M8-9規模の南海トラフを震源域とする巨大地震をどう予測し、何が起きるか、どう備えるかを考える 第3回
1) 南海トラフ地震の特徴と歴史(その1)
南海トラフとは東海地方から西日本太平洋側の海底に付けられた名称である。トラフとは「桶」のことでプレートが沈み込む場所であるが、東北地方の日本海溝と違って穏かで比較的浅い凹みが続いている。南海トラフを含めて、フィリッピン海プレートが沈みこむ場所は、関東の南岸から九州・沖縄に沿って台湾までの太平洋側、さらに台湾からフィリッピン諸島の東側海岸に連なる。このうち南海トラフと呼ばれているのは、伊豆半島付け根の駿河湾から四国沖にかけてである。九州から沖縄にかけては南西諸島海溝と呼ばれる。世界中にはプレートが沈み込むトラフは数か所存在するが、南海トラフの知名度、関心が一番高い。伊豆半島を軸として、左右対称に駿河トラフと相模トラフに別れて、南海トラフは湾曲して日本列島にぶつかる。相模トラフは1923年関東地震の震源域であった。トラフが日本列島にぶつかっ後は、相模トラフの延長は国府田―松田断層帯、駿河トラフの延長は富士川河口断層帯で富士山の地下にもぐっている。この二つの断層帯は地震があると連動してずれる可能性があり、縦ずれの逆断層型である。南海トラフ地震で富士山が連動する可能性は否定できない。東海地震は東名高速道路、東海道新幹線といった経済の大動脈であり、ずれ変位は最大10mと推定されており、大惨事は免れない。南海トラフ沿いには、東から御前崎、潮岬、室戸岬、足摺岬富崎が並んでいる。御前崎岬付近では地震予知のため国土地理院は25Kmおきに水準測量を行っている。毎年26cm沈降しており、沈降の傾向が反かして隆起に転じることが地震の前兆であると考えられるからである。御前崎から伊勢湾までの海域を遠州灘と呼んでいる。なだらかな海岸線であるが、静岡県の海岸は砂浜で、愛知県の海岸は崖で、三重県の海岸はリアス式海岸となり、入り江が複雑に連なっている。だから静岡県では津波によって海水が侵入する。愛知県は津波の影響は少ない。伊勢湾は出入り口が小さいので津波の影響は軽微だろうと思われる。三重県は津波が高く押し寄せ被害が甚大になる可能性が高い。伊勢湾と若狭湾を挟む地域は本州のくびれになっており、直線距離で100Kmしかない。この地域はプレートが浅い角度で潜り込み、地殻の沈降が顕著なちいきである。潮岬は南海トラフの巨大地震にとって特別な場所である。潮岬を境として東側と西側で別々に地震が発生している。東側で発生する自信を東海地震とよび、西側の地震は東南海地震と呼んでいる。潮岬の紀伊半島の先でプレートが深い角度で沈み込んでおり、押し込む圧力が高い。摩擦力も大きくずれにくいので東西の地震は連動しにくいと言われる。潮岬より西、四国沖にかけては南海地震の震源域である。南海地震の長期評価で、今後30年間の発生確率が60-70%程度という根拠は室戸岬にある。1707年の宝永地震、1854年の安政地震、1946年の昭和地震のときの隆起量が計算に用いられた。巨大地震が発生するとプレート境界がずれ動くことで室戸岬が隆起する。隆起量と次の地震までの時間には相関があると仮定して計算をするのである。南海トラフで発生した津波は和歌山県、高知県、徳島県の海岸に押し寄せる。「稲村の火」で有名な和歌山県広川町の浜山梧陵は1946年の昭和南海地震から村人を救った逸話がある。室戸岬と足摺岬の間にある高知市は地震の際に沈降することが知られている。昭和地震で1mも沈降した。沈降した分は時間をかけて元に戻る。プレートの押し込みで室戸岬と足摺岬が陸側に押し込まれ、反対に高知市付近は海側に移行するからである。四国と九州の間にある豊後水道はスロースリップで知られている。地震を起さずにゆっくりずれ動くことである。浜名湖付近の東海スロースリップとともに有名である。地震はおきなくとも周囲の歪はしわ寄せによって大きくなる。豊後水道のスロースリップによって南海地震の震源域や日向灘の震源域の歪が高まる。南海トラフ巨大地震で連動するのは九州パラオ海嶺までとされる。
(つづく)
1) 南海トラフ地震の特徴と歴史(その1)
南海トラフとは東海地方から西日本太平洋側の海底に付けられた名称である。トラフとは「桶」のことでプレートが沈み込む場所であるが、東北地方の日本海溝と違って穏かで比較的浅い凹みが続いている。南海トラフを含めて、フィリッピン海プレートが沈みこむ場所は、関東の南岸から九州・沖縄に沿って台湾までの太平洋側、さらに台湾からフィリッピン諸島の東側海岸に連なる。このうち南海トラフと呼ばれているのは、伊豆半島付け根の駿河湾から四国沖にかけてである。九州から沖縄にかけては南西諸島海溝と呼ばれる。世界中にはプレートが沈み込むトラフは数か所存在するが、南海トラフの知名度、関心が一番高い。伊豆半島を軸として、左右対称に駿河トラフと相模トラフに別れて、南海トラフは湾曲して日本列島にぶつかる。相模トラフは1923年関東地震の震源域であった。トラフが日本列島にぶつかっ後は、相模トラフの延長は国府田―松田断層帯、駿河トラフの延長は富士川河口断層帯で富士山の地下にもぐっている。この二つの断層帯は地震があると連動してずれる可能性があり、縦ずれの逆断層型である。南海トラフ地震で富士山が連動する可能性は否定できない。東海地震は東名高速道路、東海道新幹線といった経済の大動脈であり、ずれ変位は最大10mと推定されており、大惨事は免れない。南海トラフ沿いには、東から御前崎、潮岬、室戸岬、足摺岬富崎が並んでいる。御前崎岬付近では地震予知のため国土地理院は25Kmおきに水準測量を行っている。毎年26cm沈降しており、沈降の傾向が反かして隆起に転じることが地震の前兆であると考えられるからである。御前崎から伊勢湾までの海域を遠州灘と呼んでいる。なだらかな海岸線であるが、静岡県の海岸は砂浜で、愛知県の海岸は崖で、三重県の海岸はリアス式海岸となり、入り江が複雑に連なっている。だから静岡県では津波によって海水が侵入する。愛知県は津波の影響は少ない。伊勢湾は出入り口が小さいので津波の影響は軽微だろうと思われる。三重県は津波が高く押し寄せ被害が甚大になる可能性が高い。伊勢湾と若狭湾を挟む地域は本州のくびれになっており、直線距離で100Kmしかない。この地域はプレートが浅い角度で潜り込み、地殻の沈降が顕著なちいきである。潮岬は南海トラフの巨大地震にとって特別な場所である。潮岬を境として東側と西側で別々に地震が発生している。東側で発生する自信を東海地震とよび、西側の地震は東南海地震と呼んでいる。潮岬の紀伊半島の先でプレートが深い角度で沈み込んでおり、押し込む圧力が高い。摩擦力も大きくずれにくいので東西の地震は連動しにくいと言われる。潮岬より西、四国沖にかけては南海地震の震源域である。南海地震の長期評価で、今後30年間の発生確率が60-70%程度という根拠は室戸岬にある。1707年の宝永地震、1854年の安政地震、1946年の昭和地震のときの隆起量が計算に用いられた。巨大地震が発生するとプレート境界がずれ動くことで室戸岬が隆起する。隆起量と次の地震までの時間には相関があると仮定して計算をするのである。南海トラフで発生した津波は和歌山県、高知県、徳島県の海岸に押し寄せる。「稲村の火」で有名な和歌山県広川町の浜山梧陵は1946年の昭和南海地震から村人を救った逸話がある。室戸岬と足摺岬の間にある高知市は地震の際に沈降することが知られている。昭和地震で1mも沈降した。沈降した分は時間をかけて元に戻る。プレートの押し込みで室戸岬と足摺岬が陸側に押し込まれ、反対に高知市付近は海側に移行するからである。四国と九州の間にある豊後水道はスロースリップで知られている。地震を起さずにゆっくりずれ動くことである。浜名湖付近の東海スロースリップとともに有名である。地震はおきなくとも周囲の歪はしわ寄せによって大きくなる。豊後水道のスロースリップによって南海地震の震源域や日向灘の震源域の歪が高まる。南海トラフ巨大地震で連動するのは九州パラオ海嶺までとされる。
(つづく)