あるくみるきく_瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内を中心とした、『旅するシーカヤック』の記録

『芸予ブルー』_テーマカラー of 印象派_”瀬戸内シーカヤック日記”

瀬戸内シーカヤック日記: あるくみるきく双書_宮本常一と歩いた昭和の日本 25 青春彷徨

2012年10月28日 | 旅するシーカヤック
旅へ!

この週末は、無性に旅に出たくなった。 そのきっかけは、『宮本常一と歩いた昭和の日本 25 青春彷徨』
農文協から出版されている、『あるくみるきく双書』の最新刊である。

この本が出版されたのを知ったのは、森本孝さんからのメール。 地元『豊島』の家船の事を書いたブログにコメントを頂いたことがきっかけで時折やりとりをさせていただくようになり、今回、この本の編集をされたということで、紹介していただいたのだ。

早速amazonで検索して入手し、読み始めた。


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その表紙の裏に、宮本常一の一文が引用されている。

『私はたいてい一人旅をしますから、いたって気らくで、それに予定ももたず、日の暮れたところで宿をもとめます。 (中略) したがって、谷間などがきれいな水がながれていると、つい水浴びをやったり、肌着の洗たくをしたり、そうしたものを木の枝にかわかしつつ、木陰で昼寝をすることも少なくありません。 (中略) 広い道はなるべくあるかぬようにたいてい旧道や間道を行くことにしていますから、人にあうこともすくなく、不作法なまねもできるわけですが、そうした旅で、一番印象に残るのが水なのです。』

いやあ、これは俺の旅と一緒じゃあないか。 もちろん俺の場合は調査のための旅ではないが、シーカヤックや自転車で一人、芸予諸島の島々を渡り歩き、誰もいない浜で海水浴を楽しみ、キャンプ場でタオルやシャツを洗って、樹木の間に張ったロープに干す。

うーん、これは。 ”つかみ”からストライクゾーンど真ん中である。

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最初は、『宮本常一が撮った写真は語る 高知県・檮原町』 以前、周防大島でのイベントでお会いした、香月洋一郎さんの紀行文である。

檮原の鍛冶職人、影浦富吉さん。 この方は、打つ鍬ひとつひとつを、使い手の身長、体力、利き腕、その人の持っている耕地の傾斜や土質にあわせて、大きさ、ヒツの具合、鋼ののせ加減、焼き入れ具合などをこまかく調整して鍛造するというとんでもない鍛冶職人なのだとか。

坂本竜馬が泊まった部屋を常宿としていた話や、宮本常一の写真に対するプロのコメントなどなど。

(以下、引用) 『そのご主人が、宮本先生の写真については、ほとんどなにも言わなかった。 「撮り流しの写真が多いんだろうけど、宮本先生の写真には、なにかひとつの趣というか感覚がきちんと出てるんだよね」ある時、どこか不思議そうにそう話していたことがある。』 (引用、終り)

うん、そんな風に写真を撮れるようになりたいものだ。

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その次の、『青春彷徨 ふうらい坊渡世 (稲垣尚友)』
これには圧倒された!

私レベルの稚拙な表現力ではなんとも表現し難いのだが、その文章から溢れてくるエネルギー、熱さ、行動力が、とにかくスゴいのである。

読み終わった後、あまりのパワーに当てられて、しばし体の力が抜け、心は呆然とし、しばらくの間この本を開く気にならなかったほど。

このインパクトのある記事については、とても私の文章力で紹介できるレベルではない。 合う合わないはあるかもしれないが、是非機会があればご一読を!

生涯不良、そして風に吹かれて東へ西への風来坊に憧れているのだが、これじゃあちょっとやそっとじゃ本物の風来坊にはなれそうもない。

いやあ、本当にすごい人がいるんだなあ。 降参。

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そして、『ー宗谷岬から佐多岬までー 日本縦断 徒歩旅行(田中雄次郎)』

昭和52年当時19歳の田中さんが、テントなしのシュラフ&バックパックで、北海道から九州まで徒歩で縦断した紀行文である。

シュラフ一つで蚊に刺されながら野宿をし、多くの差し入れやお風呂、食事、宿など、多くの人に助けられ、応援してもらい、時にはホモに襲われそうになりながら、徒歩にこだわっての一人旅。

もらったスイカを夕食にしようと、中華料理屋で包丁を借りようとすると、(以下、引用)
『夕食は?』と聞かれ『夕食はこのスイカ』と答えたことをきっかけに、飯にみそ汁、そして明日の弁当にと握り飯をくれた。

貰ってしまってから、ひょっとして自分はこんなことを期待していたんじゃないだろうかと、少しばかり自責の念にかられた。

いつの間にか雲がなくなり星のきらめく気分のいい夜、食後のお茶を飲みながら『いつも人の世話になってばかりだ』と言うと『いいじゃない、今度いつかあなたが他の人にそうしてあげるのよ』と言われ、うん、全くそうだと思った。

毎日歩いていたら九州になった。 自分の後をふり返ったら秋田があり、新潟があり山口があるような気がする。 佐多岬には早く立ちたいが、今のような生活が終わると考えると寂しく思えた。 (引用、終り)

そうそう。 俺がフェザークラフトのK1で尺取り虫方式での瀬戸内横断を関門海峡を越えて終わるとき、これで瀬戸内横断旅が終わるのかと思うと感慨深く、ついつい眼が潤んでしまったと同時に、『これで終わりなんやなあ』と、なんだか寂しい気持ちになったことを思い出す。

(以下、引用)夜中、猛烈な雨音と数人のくつ音に目をさました。 雨にずぶ濡れになった四人、二本の傘に母親と一人の幼児、二人の小学生、いずれも女の子たち、が薄暗い教室に驚きの顔でかけこんできた。 落ちついてから話をすると、酒乱の夫から逃げて福岡へ行くという。
私はとっさにリュックから、缶詰とわずかを残して全財産のお金を渡した。
『自分の旅はほんとに多くの人たちに助けられました。 何かに使って下さい。 元気で』(引用終わり)

いやあ、やっぱ旅はええなあ。 昔、沢木耕太郎の深夜特急を読んだとき、『あー、こんな旅がしたい!』と強烈なインパクトを受けたことを思い出した。

その時は、既に30半ばで二人の子持ちサラリーマン。 とてもじゃないが、バックパック一つで世界放浪なんて、夢のまた夢。
読んだばかりの深夜特急の世界と、現実の自分を見比べて、出るのは溜息ばかりであった。

それから十数年。
50歳も目の前となり、リタイアまであと十年ちょっと。 二人の子供は既に成人となり、30半ばの時とは別の世界も見えてきたような気がする。

そして読んだのが、『日本縦断 徒歩旅行』である。

旅 旅 旅 、 旅イーッ! 

そう、これは旅に行くしかないでしょう!

***

2012年10月27日(土) バックパックを背負い、『じゃあ、行ってくるけん』と言うと、妻は『はい、忘れ物ない? 気をつけて』と、いつものように気持ちよく送り出してくれた。

週末はいつも遊んでばかりなのだが、自由奔放に放し飼いにしてくれる。 ほんま、ありがとう。

この土日は雨の予報。 シーカヤックでもなく、自転車でもなく、バックパックを担いでの一人旅。

この本を読んだので、クルマでの移動ではなく、徒歩とJRそしてバスを使っての旅を選んだ。
土日のほんの二日間だけではあるが、久しぶりにバックパック旅気分を味わうのである。

***

まずは徒歩で最寄りのJRの駅へ。
乗車券と、広島駅からの自由席特急券を購入。 さあ、旅の始まりだ。

広島駅からは、久しぶりとなる『こだま』 各駅停車で少しばかり時間はかかるが、空席も多くのんびりと旅を楽しめる。

朝の新幹線の中、コーヒーを飲みながら、本の続きを読む。


新幹線を降りると、ローカル線のホームへ。 しばし在来線に揺られ、目的地へ向かうバスがある駅まで移動。


そのころから、雨がポツリポツリと落ち始めた。 それでも今日は、シーカヤックでも自転車でもなく、温泉にゆっくり浸かってのんびりまったり読書三昧、ビール三昧の予定なので、全く気にならない。

駅から温泉まで1時間ほどかかるバスに揺られ、目的の温泉に到着した。
いやあ、運転は大好きだからクルマの旅も好きだけれど、やっぱ列車やバスの旅は楽しいな。

***

なんとか宿もとれたので、チェックインには少し早いが、宿泊客用の入浴券を購入するために宿へ。


『すみません。 ちょっと早いんですが、入浴券を買えませんか?』 すると奥から出てこられ、『あ、到着されたんですか。 早いですね』

『ええ、さっきバスで着いたんです』 『入浴券、これです。 もうすぐ入れますよ』

『荷物、預かりましょうか?』 『あ、いいんですか。 じゃあお願いします』
『タオル、これ使ってください。 あと、傘はこれをどうぞ』 『いやあ、いろいろとありがとうございます』

***

さっそく温泉へ。 この週末は雨だからか、あるいは少し時間が早いからか、お客さんは少なく、気持ちの良い温泉をほぼ独り占め。
少しぬるめのお湯にのんびりと浸かり『あー、天国天国』

最近は、ストレスフルな仕事が多く、昔のように有給休暇もあまりとれないし、帰りも前より遅くなった。 この週末は、たっぷりと温泉に浸かって、本を読んで、そしてビールを楽しんで、ゆっくりと静養することにしよう。

風呂から出ると、お昼ご飯。
おいしそうなランチとビールを注文。 『大瓶でお願いします』 すると、『すみません、中瓶しかないんですよ』
『生ビールなら大がありますが』 『じゃあ、それで!』 もちろん即答である。

バックパックを担いで電車とバスに揺られてはるばる来た温泉。

風呂から上がり、おいしいランチをいただきながら、昼から”幸せの”生ビール(大)。 これ以上何が要る?


***

『ごちそうさまでした。 うん、ここのランチはおいしいな』 食後、少し休憩して再び温泉で体を伸ばす。

外は雨と風で少し寒いくらいだが、体はホカホカと芯からあたたまって気持ちよい。

チェックインの時間になったので宿に入り、荷物をほどいて着替えると、こたつに入って本を開く。

途中、ちょっと部屋を出たところで宿の方に出会った。 『退屈じゃないですか』 早くから宿に入り、部屋から出てこないので気にしてくださったのだろう。

『ええ、本を読んでるんです。 この週末は、温泉と読書でゆっくりしようと思ってるんですよ』


***

夕方、再び温泉へ。 さて、そろそろ晩ご飯かな。

『コンコン』とノックの音。 『はーい』 『晩ご飯、準備できました』 待ってました!

ここの宿は部屋食。 『どうぞ、ごゆっくり』

リーズナブルな料金なのに、おいしそうな料理が並んでいる。 うん、これはおいしそうだ。 『いただきます』


『ごちそうさまでした』 大満足の夕食であった。

食後はゴロリと横になり、再び本を開く。

腹がこなれたところで再び温泉。 昼に温泉のおっちゃんに、『何回でも入って、元とってくださいね』と言われた事を思い出す。

***

翌朝。 目が覚めると雨は上がっていた。

しばし散歩し、そのまま朝風呂へ。 『いやはや、天国天国』




宿に戻り、ゆっくり朝食をいただく。
朝食を持ってきていただいたとき、ちょうどipodにスピーカーをつないでお気に入りの音楽を聴いていた。 『いいですね』 『ええ。 温泉に読書に音楽。 たっぷり楽しんでます』


朝ご飯もおいしく、ついついご飯二杯いただいてしまった。 『ごちそうさまでした』


帰る前にもう一度温泉に浸かり、これにて温泉は〆である。 『いやあ、たっぷり入ったなあ』

さて、そろそろ戻るとするか。 ここから再び、バス、電車、新幹線、在来線、そして徒歩のバックパックを担いでの旅の続き。

帰りはバスも列車も、往路とは別の初めて使うルートをたどるとしようか。
悲しいかな、サラリーマンの現実である週末二日間だけの”なんちゃってバックパック旅”であることは分かっているが、せっかくだから精一杯楽しみたいではないか。

お昼ご飯は、少し寂しくなった財布と相談して、温泉地の地元野菜を売る市場で『栗ご飯』を購入し、途中の駅で缶ビールと栗ご飯でちょっぴり節約。 うん、この栗ご飯、おいしいな。 そしてもちろんビールは美味い!


***

もう、10代、20代のような旅はできないし、旅先で出会う人の対応も若者とは違うことは承知している。
それでも、40代には40代の、50代には50代の、そして60代には60代のバックパック旅、シーカヤック旅、自転車旅があるに違いない。

これからも、その歳・年ならではの旅をたっぷりと楽しんでいきたいな。
いやあ、やっぱり旅ってほんとうにいいもんですねえ。 ほいじゃあのう~!

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