ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 山岡耕春著 「南海トラフ地震」 (岩波新書2016年1月)

2017年03月18日 | 書評
M8-9規模の南海トラフを震源域とする巨大地震をどう予測し、何が起きるか、どう備えるかを考える 第4回

1) 南海トラフ地震の特徴と歴史 (その2)

南海トラフの歴史を見てみよう。南海トラフ巨大地震は600年頃まで遡ることができる。古い文書記録が残っているからである。記録に残る最初の南海トラフ巨大地震は684年11月29日におきた「白鳳地震」で、紀伊半島の西都から四国沖を震源域として発生した。土佐に津波が押し寄せたこと、地盤が沈下したことなどが記されている。次は887年8月26日に発生した「仁和地震」である。紀伊半島東の遠州灘から四国沖までが震源域であった。津波で摂津(今の神戸)が大きな被害を受けたこと、京都で家屋の倒壊が多く発生した。次は平安時代後期の1096年12月17日の「永長東海地震」である。津波が伊勢や駿河を襲ったと記されている。2年後1099年2月22日には紀伊半島西で発生し、「康和南海地震」と呼ばれた。1361年8月3日紀伊半島から四国沖を震源域とする地震が発生した。摂津・阿波・土佐に津波被害があったとされる。1498年9月20日紀伊半島の東で「明応東海地震」が発生した。津波は紀伊半島から房総半島まで押し寄せた。浜名湖はこの地震で海とつながった。鎌倉まで津波が来たという。1605年2月3日被発生した「慶長地震」がある。犬吠埼から九州に至る太平洋岸を津波が襲った。揺れによる被害が記されていないので津波地震であったと考えられる。津波地震は沈み込んだプレート境界の最も浅い部分が狭い領域でずれたために起きる津波である。次は南海トラフで発生した歴史上最大の地震である「宝永地震」が1707年10月28日の発生し、マグニチュードは8.6と推定される。紀伊半島沖の西と東が同時に震源域になった。震度6以上の地域は駿河湾沿岸から九州東部まで及び、伊豆半島から四国まで5-10mの津波が襲った。三重県の尾鷲では津波は10mとなった。1ヶ月後の富士山が噴火し、江戸の大量の灰を降らせた。1854年12月23日には「安政東海地震」が発生した。震源域は紀伊半島東沖から駿河湾までであった。静岡県、山梨県は震度7となったほか、愛知県岐阜県三重県は震度6であった。その32時間後に「安静南海地震」が発生した。紀伊半島から九州までが津波に襲われた。1944年12月7日、紀伊半島南東沖熊野灘を震源としてマグニチュード7.9の巨大地震「昭和東南海地震」が発生した。静岡県・愛知県・三重県に強い揺れがおき、熊野灘沿岸には津波が押し寄せ、地震による死亡者は1183人と言われている。戦後になって包括的な調査が行われ1997年に報告書が出た。2007年に内閣府の報告書が出た。震源域の形状が楕円形で短軸方向に津波が高く、長軸延長上は津波は低かった。静岡県が長軸の延長と見なされる。短軸の延長は紀伊半島東側沿岸である。三重県の死者406人の多くは志摩半島より南部に集中した。伊勢湾内部は津波の高さが低かった。これは渥美半島と志摩半島が防波堤に役目を果たしたからであった。地震によるずれの全体像を把握するには今日ではGPSによる地殻変動データーや長周期地震波形を用いるが、当時はそのような技術はなかったので主に津波記録から推定した。「昭和東南海地震」の2年後1946年12月21日四国から紀伊半島を震源域とするマグニチュード8.0の巨大地震が発生した。「昭和南海地震」である。この地震により1400名の人が犠牲になった。紀伊半島から四国で震度6、濃尾平野や瀬戸内海で震度5となり、和歌山御坊には6.1mの津波が襲い、高知県須崎では5mの津波となった。津波被害は和歌山、徳島、高知県で顕著であった。全体としての震源域は紀伊半島潮岬沖から高知県足摺岬沖までとし推定される。地震における地殻変動で注意すべきは、フィリッピン海プレートは南海トラフから沈みこみ、上に載った近くを陸側に向けて押している。地震時にはプレート境界が一気にずれ動き、押し付けられた地殻が跳ね上がるのである。そのため岬では地殻が隆起し、離れた場所では地殻は沈下する。この地震で高知市は1mも沈下した。地震の後でゆっくり地盤が戻る(隆起)することを余効変動と呼ぶ。「昭和東南海地震」と「昭和南海地震」との間に、1945年1月13日愛知県東部を震源地とするマグニチュード6.8の「三河地震」が起きた。愛知県を中心に2300人の犠牲者が出た。この地震に因って地表に断層が現れた。蒲郡では1.5mも隆起した断層があった。又三河地震には1週間前から前震を伴っていた。三河地震は「昭和東南海地震」によって誘発された地震であると見なすことができる。プレート境界で起きる巨大地震の直後には、思わぬところで内陸直下型の地震が発生することがある。

(つづく)