錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

中村錦之助伝~転機(その4)

2012-11-06 01:44:06 | 【錦之助伝】~若手歌舞伎役者時代
 錦之助は、大阪から帰ると、6月に歌舞伎座で八百蔵改め八代目市川中車、高麗五郎改め九代目市川八百蔵の襲名披露公演に出演した。「名月八幡祭」の芸者と「どんつく」の若旦那の役だった。
 そして7月、明治座に出演した。7月の明治座公演はなぜか錦之助本の巻末リストにはすっぽり抜けているが、データベースにも「演劇界」にも記載があるので出演したことは間違いない。以下、演目と錦之助の役名、主な配役を挙げておく。

 7月4日~28日 明治座 吉右衛門劇団
 相馬の金さん 岡本綺堂作 (官軍隊士
 幸四郎(相馬金次郎)、又五郎(弟半三郎)、勘三郎(石沢寅之助)、訥升(文字若)、団蔵(伊勢屋亭主)、吉之丞(番頭)、九蔵(おくま)、芝鶴(おとく)、福助・歌昇・慶三ほか(官軍隊士)
 女殺油地獄 近松門左衛門作 (妹娘おかち
勘三郎(河内屋与兵衛)、歌右衛門(豊島屋女房お吉)、勘弥(豊島屋七左衛門)、幸四郎(兄多兵衛)、芝雀(天王寺屋小菊)、吉之丞(与兵衛親徳兵衛)、又五郎(小栗八弥)、歌昇(講中市兵衛)
 浮舟 「源氏物語」より北條秀司作演出 (大輔
 歌右衛門(浮舟)、幸四郎(薫大将)、勘三郎(匂宮)、勘弥(時方)、松蔦(侍従)、訥升(中の君)、芝雀(右近)、芝鶴(浮舟の母中将)

 錦之助の役はどれも大した役ではないが、出し物自体は名作、佳作揃いで、時代も内容もバラエティに富んでいる。
 「相馬の金さん」は幕末物で、江戸っ子の御家人が彰義隊に入って暴れる話。
 「浮舟」は舟橋源氏に対抗して北條秀司が書いた悲恋物で、この時が初演であったが、歌右衛門、幸四郎、勘三郎の三者の代表作の一つになった。
 「女殺油地獄」は近松の名作で、後年錦之助が東映で映画化を企画し、実現寸前になって流産した作品である。「女殺油地獄」は昭和32年、扇雀と新珠三千代、それに鴈治郎が加わって東宝で映画化されている。若い頃、錦之助は近松の作品にかなり執着し、東映では「曽根崎心中」も映画化を望んだが、これも実現せず、結局『浪花の恋の物語』(近松の「冥途の飛脚」とその改編版「恋飛脚大和往来」が原作)で、亀屋忠兵衛を演じただけで終ってしまった。
 この公演ではほかに、「通俗西遊記」(三世河竹新七作)といったエンターテイメント歌舞伎も上演し好評だった。それには、幸四郎の息子の染五郎(11歳)と萬之助(9歳)、勘三郎の娘の久里子(7歳)と千代枝も子役(小猿)で出演している。(勘九郎はまだ生まれていない。)「西遊記」は、勘三郎が孫悟空、幸四郎が三蔵法師、歌右衛門が女王といった配役だった。
 
 昭和28年のこの頃になると、吉右衛門が出演しなくとも、吉右衛門劇団は、幸四郎、勘三郎、歌右衛門の三本柱で立派に興行が打てるようになっていた。ここに、守田勘弥が入り、吉右衛門門下で生え抜きの又五郎、吉之丞、吉十郎、九蔵が加わり、客分格の訥升(この後すぐ宗十郎を襲名する)、団蔵、芝鶴といったベテランが脇を固めるといった布陣であった。ほかに助高屋高助、高砂屋の福助、坂東慶三、女形には芝雀と、澤村源平(病気休養中のようだった)がいる。染五郎や萬之助も英才教育を受け子役で育ってきた。さらに時蔵一門が参加すればまさに大一座である。襲名後の歌昇は、吉右衛門の勘気が解けたのか、時蔵が出演していないにもかかわらず、この公演では吉右衛門劇団に参加している。
 こうした状況で、錦之助がいくら良い立役をやろうとしても、無理な話だった。女形でも三番手、四番手になってしまうのは当然であった。



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