その店の扉を開けたとたんに、「佐倉」が「神保町」になった。
鼻腔をつく匂いは、間違いなく古本屋のそれだ。
佐倉市立美術館の並びにひっそりと佇む『アンティークカフェ さくら木』である。
僕たち二人の他に客はいない。大汗をかいて飛び込み注文したアイスコーヒー(400円)を、年老いた店主はじっくり時間をかけ抽出した。そして、テーブルまでやってくると、氷を満たしたグラスにフラスコから黙々とコーヒーを注ぐのである。
氷がおウチの冷蔵庫タイプなのはちょっぴり淋しいが、確かにおいしい一杯を味わう。
しかもチョコなどが添えられていて嬉しい。
ただし、その後店主は厨房から一歩も出てくることはなく、お会計時に呼んで起こした(笑)。
店名の通りあたりには脈絡のない古道具が所狭しと並ぶ。その中でひときわ目を引くのが、なぜか中央にそびえる雑誌の山。いったい何冊あるのだろうか。下の方はもう何年も読まれていないに違いない(笑)。
入った瞬間に「神保町」にワープしてしまったのは、この山が放つ匂いだったのである。
小さなサイズのテーブルや椅子、ほの暗い照明…
最初は気になった匂いすら、いつのまにか心地いいものに変化し、読書欲さえがわいてくる。ところが、扉を押して外へ出ると、そこは確かにさっきまで歩いていた佐倉の城下町に戻るのだった。