湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

オイシーカレーライス

2014-02-18 23:12:25 | B食の道


「ごめんなさ~い、今日はもう勘弁して」

以前いちど扉を開けた時、いきなりこんなことを言われたのだ。
でも、狭い店内にあふれんばかりのお客さん、カウンターの上に積みっぱなしになっている使用済みの丼やらお皿を見たら、は~いと言って扉を閉めるしかなかったのである。

あの日はたしか日曜日だった。今日は平日の午後1時過ぎ。
中華街の外れにある小さなお店『江南』の扉を僕は再び開いたのだ。

「あら、いらっしゃい」
あの時はカウンターの中で顔も見えなかった声の主であるおばあちゃんが、今度はカウンターのこっち側で読んでいた新聞を閉じながら振り返る。店内は暗くて静かだ。お客さんは一人もいなかった。

「え~っと、カレーライスね」

あの時、僕はご飯にルーをかけるだけのカレーライスが食べたかったんだ。そして今日、遂にそのカレーライスを頼んだ。
「え~っと」と前置きをしたのは、壁に貼られたメニューに「ヘルシーカレーライス」(500円)とあったから。これでいいのかという不安と「けっ、ヘルシーなんて」という気恥ずかしさも交錯したのである。



「はい」と言いながらおばあちゃんは「宝焼酎 純」の瓶からコップに透明の液体を注ぎ、僕の前に置くのであった。
「あれ? 呑めないんだけど」
と一応言ってみたら、受けた!

どうやらいったんヤカンで沸かしたお湯を、酒瓶に入れて冷蔵庫で冷やしておくようだ。なるほど。

刻み音、続いて炒め音がして、それからようやく香ばしいカレー臭が漂い始めた。あとで「ウチはルーで作ってんじゃないのよ」と聞くことになるのだが、カレーは一皿一皿イチから作っていたのだ。あの時「ルーをかけるだけのカレーライスが食べてたかった」なんて言っちゃってごめんなさい。僕は目の前に置かれたそれにまずは手を合わせ、ありがたくいただいた。

豚肉の旨味と玉ねぎの甘みが出た、そして両者ならではの食感もある、ちょっと懐かし系のカレーライスである。普通にかなりおいしい、楽しい、うれしい。
ただし、ここまでではまだ「ヘルシー」なのかどうか不明だったが、またまた聞こえた刻み音に続いて運ばれてきた小皿を目にして納得した。



大根サラダが付いてきたのだ。

ただ、大根サラダといえば、断面が正方形かやや長方形が一般的。ところが、同じ細切りでも薄切りタイプだった。この歯ざわりがとてもいい。さらに、トグロを巻いてこんもりしたマヨネーズがまことに美しい。
美しいけど、これでは「ヘルシー」に?が付く。
まぁ、そんなことはどーでもいいや。別に僕はヘルシーを求めていたわけでもないし、実際オーダー時にも「ヘルシーカレーライス」と言った覚えもないしね。ましてや、これがカレーライスに実にピッタリ合うんだから文句のつけようがないじゃん。ヘルシーだかどうだか知らないけれど、絶妙のコンビであることだけは確か。これで、500円とは!

このあと、これを堪能しながら僕はおばあちゃんと話し続けることになる(笑)んだけど、その中で「玉ねぎがキライ」なんてフレーズが出てきて驚いた。でも「作るのは好き」だそうだ。
なんだか、来たときより帰る頃、僕はこの店がもっと好きになっていた。