一年目 前夜 第二話「黒い夢」
黒い夢を見るようになったのはいつからだろう?
一ヶ月前のことか、二ヶ月前のことか、それとももっと前のことなのか、バードにもわからなかった。
気がつくと、いつの間にか見るようになっていたのだ。
内容はいつもほとんど同じだった。
闇の中で何か黒いものが蠢いている。黒いものはアメーバのようにいくつかに分裂し、それぞれがうねうねと動きながら別の動物を形作る。その動物はカラスだったり、ヘビだったり、カエルだったり、その時々だが、共通するのは中央に坐する奴が一際大きく、片目だということだった。
右の目が醜く潰れたカラスがバードに向かって傲慢な物言いで言う。
「お前は選ばれたのだ!」
すると周りのカラスたちが「選ばれたのだ!」と復唱する。数えてみると、カラスは中央の奴も含め全部で十三羽いた。
「お前は特別な力を持っている!」
「持っている!」
「お前はここに来なければならない!」
「来なければならない!」
「我々はお前を待っている!」
「待っている!」
台詞が若干違うこともあったが、およそいつもそのような内容だった。
バードが何に選ばれたのか、バードの持つ特別な力とは何か、こことはどこなのか、我々とは誰のことなのか、そういったバードの知りたいことには何一つ教えてはくれなかった。
だがある夜の夢の中で、ヤマネコがこう言った。
「お前は年が明けた最初の夜を我々とともに過ごすだろう!」
「過ごすだろう!」
ありえない!!
夢の中でバードは叫んでいた。
なぜならその頃には既に血塗道化団との対決は、奴らが新年の祝いでしこたま酒を飲んでいるであろう元日の夜と決まっていたからだった。
「お前に会える日を我々は楽しみにしている!」
「楽しみにしている!」
ヤマネコが夢の終わりに残された左目を吊り上げ、ニヤリと笑った。
ありえない、というバードの叫びを無視して。
第三話『真夜中の街で』に続く
黒い夢を見るようになったのはいつからだろう?
一ヶ月前のことか、二ヶ月前のことか、それとももっと前のことなのか、バードにもわからなかった。
気がつくと、いつの間にか見るようになっていたのだ。
内容はいつもほとんど同じだった。
闇の中で何か黒いものが蠢いている。黒いものはアメーバのようにいくつかに分裂し、それぞれがうねうねと動きながら別の動物を形作る。その動物はカラスだったり、ヘビだったり、カエルだったり、その時々だが、共通するのは中央に坐する奴が一際大きく、片目だということだった。
右の目が醜く潰れたカラスがバードに向かって傲慢な物言いで言う。
「お前は選ばれたのだ!」
すると周りのカラスたちが「選ばれたのだ!」と復唱する。数えてみると、カラスは中央の奴も含め全部で十三羽いた。
「お前は特別な力を持っている!」
「持っている!」
「お前はここに来なければならない!」
「来なければならない!」
「我々はお前を待っている!」
「待っている!」
台詞が若干違うこともあったが、およそいつもそのような内容だった。
バードが何に選ばれたのか、バードの持つ特別な力とは何か、こことはどこなのか、我々とは誰のことなのか、そういったバードの知りたいことには何一つ教えてはくれなかった。
だがある夜の夢の中で、ヤマネコがこう言った。
「お前は年が明けた最初の夜を我々とともに過ごすだろう!」
「過ごすだろう!」
ありえない!!
夢の中でバードは叫んでいた。
なぜならその頃には既に血塗道化団との対決は、奴らが新年の祝いでしこたま酒を飲んでいるであろう元日の夜と決まっていたからだった。
「お前に会える日を我々は楽しみにしている!」
「楽しみにしている!」
ヤマネコが夢の終わりに残された左目を吊り上げ、ニヤリと笑った。
ありえない、というバードの叫びを無視して。
第三話『真夜中の街で』に続く