読書日和

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「アンダスタンド・メイビー(下)」島本理生

2018-10-16 20:51:09 | 小説


今回ご紹介するのは「アンダスタンド・メイビー(下)」(著:島本理生)です。

-----内容-----
故郷でのおぞましい体験から逃れるように、黒江は憧れのカメラマンが住む東京へ向かった。
師匠の家に住み込みながらアシスタントとして一歩を踏み出すが、不意によみがえる過去の記憶。
それは、再び心を通わせはじめた初恋の相手・彌生との関係にも、暗い影を落とし出す――。

-----感想-----
※「アンダスタンド・メイビー(上)」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

「第三章」
2年半が経ちます。
冒頭、黒江は仁を乗せて東京の代官山のギャラリーで行われている写真展のオープニングパーティに行き、車の免許を取ったことが分かりました。
アシスタントの仕事は掃除、車の運転、荷物運び、現場での雑用や写真の現像などがあり忙しく働いています。

黒江がモツ鍋を作ると、黒江が仁の家に住み込んで東京の通信制の高校に入り直せるように黒江の母を説得してくれた海棠(かいどう)先生がやってきます。
黒江はすっかり打ち解けて話していて話し方も明るくなり、2年半の間に再び明るく話せるようになったのだと思いました。
高校は卒業し現在はアシスタントの他にコンビニでアルバイトをしています。
西田という仁のアシスタントだった人もモツ鍋を食べに来ます。
今はほとんどフリーで仕事をしていて、西田には彼女がいますが黒江は西田に好意を抱いています。

東京に来てから、私はずいぶんと気が楽になった。誰も必要以上に干渉しないし踏み込んでこない。関心は秋の風のようにさらりと乾いていて、すり抜けていく。どんな過去があろうと気にされることもない。
これを見て、酷い目に遭って故郷に住めなくなった黒江にとって東京の忙しなさや冷たさはかえって暮らしやすいのだと思いました。

黒江は仁の撮るグラビア写真について次のように語ります。
仁さんの写真はいつもどこかずっしりと重くてぎりぎりの感じがする。露出度だけじゃなく、女の子の心や背景にそういうものを求めている写真ばかりだ。
それは彼が壊れてしまった場所ばかり撮っていることと、どこかつながっている気がしていた。

仁にも何かあることが予感されました。

仁が西田はやめておけと言いますが黒江は聞く耳を持たないです。
黒江は男性に好意を抱くとすぐに依存してしまうので嫌な予感がしました。

仁が沖縄に行き刈谷セシルという新人芸能人のファースト写真集の撮影をすることになり、黒江も同行して初めてロケのアシスタントをします。
セシルは仁に好意を抱いていて、黒江と一緒に住んでいるのに付き合っていないのかと聞いた時に仁が「俺はハイパー美人が好きなの」と言うと「感じ悪ーい」と言いながらも機嫌を良くしていました。
これは黒江がハイパー美人ではないと言っているのと同じで黒江はセシルこそ感じが悪いと思います。
セシルは黒江に嫌な態度で接してきて黒江は段々気分が悪くなっていきます。
東京に戻り羽田空港で解散になった直後黒江はトイレに駆け込んで吐いて倒れ、救急車で病院に運ばれます。

黒江に中学三年の時のクラスメイトの神宮司(じんぐうじ)という女子が交通事故で亡くなったと連絡が来ます。
島本理生さんの作品では「女声が男性から酷い目に遭わされる」「臨床心理学」といった特徴の他に誰かが亡くなることもよくあり、その特徴がデビュー10周年の作品にも出ています。

黒江は久しぶりに茨城の実家に帰り通夜で怜、四条、彌生に再会し、彌生(やよい)の心が綺麗なままなことに心を打たれます。
通夜が終わり黒江は彌生に車で送ってもらい、途中で公園に寄って山崎に筑波山に連れて行かれた時のことを話します。
「自分でもまったく抑制がきかないくらいに大粒の涙が溢れ出した」とあり、当時を思い出し言葉にするだけで涙が出てくるくらい恐ろしい体験だったことがよく分かります。
誰かに助けに来てほしかった。怖かったけど自分がぜんぶ悪いと思った。
「自分がぜんぶ悪いと思った」は「夏の裁断」の主人公千紘(ちひろ)、さらに「ファーストラヴ」の環菜(かんな)も言っていました。
これも島本理生さんにとって重要なテーマだと思います。

黒江は彌生と電話で話すようになり、さらに彌生が親戚の入院のお見舞いで東京に来る日に新宿駅東口で待ち合わせて夕御飯を食べることになります。
黒江が「彌生君、おじさんみたい」と言うと彌生は「君は、あいかわらず無頓着にひどいことを言うね」と言い、黒江が本来の姿を出せているのが嬉しかったです。
二人が新宿三越近くの居酒屋にいると仁から電話がかかってきてバイクに当てられる事故に遭って病院に運ばれたと言い、お酒を飲んでいなかった彌生が迎えに行ってくれます。
仁は彌生に家に泊まって行けと言い宴会になり、酔っ払って寝ぼけた彌生がまた黒江と付き合いたいと言い黒江は驚きます。

二人は東京ドームに野球の試合を見に行きます。
彌生と話しながら黒江は次のように思います。
包み込むような雰囲気と、どっしり落ち着いた物腰。丁寧な喋り方。白いワイシャツ越しの肩を見ながら、なにもない、と感じた。嫌なところも苦手なところも。
やっぱりこの人は私の神様だ。

このことから、黒江は自身に嫌な思いをさせたり苦手意識を抱かせない男性を神様と思い特に強く依存するのだと思いました。
また黒江は好きになった男性には神様になってほしいと思っているのだとも思いました。
黒江は再び彌生と付き合い始めます。

黒江が見た夢の中で興味深い表現がありました。
崩れかけた廃墟の廊下を、私は迷ったように歩いていた。足元すら危ういほどに暗く、壁に触れるたびに、コンクリートの一部がほろりと落ちる。
雪が降るような音をたてて、靴の先にかかった。

これは良い表現で、私は雪の日に電線に積もった雪が地面に積もった雪の上に落ちる時のほんのわずかな音が思い浮かびました。

仁は大学の時に聖良(せいら)という恋人を亡くしています。
黒江と仁が渋谷の道玄坂にある試写室に向かう途中、仁は男と喧嘩をしている女に目を奪われます。
女は亡くなった聖良にそっくりで仁は黒江にも手伝わせて女が誰なのか調べ、小田桐綾乃という数年前にティーン向けファッション誌でモデルをしていた21歳の人だと分かります。

黒江は実家に帰って久しぶりに母と話します。
「下宿は、どう」と聞かれて「なにも問題ないよ」とだけ返すと母が「良かった」とだけ呟きます。
黒江はこの反応に気持ちが波立ち、「いつもそうなのだ、母はなに一つ知ろうとしないし、深く関わろうともせずに、時折心配して近付く素振りを見せたかと思えば、すぐに離れてしまう。」と胸中で語ります。
「なに一つ知ろうとしない」とありますが、母が「下宿は、どう」と状況を知ろうとした時に黒江は「なにも問題ないよ」と素っ気なく返しています。
このことから、黒江は「なにも問題ないよ」に対してすぐに引き下がらずにもっと熱心に聞いてほしい思いがあるのだと思います。
しかしこれは言葉から正反対の意味を察してほしいという無茶な要求でもあると思います。

黒江は東京に戻る深夜バスの中で賢治の夢を見ます。
その前には今まで一度も作品に登場していない父の夢を見ていて、夢が黒江に影響を与え始めているように見えました。


「第四章」
冬になり黒江は賢治を連想するものを見ると心が緊張して吐きそうになります。
さらにお風呂に入っていて浴槽で倒れて仁に助け出され、かなり心がおかしくなっていました。
仁は綾乃を撮影できるようになった場合仁個人の作品にするから黒江のサポートはいらないと言っていて、黒江はその言葉がきっかけで動悸に襲われ倒れました。
黒江はどこにも帰る場所はないと思っていて、仁と綾乃が付き合うようになって自身が見捨てられるのに怯えています。
賢治、南、靖、山崎の黒江を酷い目に遭わせた人達の顔も心に思い浮かびます。

仁は黒江を連れて綾乃の大学に押し掛け写真を撮らせてくれと頼みます。
仁はグラビア写真ばかり撮っているエロカメラマンと見られ嫌われていて断られますが、黒江が懸命に頼むと綾乃は撮るのが黒江ならという条件で写真を撮られても良いと言います。

黒江は彌生に次のように思います。
彌生君がいなくなってしまったら。神様のいない世界で、私はなにを信じて守られればいいのだろう。
「なにを信じて守られればいいのだろう」という言葉が印象的で、付き合う人には神様になって加護してほしいと思っているのがよく分かる言葉です。

黒江はカフェで綾乃と二人で話し、綾乃を見て巫女のイメージを持ったので神様が関係する場所で撮りたいと言い、明治神宮で撮影をすることになります。
二人で参道を話しながら歩いて行くと境内で結婚式をしていて、私も明治神宮の神前結婚式は何度も見たことがあるので景色がとてもよく思い浮かびました。
綾乃は「結婚なんて、馬鹿みたい」と言い黒江が「結婚、したくないんですか?」と聞くと「したかった」と言い涙を流します。
黒江は綾乃が黒ずくめの地味な格好で普段も同じような格好をしているのは誰にも注目されないように、傷つけられないようにするためなのではと思います。

母が黒江に今度東京に来るからお茶をしないかとメールを送ってきます。
メールを送ってくること自体が極めて珍しく、黒江はどうしたのだろうと思います。
新宿高島屋のタカノフルーツパーラーでお茶をすると母が職場で昇進したが断ると言います。
黒江が体調でも悪いのかと聞くと母は「そういうんじゃないのよ。違うの、本当はね、昇進が重なったのよ。だから、そっちのが忙しくなるなら、仕事はべつに今のままで」と言います。
黒江は昇進が重なるとはどういうことなのか気にしていて私も気になりました。
さらに母は洋服売り場で十万円近い冬物のコートを買ってくれます。
新宿駅から帰る時母は東京駅行きではない切符を買っていて黒江は疑問に思います。

黒江は彌生と体の関係になり「これでずっと一緒にいられるんだ、と嬉しくなった」と胸中で語ります。
しかし彌生が頻繁に体を求めるようになると今度は嫌になり、そんな中二人は温泉に行きます。
大広間で夕飯を食べる時、隣のテーブルで3歳くらいの女の子が「お父ちゃんのエビもー」と訴えているのを見て、黒江は彌生から醤油差しを受け取った時に「お父ちゃん、ありがとう」とふざけて言いますがその時何かが脳裏をよぎって様子がおかしくなりこれは父のことだと思いました。
露天風呂から出て大広間に向かって廊下を仲睦まじく歩いている時に黒江は次のように思います。
「二人を包み込む空気は、出会った頃となにも変わっていなかった。やっぱり彼は神様だ、と嬉しくなった。」
このことから、黒江の考える神様は黒江を優しく包み込んでくれさらに無闇に体を求めない人なのだと思いました。
ただし黒江は当初、彌生との関係を強化しようとして自身の方から体の関係を迫り「これでずっと一緒にいられる」と安心していました。
そのためずっと一緒にいられる安心感を得るには体の関係が重要と考え、安心感を得た後は優しく包み込み加護してくれる文字どおりの神のような存在になってほしいのだと思います。
この考えは彌生の気持ちを無視していて、黒江は彌生は神様なのだからこの考えも受け止めてほしいと思っているようですが、彌生は人間なので黒江の考えを知れば身勝手さに嫌悪感を抱くか頭が狂っていると思うかになると思います。

ついに黒江は彌生と体の関係になるのは嫌だとはっきり言います。
元々は黒江が体の関係を迫っていたのにこれは滅茶苦茶なことを言っていますが、「彌生には神様になってほしい」という心がどうしても拒むのだと思います。

この辺りまで読み、この作品にはどれほど凄まじい心理描写が練り込まれているのだろうと思いました。
間違いなく後の「夏の裁断」「ファーストラヴ」につながっています。

夕飯の準備をしていると仁から電話がかかってきて今から長崎に行くと言い、黒江は酷く動揺し置いて行かれるのを恐れていました。
そしてストロボを借りに来た西田を夕飯に誘いその後押し倒され、やはりと思いました。
どうしてその展開にばかり行くのかと思いました。
黒江は拒否しようとしますがもし西田を怒らせてもう仲良くしてくれなくなったらという考えがよぎり拒否できなくなります。

仁が帰ってきて長崎に行ったのは亡くなった彼女がらみだと話します。
彼女の家は熱心なキリスト教徒ですが彼女は信じる者しか救わないのはおかしいのではと疑問を持ちキリスト教を信じず母親とかなり仲が悪くなっていたとのことです。
島本理生さんの作品にはキリスト教が登場することもあり、デビュー10周年記念の本作には島本理生さんの特徴の全てが集結している気がします。

黒江は久しぶりに現在はAV女優になっている紗由と電話で話します。
紗由は中学時代は成績優秀でしたが大人になったら人に言いずらい仕事をしているのだから変なものだと話します。
人生は何が起こるか分からないです。

黒江は彌生と新宿で会います。
西田とのことを言うと彌生は激怒し「ごめん。俺にはもう君を理解したり支えることは出来ないよ。さようなら」と言います。
黒江の言動の必死さが痛ましく、去っていく彌生の背中にしがみついて「行かないで。ねえ、行かないで。見捨てないで」と言っていました。
この彌生との場面の冒頭で黒江は「別れ話をするつもりで、夕方の新宿駅東口の雑踏に紛れていた。」と胸中で語っていました。
ところが実際に西田とのことを話して彌生が激怒し別れると言うと酷く取り乱していて、これは彌生の発言が黒江を見放すものだったためまた一人になってしまうという思いがよぎり発作のような症状が出たのだと思います。

3月中旬、黒江は綾乃と一緒に長崎に写真を撮りに行きます。
黒江と綾乃は打ち解けていきどちらも心の中を話せるようになります。
二人で長崎市内の中華街で夕飯を食べていると、綾乃を見て聖良にそっくりで驚いた聖良の母が声をかけてきます。
黒江は聖良の母に聖良は神様ではなく自身の方を見てほしかったのではと言い、そのとおりだと思います。
またこれを見て、黒江自身が彌生を男性ではなく神様として見て心が通じ合わなくなったこととの矛盾を感じないのかと思いました。

黒江はその夜聖良の夢を見て、黒江が夢を見ると何か良くないことが起きるので嫌な予感がしました。
翌朝黒江がホテルのテレビをつけると宗教団体「赤と青の門」の事件のニュースをやっていて、新宿で起きた通り魔事件に関わっているとありました。
黒江の母もこの教団に入っている気がしました。

黒江の母が行方不明になり、さらに「赤と青の門」をずっと信仰していたため警察から参考人として呼ばれていたことが明らかになりやはりと思いました。
仁が黒江に見せた週刊紙にはYさんという元信者へのインタビューがあり、インタビュアーの記者は「赤と青の門」の信者達が我が子を犯罪計画の実行犯に仕立て実際に事件が起きたと言っていました。
仁が出版社に行き世話になっている人に頼んで週刊誌の担当に取り次いでもらいYさんに会い、黒江の母親を見つけようと言います。
教団は埼玉県にあり黒江が昔住んでいたのも埼玉の浦和で、黒江はかつて集会に行ったことがあるのを思い出します。
やがて母が青木ヶ原樹海の入り口で発見されたと連絡が来ます。

黒江が病院に行くと母は父と黒江の間にあったことを少し話します。
黒江は次第に心の状態がおかしくなり、ある日自殺しようとして病院に運ばれます。
幸い死なずに済みましたが心療内科に入院することになります。
病室で黒江はこれまでの人生を振り返り、その中でひどいことをされるのは、自分がダメなせいだと思っていたという言葉があったのが印象的で、第三章にあった「自分がぜんぶ悪いと思った」と同じ意味の言葉です。
しかし今回は語尾が「思っていた」になり、この時黒江は心理学関係の本を片っ端から読んでいて考えが変わるきっかけを得ていました。
退院した黒江はついに自身のことが分かるようになり、これは命を落としかねない状況になり病室で心理学関係の本を読みながらこれまでの人生を振り返ったことで、今までより自身を客観的に見られるようになったのだと思います。
退院してからの黒江は今までよりしっかりした意思を持つようになります。

上巻で黒江が見た、幼い黒江が男の人に酷い目に遭わされている写真は実の父によるもので、恐ろしいことだと思いました。
Yさんから会っても良いという返事が来て黒江と仁は吉祥寺の喫茶店に行きます。
Yさんは黒江が子供の頃に教団で一緒に遊んだことのある根室俊樹だと分かります。
根室は黒江の父親が生きていて埼玉の山の中の小学校で用務員をしていると言います。
黒江は一人で父親に会いに行き、最後はこの作品にずっと横たわっていた忌まわしきものに向かいます。
父親に会いに行くことを決断した黒江が「どんな形であれ、私を好きでいてくれたのは確か」と胸中で語っていて驚きました。
一体どれほど自身を好きになってくれる人を求めていたのか、孤独を感じながら生きてきたのかと思いました。

父と話す中で黒江は彌生に求めていた「神様」が何なのかに気づきます。
たしかに幼い子供から見れば全てを許し受け入れてくれる神様のような存在だと思います。
そして本来の神様は黒江の中で死んでいて、どうしても別の神様が欲しいという思いが男性関係において「強く依存する」という特徴として現れていたのだと思います。

父の言葉から黒江はなぜ母が黒江に冷たいのかが分かります。
黒江を助けることよりも自身の女性としてのプライドを傷付けられた怨みの方が上回ったというもので、これも恐ろしいですが人間なら有り得ると思います。

たくさんのものを失った。だけどまだ間に合うものもある。
黒江のこれは良い言葉だと思います。
過ぎたことよりも今あるものに目を向けた方が良いです。
しかし黒江はふとした時に自殺衝動に駆られるようになり、これまでに何度も酷い目に遭ってきたことを考えれば簡単には回復できないと思います。

自殺衝動に駆られている時に彌生から電話がかかってきて、黒江が今までの日々を「がんばろうとしたの、でも、出来ない」と言っていたのがとても印象的でした。
これと同じような言葉が「ファーストラヴ」にもあり、辛い家庭環境から生み出される生きずらさを何とかしようとしても上手く出来なくて苦しむことに島本理生さんはこだわりがあると思います。

黒江は青木ヶ原樹海の入り口から助け出された後教団に住んでいた母を連れ出して話し合います。
母は静子という名前だと初めて分かりました。
父から受けた仕打ちと、母の冷たさについて黒江の言葉を聞いた母が初めて心から「ずっと、ごめんね」と謝り、やっと黒江が母へのわだかまりから解き放たれたと思いました。

黒江は旅立ちを迎え、出発の日に次のように思います。
きっとこれからも思い出すのだろう。
そのたびに引きずり込まれそうになって、死にたくなりながら、何度もそれをくり返しているうちに、いつかかならず遠ざかっていくことが出来るはずだ。
数えきれないほどの人たちが、そうやって生き長らえてきたように。

今までに読んだ全ての小説の中で一番、最後が希望の持てる終わり方になっていて良かったと思いました。


「アンダスタンド・メイビー」は私がこれまでに読んだ島本理生さんの作品の中で「夏の裁断」「ファーストラヴ」とともに三強が形成される名作でした。
こういった人間の心の辛さに迫る心理小説は島本理生さんにしか書けないと思います。
これからもこの三作品に連なる心理小説の名作を生み出してほしいです。
込められている心理描写が非常に強大で読むには心の準備も必要になるので、読めそうな気持ちの時に、読みたいと思います。


※「島本理生さんと芥川賞と直木賞 激闘六番勝負」の記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

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