ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 白井 聡著 「戦後の墓碑銘」 (金曜日 2015年10月)

2017年03月14日 | 書評
永続敗戦レジームのなかで対米従属路線と右傾化を強行する安倍政権の終末 第15回 最終回

4) 「生存の倫理としての抵抗」

① 倫理から始まる連帯
マハトマ・ガンジーの言葉「あなたがすることのほとんどは無力であるが。それでもしなければならない。それによって世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないために」 原発再稼働反対デモに行っても国是は変わらないかもしれない。問題は行動しないことによって、自分のうちの大事なものが変わってしまうなら、人は行動しなければならない、自分を守るために。消極的行動論とか無抵抗行動論ともいう。人々に真の連帯をもたらすものは、有効な行動計画ではなく、倫理的連帯である。
② 「否認の国」の住民たちへ
認めたくないことはなかったことにする。これは心理学用語で「否認」と呼ぶ。2020年東京オリンピックは3.11を無かったことにするための膨大な無駄使いとお祭り騒ぎである。原子力行政そのものが「否認」であった。核廃棄物の最終処分法がないこと、最終処分地がどこにも設置できないこと、原子炉の下には活断層が走っていること、14メートルの高さの津波がいつ来てもおかしくはないこと、高速増殖炉の技術は非常にハードルが高く欧米はあきらめたこと、6か所村のプルトニウム再生工場は不要でコスト倒れであること、原発発電コストは事故のことや開発費そして立地費を考えると途轍もなくコスト高であること、首都圏に危険な原発は設置したくないこと、福島の原子炉は底が抜けてメルトスルーしていること、廃炉技術は未完である事など不都合な事実はなったことにして原子力ムラはしゃにむに進めてきた。彼ら政官財学メディアの心理は「生ける屍」である。
③ 悪鬼と共に戦う方法
佐藤健志著「震災ゴジラ―戦後は破局へと回帰する」(VNC)は、繁栄する日本で今まさに進行している事態にほかならない。テーマは「否認」である。今まさに殺されようとする被害者の心の防衛機能である。危機に直面すると頭を砂にうずめるガチョウの行動である。厳然と存在する不都合な事実に、現実的な対応がなされなくなるからである。こうした状態は、第二次世界大戦末期の日本に酷似している。沖縄を失い二度も原爆を落とされても、神風が吹いて日本は勝利することになっていた。これを信じないものは非国民、アカであるとされ弾圧の対象であった。ゴジラはアメリカという説が有力である。
④ 「犬死せし者」を救い出すために
A球戦犯者を神として祀る靖国神社問題は、参拝支持者らは「参拝しないことで死者を犬死させたくない」というらしい。戦前の戦争指導者は自らの致命的失敗、敗北を認めず、そのために状況をさらに悪化させた。敗北が決定的になった最後の一年間での死者は200万人を超える(全戦死者は300万人)。片道ガソリンだけで突撃した特攻隊飛行兵、食料も装備もなくロジスティック無視で戦地へ駆り出された兵士こそ犬死ではないか。
⑤ 原発問題はそれで最大の争点だったー都知事選を終えて
都知事選はマスコミの言うとおり舛添氏の圧勝で終わった。「原発問題は争点にならず」とマスコミ各社はキャンペーンしていたが、争点にしなかったのはマスコミであった。テレビ局が持つ争点設定権力ハ依然として巨大である。投票率は50%以下、東京都民の倫理的破綻は隠しようがない。原発問題が重大であるからこそパワーエリートたちは原発問題を隠そうとした。「決定するのは我々であって、庶民ではない」とする明治以来の権力システムの原則である。明治神維新で権力を握ったのは西南諸藩の武士であり、市民革命的要素は皆無であったから、日本の権力システムは近代化を経由していない封建権力そのものであった。民主主義を近代化と考えると、日本は近代国家ではない。和魂洋才という言葉どおり、技術は西洋から借りて、知らせず拠らせずの社会システムは従来通りの封建性そのものであった。明治神維新は権力の簒奪に過ぎなかった。五か条の御誓文の「万機公論に決すべし」はむなしい理想だった。
⑥ 幼い大人たちの楽しい戦争ごっこ
2014年5月5日集団的自衛権行使容認を閣議決定した。安倍首相は余裕たっぷりに穏当な記者会見を行い、憲法遵守を謳った。このシ二ズム(冷笑主義)は実質的改憲と閣議決定でやってのけるという独裁政治によって、深く深く国民を愚弄しているのである。安倍の言葉の薄っぺらさは別としても、気になるのはその幼児性である。絵で戦争ごっこをしている虚構性が漂っている。殺し殺されるという緊迫感など全くないように、得意満面で戦争関連法規を提出した。
⑦ 奴隷が奴隷であることをやめるとき
どうも日本は尋常な近代国家ではないらしい。東京電力があれほどの原発事故の惨事を引き起こしながら、誰も刑事罰を受けていないし、災害賠償は国の仕事と言って免責されている。かつ原発の再稼働を申請している。明治期の政商のような手厚い保護を国から約束されているようだ。「官僚以上に官僚らしい企業」という言葉は事故前から聞いていたし、官僚を指導し一体となって原子力発電事業を推進してきた。民と官の融合体企業であった。安倍首相が集団的自衛権の行使容認を巡る国会審議で、邦人を救出する米艦を援護射撃するのが集団的自衛権だと言った。ところが米軍は規則では日本人の救出は任務には入っていないと報道している。第1番に救出するのは米国人、2番目に救出するのはアングラサクソン系人(英国、オーストラリア、ヌY-ジランド)となっている。ここまで日本国民は安倍になめられている。この国の国民は奴隷らしく扱うのが正しいと。
⑧ 第2、第3、もっと多くの沖縄を
永続敗戦レジームの代理人仲井間陣営と、このレジームを拒否する翁長陣営の闘いは翁長の勝利となった。沖縄支配体制に対する根本的な異議申し立てに沖縄県民は答えた。翁長氏は辺野古問題にかんして「日本の民主主義国家としての品格が問われている」と述べた。安倍政権・仲井間元知事らは日本を統治することを米国によって許された傀儡政権に他ならない。
⑨ 選ぶべき候補者、政党がない、というたわごと
2014年12月の衆議院選挙では公示二日後の各紙には「与党300議席を超える勢い」といったキャンペーンが打たれた。いとうせいこう氏はこういった報道が「ある種の政治不信というキャンペーンによって無力さを刷り込まれるために行われている」と指摘した。投票率が下がれば下がるほど、与党が有利になるのである。反対勢力を無理化し沈黙させ、あきらめムードで投票場から逃避させる意図が見えるのである。全有権者の20%程度の得票によって議席300が獲得できる選挙制度にも問題は多い。民衆は選挙に行って政治家を激励し、啓蒙しなければいけないのである。
⑩ 国際政治学者とは何者か?
国際政治学である村田晃嗣同志社大学学長は2015年7月13日国会で政府が強行しようとする「新安保関連法案」に賛成意見を陳述した。多くの政府系学者が「違憲」意見を陳述する中で、何とか賛成意見学者の登場を図った。世界とはアメリカのことであり、米国の国益を最大化する学問が国際政治学という代物なのである。村田氏は安全保障の専門家となっているが、日本の最高法規を守る事より、米国との約束を果たすことを最優先する人物である。

(完)