なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

トルソー症候群

2016年08月23日 | Weblog

 基幹病院腫瘍内科から68歳女性が転院してきた。今年の4月に内科医院からの紹介で当院を受診している。腹部CTで肝膿瘍を認めた。胆嚢が描出されず、胆嚢癌からの肝床部へ進展(穿通)して肝膿瘍を形成した疑いがあった。家族の希望で、肝臓専門医のいる地域の基幹病院へ紹介となった。肝臓専門医というのは肝炎の専門医なので、本当は消化器科の中でも胆膵の専門医の扱いになる。そちらの専門医もいるので紹介は正しかった。

 精査の結果、胆嚢癌・肝膿瘍(穿通性)・胆嚢十二指腸樓瘻と診断された、手術は不可能で、腫瘍内科で化学療法が開始された。されたが、脳梗塞を発症してしまい、化学療法はそこで中止となった。寝たきり状態となり、経口摂取できなかった。脳梗塞は癌によるトルソー症候群と診断された。鎖骨下静脈からCVカテーテルが挿入されていたが、カテーテルに血栓形成して右上肢の浮腫が発症した(カテーテルは抜去された)。NGチューブによる経管栄養が開始されて、後は感染症の治療をしながら経過をみるしかなくなった。

 そして今日当院へ転院してきた。看取りまでお願いということだった。経管栄養で1日800Kcal入っていた。全身浮腫があり、末梢の血管からの点滴は不可能だ。採血も動脈からしなとれない。夫の話では、時々発語があるそうだが、会話にはならない。

 転院依頼の電話が来たときに、トルソー症候群と言われて、あれなんだっけと最初思いつかなかった。トルソー症候群は悪性腫瘍に伴う血液凝固亢進による脳卒中(脳梗塞)だった。非細菌性血栓性心内膜炎による心原性脳塞栓が一番多いという。鎖骨下静脈の挿入したカテーテルに血栓形成したのも同じ機序だろう。

 夫には、当院で最期までみることになると伝えて、DNRの書類を作成した。併発する感染症や血栓塞栓症次第だが、あとどのくらいもつだろうか。

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