読書日和

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「居酒屋ぼったくり3 」秋川滝美

2015-05-06 22:20:27 | 小説
今回ご紹介するのは「居酒屋ぼったくり3」(著:秋川滝美)です。

-----内容-----
東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。
名に似合わずお得なその店には、旨い酒と美味しい料理、そして今時珍しい義理人情がある-
旨いものと人々のふれあいを描いた短編連作小説、待望の第3巻!

-----感想-----
※「居酒屋ぼったくり」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「居酒屋ぼったくり2」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

今作は以下の六編になっていました。

猫の絆 人の絆
本来の価値
距離の取り方
木枯らしが吹く季節
冬が終わりを告げる日
再会の春

「猫の絆 人の絆」
季節は秋
「ぼったくり」にはアキラ、カンジの電気製品取付会社に勤める二人に、トク、ウメのシニア陣も来ていました。
この日のぼったくりのお勧めは牡蠣(カキ)。
牡蠣が好きなアキラは喜びますが、その横で牡蠣が苦手なカンジはちょっと困った顔をしていました。
私も牡蠣があまり得意ではないのでこれはすごくよく分かります。

「牡蠣を洗うのに片栗粉や塩水を使う方法もあるらしいけれど、美音はできる限り大根おろしを使う」とあって驚きました。
そして牡蠣特有の生臭さを抑える効果を期待してのこととあってなるほどと思いました。
そんな工夫があるのかと思います

牡蠣があまり得意でない私でも、美音が作った「牡蠣のベーコン巻き レモンたっぷり」は美味しそうに見えました。
”強火でしっかり焦げ目がついたベーコンのかりっとした歯触りのあと、牡蠣の柔らかい食感がくる。乾煎り(からいり)して水分を飛ばしたおかげで濃縮された牡蠣のエキスは、まさに『海のミルク』と呼ぶに相応しい味わいだった。”とあり、これは興味を惹きます。

「ぼったくり」にやってきた要から、この街に商業ビル、もしくはショッピングセンターのようなものが建つかも知れないという情報を聞いた美音。
最初はピンとこなかった美音ですが、ビルにテナントとして新しい店がいくつも入ったり、お年寄りがそのビルに引っ越したりした場合の影響は大きなものになりそうです。

この町が変わっていくかもしれない。
何十年と同じ町並みのまま、みんなが兄弟か親子のように助け合って暮らしてきた。
そんな町であっても、永遠にそのままという保証はない。
外からの力で変わらざるを得ないこともある。


要も美音も、杞憂に終わってほしいと思っていました。


「本来の価値」
トモという都内の大きな百貨店の服飾雑貨売り場に勤めている女性が登場。
このところ外食やコンビニで買ったものばかりになっていたトモは、たまにはちゃんとしたものを食べなくてはと思い久しぶりに「ぼったくり」にやってきました。
トモは本日のおすすめ料理である「芋煮」を注文。
芋煮は豚汁のようなもので、「川原で大きなお鍋を持ち出して作る奴」とありイメージが湧きました。
トモがメニューの「芋煮」を見て里芋の煮っ転がしを思い浮かべたのと同じく、私も最初に芋煮を見た時は煮っ転がしを思い浮かべました。

芋煮には醤油味と味噌味があります。
山形の内陸部では牛肉を使った醤油味、同じ山形の海岸部、そして宮城や福島は豚肉で味噌味となっているとのことです。

トモのすぐ後にやってきたアキは山形県出身です。
そして実家は内陸部のほうらしく、トモが食べていた醤油味を「うち風」と言い、味噌味のほうは「あっち風」と言っていました。
「芋煮としては絶対うちのほうが本流」と言うアキが、何だか「広島風お好み焼きが絶対本流」と言う人みたいで面白かったです(笑)

この話に出てきた「発泡性日本酒」は美味しそうで、私も飲んでみたいと思いました。
日本酒なのにまるでシャンパンのように発泡している酒とのことです。
トモとアキが飲んだのは「松竹梅 白壁蔵(しらかべぐら) 澪」という発泡性日本酒でした。

杜氏(とうじ)という言葉は初めて聞きました。
調べてみると杜氏とは日本酒の醸造工程を行う職人集団、すなわち蔵人(くろうど)の監督者であり、なおかつ酒蔵の最高製造責任者のこととありました。

美味しそうな食べ物もどんどん出てきて、「伊勢うどん」はまだ食べたことがなくて興味深かったです。
またパリパリのチキンソテーは、フライパンで焼いている描写を見るだけで食べたくなりました。
作中のようにレタスを巻いて食べるのもかなり美味しそうです。

要は今作でもそれぞれの話の最後になると「ぼったくり」にやってくることが多いです。
この話でも最後は遅い時間の「ぼったくり」に要が登場しました。
謎に包まれたところの多い要の正体が今作では段々と明らかになっていくのか、興味深いところでした。


「距離の取り方」
アキは食べ過ぎによりちょっと太ってしまったためダイエット中です。
アキのために美音が作ってあげたのは蒟蒻焼きそば。
面の代わりに糸蒟蒻を入れていて、さらにキャベツ、人参、ピーマンもたっぷり入っていて、これならローカロリーで食べごたえもありそうです。
そのアキとリョウが運動をしようということでテニスをしに出かけることになりました。
美音と馨(かおる)も行ったのですが、美音は運動がからっきし駄目らしく、馨から「運動神経なさすぎ!」と評されていました。


「木枯らしが吹く季節」
季節は冬になりました。
「ぼったくり」に町内で開業している医師の太田先生がやってきます。

太田先生は「ぼったくり」の常連の一人、マサのことを心配していました。
高血圧の状態になっているマサが普段「ぼったくり」ではどんなものを食べているのか、様子を見に来たのでした。

太田先生が食べた「小田巻蒸し」という茶碗蒸しは興味深かったです。
茶碗蒸しなのにうどんが入っていて、なかなかボリュームがあるようです。
同じ日に訪れた要はこれに焼き餅を二個入れた特製のものを食べていました。
「表層部にあった椎茸や蒲鉾(かまぼこ)をひょいひょいと口に入れ、中間部の鶏肉やユリ根、エビもあっという間に攻略。目下、最深部のうどん、焼き餅と格闘しているところ」という描写を見て、これは美味そうだなと思いました

ちなみに美音は高血圧のマサに対し、マサが食べたがるからといって味の濃いものを食べさせて良いものかどうか悩んでいました。
この悩みを要に打ち明け、終盤は美音の悩みの話になっていきます。


「冬が終わりを告げる日」
この話では焼酎の「前割り」というのが登場。
前割りとは、焼酎をあらかじめ水で割って寝かせておくこととありました。
水で割った焼酎を最低でも一晩、できれば三日から一週間くらい寝かせておくと、酒と水が馴染み合いまろやかな味になるとのことです。

薬局を経営するシンゾウがやってきたこの日は節分。
恵方巻きの話題が出ていました。
「恵方巻きの習慣は関西だけのものだった」とあり、私が高校生くらいの頃は全く聞かなかったなと思いました。
関東で恵方巻きを聞くようになったのは2000年代の半ば頃だったような気がします。
セブンイレブンの販売戦略で、「節分には恵方巻きを食べるものだ」という宣伝文句で関東圏に売り出していったという話をよく聞きます。

シンゾウの妻、サヨが言った言葉は印象的でした。
「切なかったり、辛かったりする想い出はどんどん上塗りすればいいのよ!どうせ一度きりの人生なら楽しまなきゃ!」
今作で一番の名台詞だと思います。


「再会の春」
冒頭、美音が料理を作ろうとして珍しく失敗していました。
作ろうとしていたのは「葉わさび醤油漬け」ですが、葉わさびの辛さが引き出せないらしく、ただの茎菜の醤油漬けになってしまっていました。
美音の父はこれを上手く作ることができていたらしく、美音は時々この料理に挑戦しているようでした。

「ぼったくり」の常連たちの間で、『ぼったくりネット』なるものが作られていました。
SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のグループで、常連が「ぼったくり」に行った時に『本日のおすすめ』を投稿したりしているようです。

また、リョウが「ぼったくり」に来ている時、リョウの後輩で沖縄出身の若者、ノリも久しぶりに来店。
美音に頼んでソーミンチャンプルーという、素麺のチャンプルーを作ってもらっていました。
ちなみにリョウは「ワケギ入りの親子丼」を注文。
ワケギというのはネギの親戚みたいなもので、分類的にはタマネギのほうに近いらしいです。
このワケギ、沖縄では「ビラ」と言うらしく、ノリはソーミンチャンプルーにビラをたっぷり入れてくれるように頼んでいました。
同じ食べ物でも地域によって呼び方が全く違うものになるのは面白いなと思います。

ウメさんの子供時代の友達、『シイちゃん』を捜そうという話になります。
SNSに「梅が好きなウメ」で登録してみたりして向こうがウメに気づいてくれないかと期待してみましたが上手くはいきませんでした。
しかし、意外なところから『シイちゃん』への手がかりがつかめます。
美音が連敗中だった「葉わさび」も関わっていて、なかなかドラマチックな展開でした。


今作も美味しそうな料理がたくさん出てきて興味を引かれました。
そしてお酒も、それほど飲めない私でもこのシリーズを読んでいると色々なお酒に興味が出てきます。
発泡性日本酒は飲んでみたいなと思いました。
「ぼったくり」での人情味溢れる話は読んでいて微笑ましく、こんなお店があればぜひ行ってみたいなと思います。
続編の第4巻を読むのが今から楽しみです


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