読書日和

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「居酒屋ぼったくり」秋川滝美

2014-10-05 23:47:35 | 小説
今回ご紹介するのは「居酒屋ぼったくり」(著:秋川滝美)です。

-----内容-----
東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。
名に似合わずお得なその店には、旨い酒と美味しい料理、そして今時珍しい義理人情がある―
下町風情を味わいながら、まったり、ゆったり。
旨いものと人々のふれあいを描いた短編連作小説、待望の書籍化!
全国の銘酒情報、簡単なつまみの作り方も満載!

-----感想-----
物語の主人公は美音(みね)。
東京下町にある居酒屋「ぼったくり」の店主をしています
もともとは美音の父が始めた居酒屋で、父と母で切り盛りしていましたが、二人とも亡くなってしまったため、現在は美音と5歳下の妹、馨(かおる)で切り盛りしています。

『居酒屋ぼったくり』
それが、この店の屋号である。


まさかの店名には驚かされました。
「あまりにも物騒で、一見の客は暖簾の前で足を止めることすらためらうような店名」とあり、そのとおりだなと思いました。
かつて美音の父は「誰でも買えるような酒や、どこの家庭でも出てくるような料理で金を取るうちの店は、もうそれだけでぼったくりだ」と言っていたとのことです。
やがて常連たちも、連日その言葉を聞かされるものだから、もういっそ店名から『ぼったくり』にしてしまえ、それなら看板に偽りなしであんたも気が楽だろうと言い出しました。
さらに常連たちはお金を出し合って、『ぼったくり』という新しい暖簾まで贈りました。
そんなことがあり、店名が『ぼったくり』になりました。

物語は七つの短編で構成されていて、居酒屋「ぼったくり」を舞台に、常連客との会話をメインに話が進んでいきます。

暖簾の向こう側
想い出につける付箋
丑の日の孝行娘
汗かき職人の夏
拾った子猫
夏休みの過ごし方
ゴーヤの苦み

常連の人は美音のことを「美音坊」と呼んでいて、美音が小さい頃から馴染みの深いことが窺えます。
また、「ぼったくり」は商店街の中ほどに位置しているのですが、商店街で肉屋を営むヨシノリという人も美音坊と呼んでいたので、すごくこの地に根付いていて親しまれているんだなと思いました
開店当時からの常連にはトクやシンゾウがいて、最初の章では手頃な値段の酒を好むトクが珍しく一番高い酒を頼み、何かあると察したトクと美音が悩みを聞いていました。

常連客は多くの人が江戸言葉(江戸弁)を使っていて、そのべらんめえ口調が粋でした。
「冷やしおでんだあ?大根やら蒟蒻やらを冷やしちまうのかい?それはあんまり伝法じゃねえか。俺はやっぱりおでんは熱々がいいがなあ」
こういった江戸っ子な言葉が次々と出てきて、読んでいて面白かったです^^
常連客にはウメというおばあさんもいて、その人も江戸弁を使っていました。
私はそれを見て江戸言葉が印象的な女優、浅香光代さんが思い浮かびました。

この作品では短編ごとに日本各地のお酒が出てきます
お酒があまり飲めない私でも読んでいて興味深かったです。
諏訪泉(すわいずみ)というお酒は黄色(山吹色)に色付いた日本酒。
活性炭を使って濾過することが多い現在、日本酒は水のように透明になるため、諏訪泉のように酒本来の持ち味を大事にするため活性炭濾過をせず、はっきりと色が見て取れる酒は珍しいとのことです。

「冬の名残のおでんと、春の先駆けの菜めし。こいつはなかなか粋な出会いだねえ」
「じゃあ卵黄の味噌漬けは、さしずめ出会いを取り持つ春満月、ってところだな」
「お、シンさん、意外と詩人だねえ」


美音が出してくれた料理を前に、常連のトクとシンゾウが話している場面です。
料理についてもお酒についても、美音とお客さんが気軽に色々話していて、とてもアットホームで温かい居酒屋です

その居酒屋には物騒な名前が入った暖簾がかけられている。
店を営む姉妹と客たちの話題は、酒や料理や誰かの困り事。
悩みを抱えて暖簾をくぐった人は、美味しいものと人情に癒されて、知らず知らずのうちに肩の力を抜く。
『居酒屋ぼったくり』はそんな店である。


常連の一人、アキは人参の葉の炒め物を食べたがっていました。
私はこれは食べたことがないかも知れません。
人参といえばオレンジ色の実のほうがメインで、葉っぱはほとんど食べる機会がないと思います。

物語の序盤の時点で、美音はかれこれ7年この仕事をしています。
なので29歳くらいであることが窺われ、その後季節が変わり時間が経ち、30歳になっていました。

居酒屋「ぼったくり」は常連客が多いですが、新しい客が来ることもあります。
秋の半ば、閉店のために暖簾をしまおうとしていたときに30代半ばくらいの男がやってきました。
その後も度々やってくることになる男です。

吉乃川の厳選辛口という日本酒は興味深かったです。
吉乃川は新潟の名酒で、淡麗辛口を地でいく新潟の酒の中でも秀逸と誉れ高いです。
厳選辛口というのはその中では廉価な部類で庶民派代表みたいなお酒ですが、お燗にするならピカイチ。
燗で呑むなら、同じ吉乃川の特別純米ですらこれには敵わないと言われるほどとのことです。
そしてそういったものを「燗上がり」と言うようです。

鰻の高騰についても扱われていました。
早紀という中学生の子が頑張って働いている両親のために、自分のお小遣いを使って土用の丑の日に合わせてスーパーで鰻を買おうとしているのですが、高すぎて手が出ません。
鰻の蒲焼き一枚で二千円や三千円もするとなったらさすがに考えてしまいますね…
美音は早紀のために協力することにします。

福島の桃も出てきました。
風評被害のことについても触れられていて、鰻の高騰と合わせ、現実世界でのことが取り入れられていました。
「缶詰の桃ですらここまで甘くはない、と思うような圧倒的な甘み」とあり、どんな甘さなのか興味深かったです。
ちなみにこの桃は新しい客となった30代半ばくらいの男が二度目に来た時に出したものです。
帰る時に
「ごちそうさん。勘定を…」
「今日こそ、ぼったくります!」
などとやり取りがあり、何だか仲良くなっていっているように見えました。

呑めない人に酒をすすめるほど無粋なことはない
これはそのとおりだと思います。
私もあまり呑めないので、無理にお酒をすすめてくる人はほんと困ります。
そんな中、ラドラーというビールをレモンソーダで割ったものは興味深かったです。
お酒に弱い人にも呑みやすいとあり、私もこういうのであれば呑みやすいかもと思いました。

小豆島の醤油もかけてみたいなと思いました。
小豆島の醤油は普通のものよりもずっと長い時間をかけて熟成させています。
杉の大樽を使い、仕上がりの色が薄めで美しい特徴があり、その味のまろやかさはかけ醤油として秀逸とのことです。
豆腐の揚げっぱなしや刺身といった、醤油によって大きく味を左右されるような料理のとき、「ぼったくり」では小豆島の醤油を添えています。

ゆかりと鰹節を一度に入れたおにぎりというのも食べてみたいと思いました。
この作品では次々と美味しそうな料理が出てくるのですごく食べたくなります

ちなみに新たな客となった30代半ばくらいの男はその後も店を訪れ、美音とも親しくなっていきます。
男は美音の見立てでは自分より5つか6つ年上で、名前は要(かなめ)と言います。
美音のほうは自分では気付いていないようですが、どうやら男に興味を持ち始めているようでした。

植木職人のマサが来た時に作った「おつまみ素麺」はかなり美味しそうでした。
ボールに素麺とピザ用チーズ、大量の刻み海苔を入れ、オリーブオイルをくるりと掛け回し、塩胡椒で味付けして交ぜ合わせます。
ボールの中身を熱したフライパンに流し、ぐいぐい押し付けるように焼き、両面をしっかり焼いてチーズごと焦がし、円盤形に焼き上がった素麺にさくさくっと格子状に包丁を入れれば完成です。
カリカリのおつまみ素麺をマサはポン酢に浸して食べていて、斬新な素麺料理だなと思いました。
ものすごく食べてみたいと思いました

最後の章では、ゴーヤチャンプルーを作っていました。
ゴーヤのイボが大きいものは苦みが少なく、そしてゴーヤの苦みは種の周りにある白い綿の部分にあり、その綿をこそげ取ってしまえば苦みはぐっと減らせるとのことです。
さらに美音は普通の料理屋がゴーヤチャンプルーに使う豚肉ではなく、沖縄で「ポーク」と呼ばれるスパムミートを使っていました。
このスパムミートの強い塩気がさらにゴーヤの苦みを抑えてくれて、とどめにゴーヤの苦みを抑える最強アイテムとされる和風だしの鰹を使っていました。
それによって、「苦くないゴーヤチャンプルー」を作りました。
沖縄の高校を卒業して東京に出てきたノリという19歳の青年は、家で子ども向けに調理されたゴーヤを食べていたため、東京にある沖縄料理店のゴーヤの味は苦すぎて困っていました。
美音の作ってくれた、家庭の味を再現したかのような「苦くないゴーヤチャンプルー」はホームシック気味でもあったノリを元気づけてくれました。

この作品には続編の「居酒屋ぼったくり2」があります。
今回読んでみてとても面白かったのでぜひ続編も読んでみたいと思います。
次はどんなお酒や料理が出てくるのか、美音と要に進展はあるのかなど、楽しみです


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ビオラ)
2014-10-08 00:24:14
個人で飲食店を営んでいると、さまざまな人との出会いや、料理の発見があって、そう言うお店の店主ってのも、良いものだなと思いますね。
色んなお仕事あるけど、お客様と直接関るお仕事は、色んな意味で、心が豊かになるような気がします。
良い事も辛い事も、直接伝わりますからね。

続編も楽しみですね。
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ビオラさんへ (はまかぜ)
2014-10-09 00:42:26
ほんと、人との出会いも料理の発見もたくさんある小説です。
個人の飲食店ならではの人とのつながりの温かみがありますね
続編、さっそく読んでみようと思います。
今度はどんな料理やお酒、人とのつながりが見られるのか楽しみです
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