読書日和

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「古書街キネマの案内人」大泉貴

2016-05-06 23:33:34 | 小説
今回ご紹介するのは「古書街キネマの案内人 おもいで映画の謎、解き明かします」(著:大泉貴)です。

-----内容-----
東京・神田神保町。
世界最大級の書店街であるこの街の裏路地には、小さな名画座『神保町オデヲン』がある。
大学生の多比良龍司は、そこで出会った女性・六浦すばるに惹かれてバイトを始めることにした。
彼女は映画にまつわる悩みを聞いて解決する゛案内人゛なのだった。
映画の感動と興奮、その゛おもいで゛が人と人を繋いでいく。
これは小さな名画座で巻き起こる、どこか温かく懐かしい物語。

-----感想-----
物語は次のように構成されています。

プロローグ
Film.01 チケット・オブ・ザ・リング
Film.02 羅生門イン神保町オデヲン
Film.03 フィルム・ガーディアン・バスターズ
Film.04 サンセット古書街通り

この作品は神保町が舞台ということで興味を持ち手に取ってみました。
※神保町のフォトチャンネルをご覧になる方はこちらをどうぞ。
神保町の小さな名画座を舞台に、六浦すばるによって映画にまつわる悩みが解決されていきます。
そして今まで読んだ中で一番文字間違い(誤植)が多い作品でもありました。


「Film.01 チケット・オブ・ザ・リング」
ゴールデンウィークも終わった平日、多比良(たいら)龍司は神保町の古書店「レガシー」で「神保町オデヲン」という映画館のポスターを見かけます。
龍司は亡くなった叔父の遺言で書斎に残されていた映画のパンフレットなどのコレクションを処分していました。

神保町は世界最大の「古書街」だと言われている。
靖国通りと白山通りが交わる神保町交差点を起点にし、百八十近くの店舗が集ったこの一帯は、まさに「古書街」と呼ぶのにふさわしい。

この文章を見て神保町の古書店がたくさん並ぶ街並みが思い浮かびワクワクしました。
まさに古書の街で古書店が街の景観を形作っています。

龍司が六浦すばると初めて会った時、彼女は「神保町オデヲン・案内人 六浦すばる」というスタッフ証を下げていました。
龍司はふとしたきっかけで「E.T.」の映画を観たくなり神保町オデヲンに来ました。
すばるは龍司の様子を見ただけで古書店レガシーに行った帰りであることを言い当てていて、洞察力の凄さが印象的でした。
本人は案内人について次のように言っています。

「映画の解説から劇場への要望、あるいは映画にまつわるお客様の悩み相談まで、映画に関することであればなんでも承っております。
お客様と映画を繋ぐ、それが案内人である私、六浦すばるの務めです」

そんなすばるに龍司は叔父の遺品の中にあった「E.T」の前売り券と指輪について相談します。
そこから龍司も知らなかった叔父の当時のことが明らかになっていきます。


「Film.02 羅生門イン神保町オデヲン」
すばるに惹かれた龍司は神保町オデヲンで働きたいと思い、アルバイトの面接を受けます。
久本支配人との面接の中で「シネフィル」という言葉が出てきました。
シネフィルとは映画通という意味で、神保町オデヲンの常連はシネフィルの人が多く、映画について質問される機会が多いとありました。
映画の知識のなさに難色を示されながらも龍司は神保町オデオンで働くことになります。
職場ではすばるのほかに゛曹長゛と呼ばれるかつては陸上自衛隊で戦車に乗っていたベテラン映写技師の瀧総一郎、童顔の女性従業員・琴吹鶫(つぐみ)などが登場。
ちなみにすばるはちょっと愛想の足りない人でもあり、龍司に業務を教える時も終始淡々としています。
案内人についてはすばるが個人的な事情で行っているとあり、どんな事情があるのか気になりました。

すばるは映画史を専攻している大学院生で今は休学中とありました。
なぜ休学しているのかが気になるところで、案内人の業務と関係がありそうでした。

この話では花房幸太郎というクレーマーのような客が登場します。
話しかけられた際に映画の知識のなさを糾弾され、龍司はアルバイト初日から憂鬱な気分になっていました。
花房は有森淳、菅野太一と三人でよく神保町オデヲンに映画を観に来ていて、三人は大学時代の映画サークルの同期であり友人です。
花房たちはみんな63~4歳なのですが、私は花房の態度を見てこういう人にはなりたくないと思いました。

その花房が映画を観ていた際、持っていた手帳に栞として挟んでいた映画のフィルムを無くす事件が発生します。
花房はだいぶショックを受けていましたが、有森と菅野は盗まれたか龍司が清掃の際にゴミと間違えてすててしまったのではと好き勝手なことを言っていました。
この事態にすばるがまるで探偵のように三人から事情聴取をし、フィルムをどこで紛失したかの謎に迫っていきます。
ちなみにその映画フィルムについては花房たちが「日本映画の歴史を変えた伝説」「青春の輝き」と言っていてだいぶ価値のあるフィルムのようでした。


「Film.03 フィルム・ガーディアン・バスターズ」
龍司が神保町オデヲンに行く際に神保町駅のA7番口がよく出てくるので、読んでいるとA7番口に行ってみたくなります。
この話では映画泥棒の問題を扱っていました。
龍司が「頭がビデオカメラになったスーツ姿の怪人」と言っていた怪人がよく映画上映の際に注意喚起で登場しますが、映画館では映画泥棒の問題があります。

この話では三枝(さえぐさ)祐樹という経理担当の専任社員が登場しました。
「イケメンだが口が悪い」との評があり、なかなかの口の悪さを発揮していました。

無愛想でほとんど口を利いたこともない瀧が映写窓から龍司の仕事ぶりをよく見ていたことも分かりました。
龍司の良い部分を指摘していて、ほとんど話したことがなくても興味がないわけではないようです。

映画泥棒の情報を得るため、すばるが龍司に「桜上水キネマ」という映画館に行かないかと誘うのですが、元々すばる目当てでアルバイトを始めた龍司は誘いに乗り気でした。
その帰り道、映画泥棒がどうやって映画を盗んでいるかの手口に気付くのですが、これは読んでいてすぐに分かりました。


「Film.04 サンセット古書街通り」
小野寺美恵子の身内だという人からすばるに電話がかかってきます。
電話をかけてきたのは美恵子の娘の川北蘭子という人で、すばるに案内人業務を頼んできます。
癌に侵され先が短いかも知れない母のために、母がどうしても観たいと言っている映画を探してくれないかというものでした。
美恵子は喉の手術によって声を失っていて、今は軽い認知症を患っていることもあり意識が朦朧としがちで、手がかりは一枚のメモ用紙だけです。

「可憐なる歌女、燃えるような赤い夕日をもう一度」

さすがの映画に圧倒的に詳しいすばるでもこの手がかりだけで映画を探すのは難しいようで、かなり苦戦していました。
またこの話ではすばるがなぜ案内人になったのかの理由が明らかになります。


全体的に文字ミスが多く、そこが凄く残念でした。
最後の「Film.04 サンセット古書街通り」ではすばるがなぜ案内人になったかが明らかになるのですが、そんな時に文字ミスがあるとがっかりしてしまいます。
校正をきちんとしていない印象を受けました。
同様の意見が多数上がると思うので、作者及び宝島社さんには文字ミスをなくす努力をしてほしいと思います。


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