 抗インフルエンザ薬の使用指針(2014年改訂)では、入院の重症と肺炎合併ではオセルタミビル(タミフル)とペラミビル(ラピアクタ)を使用、入院の肺炎合併なしと外来ではオセルタミビル・ラニナビル(イナビル)・ザナミビル(リレンザ)・ペラミビルの4剤を使用となっている。

 小児科医はB型に効果がある、ザナミビル(リレンザ)を使用しているそうだ。60歳以上では30%でペラミビル(ラピアクタ)が使用されていて、以前インフルエンザで入院した既往があったり、体力がなさそうな高齢者ではペラミビルをお使い下さいということだった。

 重症インフルエンザにおけるNA(ノイラミニダーゼ)阻害薬の早期導入効果の点では、48時間以内の使用が望ましい。NA阻害薬の併用は単剤使用と変わらない。(重症ではラピアクタ+ゾフルーザ併用はあるという)

 さて(満を持して)パロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)の話になる。インフルエンザウイルスは宿主(人)のmRNAを切断して、そこにウイルスmRNAをくっ付けて増殖していく。ゾフルーザはウイルス特有のキャップ依存性エンドヌクレアーゼを選択的に阻害して(宿主のmRNAの)切断を阻止する。要するに、人のmRNAがウイルスmRNAに乗っ取られないようにしてウイルスの増殖を抑制する。

 ゾフルーザのインフルエンザウイルスに対する増殖抑制作用は、他のNA阻害薬と比べて、1桁から2桁上まわっている。タミフルはB型に弱いが、ゾフルーザはB型にも強い。ゾフルーザはタミフルに対して、インフルエンザ罹病期間は非劣性、つまり同等という結果が出ている。しかしこれは咳・痰など7項目の症状で判断したためで(気管支炎の症状は残る)、重要な症状である発熱に限れば有意差が出ている。ウイルス力価陽性患者の割合ではタミフルを上回っていて、感染力を低下させる(周囲に感染が広がらない)。ウイルス排出停止までの時間が短くなれば、発症後5日間は休むという規定も変わるかもしれないという。ゾフルーザの副作用は下痢くらいであまり問題にならないそうだ。変異の問題についてはちょこっとだけ話が出た。

 ゾフルーザXOFLUZAは、インフルエンザにXO(熟成7年以上のウイスキーに付いているあのXO Extra Old)を付けたネーミング。関先生は実際に重症患者を自分で診療しているので、評論家的な感染症科医のように症例を選んで使用しましょう的な話はしない先生だ。

 

 昨年末に塩野義製薬が当院で医局説明会を開いて、ゾフルーザの宣伝をしていた。通常新薬は1年間状況をみてからということが多いが、複数の先生方から使ってみたいという声があった。薬事委員長をしている先生からも、自分が出すのもはばかられるので、申請を出してほしいと言われて、とりあえず臨時薬として入れることになった。

 今年になってインフルエンザが流行りだしたが、日直当直の先生方がゾフルーザをどんどん処方していた。特に大学病院からバイトに来ている先生方の処方が多い。開業医の先生方も処方していて、テレビでも取り上げられているので患者さんからも言われるそうだ。

  塩野義製薬の話では出荷制限になりそうなくらい生産が追い付かず、24時間体制で操業しているという。今シーズン使用されて、評価が定まるのだろう。

 

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする