ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 山岡耕春著 「南海トラフ地震」 (岩波新書2016年1月)

2017年03月23日 | 書評
M8-9規模の南海トラフを震源域とする巨大地震をどう予測し、何が起きるか、どう備えるかを考える 第9回

3) 津波、連動噴火、誘発地震(その2)

南海トラフで巨大地震が発生すると、連動して富士山が噴火する可能性が指摘されている。南海トラフの地震史上最大の1707年宝永地震が発生した49日後に富士山が噴火している。江戸に火山灰を降らせた。富士山は活発な火山活動で形成された火山である。その美しい山の形は噴火ブルが積もることによって滑らかな地表が形成され、火山活動が活発な証拠である。マグマには成分によって玄武岩マグマ、安山岩マグマ、流紋岩マグマに分類され、富士山は主に玄武岩マグマによって形成された火山である。マグマの成分は二酸化ケイ素の含有量によって分類され、玄武岩マグマは二酸化ケイ素の含有量が最も少ない。二酸化ケイ素の含有量はマグマの流れ易さに関係し、玄武岩マグマは最も流れやすい。流紋岩マグマは最も流れにくいので、流紋岩からなる北海道有珠山はごつごつした地形が特徴である。マグマに含まれる水分や炭酸ガスの揮発成分は地表に近づいて圧力が下がると気泡を発生する。気泡が多くなるとマグマの密度が下がり上昇速度が増加する。流れやすい玄武岩マグマは火口から勢いよく吹き出し流れやすい溶岩になる。流れにくい流紋岩マグマは地表で一気に気泡が爆発し粉々の火山灰を噴き上げる。1991年に40人以上の犠牲者を出した雲仙普賢岳の火砕流がそれである。富士山の火山活動は3つの特徴がある。①大量のスコリア(黒い軽石 気泡を含んだまま固化した粒子)や火山灰を噴き上げる、②大量の溶岩を流す噴火、③山体崩壊である。宝永噴火では①のスコリアと火山灰の噴火であった。火山灰は江戸にまで降り注いだ。②の溶岩を流す噴火は866年の貞観噴火に見られた。標高1400mの火口から大量の溶岩が流れ、現在は青木ヶ原樹海豊?れる樹林となっている。富士山は溶岩を流す噴火は何回もおき三島市はその溶岩流の上に立っている。③山体崩壊は「岩屑なだれ」と呼ばれ、2900年前の御殿場岩屑雪崩が知られている。さて南海トラフ巨大地震で富士山が噴火するだろうか。火山噴火の基本的な仕組みは、地下深部のマントル内で発生したマグマが火山直下5-10Kmでマグマだまりを形成し、その一部が地表に噴出する現象です。大量の気泡を含んだマグマが上昇するとされている。だから火山が噴火するには、マグマが蓄積されマグマ内の気泡が増加することが必要条件である。だがマグマだまりで噴火の条件が整っているかどうは分る方法がない。宝永地震から300年、富士山は沈黙を保っている。もし地震のゆれでマグマが移動しやすくなったり圧力が低下した時、富士山が噴火した場合、その影響は非常に大きいと予想される。風向きによっては関東一円に火山灰を降らし、大雨が降ると泥流を発生させる。溶岩流がどこへ流れるかは火口の位置できまる。富士山の山体が崩壊することが一番厄介な想定である。南海トラフ巨大地震が発生すると、その後に日本列島の内陸で地震活動が活発になることが考えられる。場所によっては地sンが発生しやすくなる。地下の岩盤中の割れ目が急速にずれ動くことが考えられるからである。何回もずれを繰り返して大きく発達した割れ目が活断層と呼ばれる。南海トラフ巨大地震が発生した後、10年くらいは西日本の内陸全体でマグニチュード6以上の地震活動が活発化する。特に近畿地方での地震活動が活発化する傾向がある。フィリッピンプレートの押し込みによって内陸部地下のひずみが蓄積し、特に紀伊半島の圧縮隆起が大きいからである。国の地震調査研究推進本部がm留めた全国で110の活断層の地震発生可能性評価では、深溝断層は対象外である。誘発地震はどこで起きるかは予想できない。最後の問題は南海トラフ巨大地震の影響が、日向灘で切れずに琉球列島まで及ぶかどうかである。琉球列島では過去にプレート境界を震源域とするマグニチュード8クラスの地震が起きた記録はない。フィリッピン海プレートは琉球列島に沿っても沈み込んでいる。琉球列島では「南西諸島海溝」と呼んでいる。ところが国土地理院のGEONET観測網データでは琉球諸島は北西へ押し込まれていない。大体南から南東方向へ島嶼が移動している。諸島の大陸側に沖縄トラフという「背弧海盆」が形成されている。日本海と同じように大陸側からの力を受けて、琉球諸島は大陸からは離れつつある。琉球諸島が大陸から離れるときに地殻が割れマグマが侵入して新たなトラフ(沖縄トラフ)が形成され、沈み込んだプレートが「南西諸島海溝」と沖縄トラフで支え合っている構図である。沖縄の過去の地震津波はマグニチュード8クラスの巨大地震がなくても、巨大な津波は発生した。津波は、1771年4月24日の明和八重山地震津波(M7.4)では遡上高さ30m、犠牲者は約9300人であった。この津波の原因ははっきりしていないが、海溝沿いの比較的狭い範囲が急激にずれて海底の地殻変動を起し、津波を発生させる「津波地震」ではないかという推測がある。

(つづく)