ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 白井 聡著 「戦後の墓碑銘」 (金曜日 2015年10月)

2017年03月02日 | 書評
永続敗戦レジームのなかで対米従属路線と右傾化を強行する安倍政権の終末 第3回

1)  「戦後の墓銘碑」 2014年2月から2015年7月までの出来事 (その1)

① 対米従属路線が抱えるディスコミュニケーション
2013年12月安倍晋三首相の靖国神社参拝以来、日本政治の状況は悪化した。参拝後即座に米国大使館より「失望した」のコメントが発せられた。翌年1月22日安倍首相はダボス会議の記者会見で「現在の日中関係は第1次世界大戦前の英独関係に似ている」という日中関係の緊張を高める発言をした。また1月25日NHKの悪名高き籾井会長は「従軍慰安婦は戦時どこにもあった」という問題の本質(軍隊の関与)をそらす発言をして顰蹙を買った。今や政治も経済も二流になり果てた感が強い。戦後日本のフィクションが急速に崩れつつある。「第2次世界大戦での敗北を受けて、日本は全中の全体主義を払しょくし、自由主義と民主主義を尊重すべき価値として受け入れた」という物語が崩れつつある。それを崩しているのが昨今の安倍政権である。虚構が崩れる過程で露わになってきたのが、対米従属支配層の可換えるディスコミュニケーション(日米間の齟齬)である。2013年10月米国のヘーゲル国防長官とケリー国務長官の千鳥ヶ淵墓苑訪問に現れたように、米国は靖国問題に関して正解例を実地で示した。一連の歴史修正主義的発言と靖国神社参拝強行に対して米国は「ノー」といった。2014年1月26日米国は研究用とした貸し出ししている300Kgのプルトニウムにたいする返還を要求したと共同通信が伝えた。

② 安倍首相が筆頭、権力者に蔓延する反知性主義
カール・マルクスは1843年友人に宛てた手紙に「愚物だらけの船は、しばらく風のまにまに漂流させておくがいい。それでもその船は自分の運命に向かって流れるだろう」と匙を投げるような捨て台詞を残した。現在日本の危機をつくりだしている重要な要因の一つが安倍首相と官邸の「反知性主義」である。これは元首相の漢字が読めないという矮小なことを言うのではなく、「知性の不平等」が「富や権力の不平等」によって生み出されつつあることを、政治権力がこれを利用していることである。むろん権力者が知的ではなく、大衆に蔓延した反知性主義感情と一体化し、それに政治経済ジャーナリズムといった全分野において反知性主義によって満たされている事態の深刻さを言う。安倍首相のお友達に右翼的発言を吐く輩ばかりを集めていることは、リベラル穏健派自民党員も目をそむけるという。その反知性主義の筆頭は安倍首相である。彼は尊敬する政治家は岸信介であるという。岸は戦前には軍部クーデタの理論家北一輝に心酔し、みずから国家社会主義ファッシズムを理想とした右翼政治家の代表であった。安倍首相も未だに反共主義者で、自分に反対するものは左翼だと信じているようだ。官邸はこれらの反知性主義者で占められている。「立憲主義なんて聞いたことがない」とうそぶく磯崎陽輔補佐官、NHK籾井会長、NHK百田経営委員など右翼心情はもう倫理の問題である。これらの人物群が官邸においてその知的・倫理的低劣さゆえに珍重されているのは、正に末期的腐敗状況である。

③ 対米宣戦布告 アベノクラシーのアンビバレンス(面従腹背 二枚舌)
2014年4月22日、オバマ大統領来日を直前にして、147人の国会議員が大挙して靖国神社に参拝した。このなかには高市早苗政調会長や江藤首相補佐官も含まれていた。昨年来米国は日本の歴史修正主義的傾向は米国の虚する範囲内でしか認められないと繰り返し伝達してきた。首相の靖国参拝に対して米国は「失望した」と表明したが、それに歯向かったことはある意味では対米宣戦布告みたいなものであった。オバマ大統領の今回の訪日は日本を通過するだけのものであったが、外務省は何とか2日滞留を確保したという。この面従腹背ぶりは毎度のことである。安倍首相が言う「戦後レジームからの脱却」とは「永続敗戦レジーム」の対米従属路線の強化に過ぎない。反対に、この安保体制強化を背景に虎の威を借りた狐のように、中国・韓国への挑戦的態度が強調されてきた。アベノクラシーの本質は、「敗戦の否認」であり、ひいてはサンフランシスコ体制、東京裁判、ポツダム宣言受諾の否認に行き着くことである。

(つづく)