読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「居酒屋ぼったくり2」秋川滝美

2014-10-11 23:21:50 | 小説
今回ご紹介するのは「居酒屋ぼったくり2」(著:秋川滝美)です。

-----内容-----
東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。
名に似合わずお得なその店には、旨い酒と美味しい料理、そして今時珍しい義理人情がある―
旨いものと人々のふれあいを描いた短編連作小説、待望の第2巻!

-----感想-----
この作品は「居酒屋ぼったくり」からの続編となります。
物語の序盤は夏なので、前作のすぐ後からそのまま続いています。

冒頭、美音が日本酒の試飲会に行っているところから物語は始まります。
ホテルの一室に設けられた広い会場で、日本全国の酒蔵(さかぐら)が自慢の酒を並べるのは壮観だと思います。
そして帰ってきて居酒屋『ぼったくり』を開いて、常連さんがやってきて会話が始まっていきました。
今作は以下の六編になっていました。

働き者の包丁
トマトが嫌いな男たち
跡取りの憂い
美味しい餃子の焼き方
鉄板の上の思い出
満点と赤点

「働き者の包丁」では常連客の一人、アキが落ち込んでいます。
意気消沈した様子のアキを見て、同じく常連客の薬局を営んでいるシンゾウと植木職人のマサ、美音と妹の馨(かおる)で話を聞きます。
会社で事務員として勤めるアキは仕事のことで「私なんて器用貧乏の何でも屋だ。やってることは誰かの仕事の手伝いばっかりで、特技のひとつもない」と言っていました。
アキは英語を使って仕事をする部署への配置転換を希望する後輩の女子社員のために、社員たちが使って効果があったと言っていた参考書を紹介したり、彼女の代わりに業務を引き受けるなど協力してあげていたのですが、その女子社員がTOEICの社内の規定を見事クリアし、海外と直接取引する部署に異動する姿を見て、入社以来ずっと同じところにいる自分をむなしく感じてしまったようです。
みんなで話を聞き、美味しいお酒と美味しい料理でちょっと元気になったアキですが、まだ本来の元気さには及ばない状態でした。

包丁の「三徳」の話は興味深かったです。
三徳は文化包丁や万能包丁と呼ばれる多機能の包丁のことです。
常連のケンさんは美音からアキのことを聞いて、
「器用貧乏って何でも切り分けられる三徳みたいな人のことなんだよ。一緒に働く人間にとっては重宝きわまりない」
と言っていました。
スペシャリストだけでは会社は成り立たないし、三徳のような人の存在は重要だというのはそのとおりだと思います。

お酒は「酒一筋 山廃純米吟醸 時代おくれ」というのが登場していました。
岡山県の利守酒造の醸す日本酒で、利守酒造は台風にも病害虫にも弱く絶滅の危機に瀕していた酒米の「雄町米」を復活させた蔵元とのことです。
「時代おくれ」という名に相応しく、昔ながらの味わいを持つ日本酒とのことです。

料理は千切り野菜とチーズの海苔巻きが興味深かったです。
キャベツ、キュウリ、人参を千切りにし、それを同じ長さに切ったプロセスチーズとともに海苔で巻いて食べるというもので、炙った海苔とチーズと野菜の組み合わせが美味しそうでした


「トマトが嫌いな男たち」はまさにタイトルのとおり、トマトが嫌いな男たちについての話です。
八百屋の「八百源」の店主・ヒロシの息子のヨシカズはトマトが苦手です。
息子のトマト嫌いを克服するため、美音に「トマトの旨い食い方って知ってるか?」と相談していました。

トマトとナスのグラタンは美味しそうだなと思いました。
チーズやベーコンも使っています。
私も生トマトが苦手なのですが、火が通っていれば比較的食べられます。
常連のイクヤもトマトが苦手で、同じく常連の要(かなめ)も小さい頃トマトが苦手だったらしく、トマトを嫌う男の人がよくいる印象を持ちました。

ちなみに、プチトマトを凍らせて食べるという食べ方は知りませんでした。
しかも凍って表面が白くなったプチトマトに水道の水をちょっとかけるとプチトマトの表面に亀裂が入り、皮だけがつるりと剥けて食べやすくなるとのことです。


「跡取りの憂い」は、常連客の一人、トクの弟子の話。
トクの弟子は足場を組む仕事に就いたことを親に言っていなかったらしく、それが親に知れ揉めていました。
親は植木屋で、息子も跡を継ぐために植木屋の学校に通っていました。
全国に何ヶ所か、植木屋になるために必要な技術や植物に関する知識を体系的に学べる専門学校があるとのことです。
トクの弟子はその学校に通うために地元を離れて上京したのですが、半年ほどでその学校をやめてしまっています。
親から見ると「跡取り息子に専門的な勉強をさせるために東京に出したのに、自分たちの知らないうちに足場職人になっていた」ということで、かなり怒っているようです。
トクのところにも親が乗り込んできて、息子を説得するように頼み込まれ、だいぶ困っていました。

この話では、馨の彼氏、哲も登場していました。
哲の両親は喫茶店を営んでいて、哲はその跡を継がずに違うところに就職していたため、トクの弟子の話を聞いて自分の身と重なるものを感じたようです。

今作も「なんでえ、あんたもかい!」のようなべらんめえ口調の江戸弁がたくさん登場していました。
多くの常連客が粋な江戸弁で話すのでなかなか賑やかな雰囲気になります。

美音が作ったサンドイッチはかなり美味しそうでした。
特に焼き卵のサンドイッチが興味深かったです。
サンドイッチの卵といえば茹で卵が一般的ですが、美音は甘みをきかせた卵をフライパンでふんわりした円盤形に焼き上げ、それをサンドしていました。

また、この話では東京で三本の指に入ると言われる豆大福の人気店が登場していました。
東京では「原宿瑞穂」「群林堂」「松島屋」の三店の豆大福を「東京三大豆大福」と呼んでいるので、これをモデルにしたのだと思います。
「豆がぎっしり」とあったので、群林堂をモデルにしたのかなと思いました。

酒米最高峰と言われる「山田錦」というのも登場しました。
この米から作った東一(あずまいち)という佐賀県の日本酒は平成2年には全国新酒鑑評会で金賞を受賞したとのことです


「美味しい餃子の焼き方」もタイトルのとおり、どうやって餃子を美味しく焼くかの話です。
常連の一人、ウメの息子ソウタの奥さん、カナコが餃子の焼き方を美音に相談しに来ます。
ソウタはカナコの焼き方に不満があるらしく、「どこそこの餃子は皮がぱりっとして黄金色の焦げ目で歯ごたえがしっかりしててさくさく」などと言ったりしていて、それでカナコはもっと上手く焼けないものかと考えていました。

美音とカナコで餃子の具を作っている時、美音が先に挽肉に下味を付けたのを見てカナコが
「調味料って、あとで全部まとめて入れるのかと思ってた!」
と驚いた場面は印象的でした。
先に挽肉に味を馴染ませたほうがうんと風味が出るとのことです。
私はこれを見て、卵かけご飯と納豆の組み合わせが思い浮かびました
納豆を先にかけてから卵をかけた場合と、卵を先にかけてから納豆をかけた場合で味わいが変わるのです。
私は納豆を先にかけてから卵をかけるほうが好きです。
同じものを使うのにどちらを先にするかで味わいが変わるのは興味深く、この挽肉のエピソードと似ている気がしました。

餃子の食べ方で、酢と醤油とラー油のほかに、「味噌だれ」と「塩胡椒」も出てきました。
美音は酢と醤油とラー油が餃子における三種の神器だろうと考えていますが、馨は味噌だれのほうが好きなようです。
ちなみに味噌だれは私もラーメン屋さんで食べたことがあって、かなり餃子との相性が良く美味しかったです


「鉄板の上の想い出」は、鉄板料理にまつわる話。

「何でも食えるってことはさ、食いたいものがどんどんなくなるってことなんだよ。この酒と同じだ。もともと極上の酒にしても毎日じゃありがたみが薄れちまう。たまに呑めるからこそ嬉しいってとこがあるんだよ」
商店街の一番外れでクリニックを開業している獣医の茂先生が言ったこの言葉は印象的でした。
昔とは違って何でも気軽に食べられるようになった今、その食べ物の珍しさが薄れ、「何としてもこれが食べたい」と思うものが減ってきていると思います。

茂先生の想い出の食べ物、「鉄板焼きそば」は興味深かったです。
喫茶店のメニューで、ステーキやハンバーグを載せるのに使う小判型の鉄板皿にソース味の焼きそばが載せてあって、周りに溶き卵が流してあるとのことです。
私はそんな焼きそばは初めて聞きました。
中部地方の焼きそばで、とろとろ半熟卵と焼きそばをまぜて食べるのが旨いとのことです。

そして美音にも「とろろステーキ」という想い出のメニューがありました。
熱した鉄板にとろろを流して焼いたもので、とろろには卵がひとつと、万能葱を細かく刻んだものと紅ショウガを細かく刻んだものが入っています。
子どもの頃美音も馨もとろろが苦手だったため、何とか食べさせたいと思った父が考えたメニューとのことです。

さらには昔ながらのナポリタンも出てきました
これも茂先生の想い出のメニューで、ケチャップたっぷりのスパゲティにタマネギ、ピーマン、赤ウインナーの組み合わせで、やはり熱くした鉄板に載っていて周りには溶き卵を流しています。
昔ながらのナポリタンは近くのお店にもあるので私も久しぶりに食べてみたくなりました


「満点と赤点」は、哲の両親の話。
哲は馨の彼氏で、両親が営む喫茶店は都内のかなり大きな神社の近くにあり、年の瀬から正月三が日ともなるとお店は大繁盛になるのですが、それ以外の時はお客さんが減ってきています。
昔ながらの喫茶店はチェーンのカフェに押され気味とのことです。
私もチェーンのカフェに寄ることがほとんどで、やはり値段のお手頃さとメニューの豊富さが大きいです。

どうやって喫茶店を生き残らせ、お客さんを呼び込むかを考えていた時、常連のウメが「そこにしかないもの」があれば生き残れると言っていました。
サービスだったり、値段だったり、品質だったり、メニューだったり、とにかくその店ならではのものがあるかどうかです。

また、常連の要は「10人全員が70点と評するより、7人が赤点でも残りの3人が満点を出す店を目指したほうが良い」と言っていました。
70点だと普通だなという評価で、もう一度来ようとは思わないかも知れませんが、満点ならリピーターになってくれるかも知れません。
チェーン店の台頭で苦戦している喫茶店がどんなお店を目指していくか、興味深い話でした。

シンゾウのお酒についての言葉も印象的でした。
「高くても珍しくても俺にとって旨くなければ意味がない。前情報なしに呑んでも旨いと思える酒が、そいつに合う酒なのさ」
たしかに、値段とかよりもその人が飲んで旨いと思えるかどうかが一番大事ですね。

ちなみに要は今作でも閉店間際の時間帯によく「ぼったくり」に通ってきています。
そして美音は要のことが好きで、まだ自分では気づいていませんが段々要への好意が明確なものになってきています。
まだ続編があるようなので、この恋の行方がどうなるのか注目しています。


※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿