ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 白井 聡著 「戦後の墓碑銘」 (金曜日 2015年10月)

2017年03月04日 | 書評
永続敗戦レジームのなかで対米従属路線と右傾化を強行する安倍政権の終末  第5回

1)  「戦後の墓銘碑」 2014年2月から2015年7月までの出来事 (その3)

⑦ 文科系全廃を視野に入れた大学改革の愚
2014年8月文科省が「国立大学の組織及び業務全般の見直しに関する視点」をリリースし、教員養成系学部、尋問化学系学部と大学院の組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換などを含む見直し計画を発表した。文化全体のバランスある発展なくして、理科系学部のみの片肺大学するとは恐れ入った暴論である。これは2014年5月OECD閣僚理事会で安倍首相の演説を踏まえている。「大学は学術研究を深めるのではなく、社会のニーズに沿った実践的職業教育を行う」という反知性的政策を公言していた。ノーベル賞受賞は今後ゼロにするという、耳を疑うとはこのことであろう。大学は学術研究をしないで、すぐ役に立つ職業訓練校にしろというのである。「科学技術だけが日本の根幹」というテーゼは、2011年3月の大震災原発事故によって打ち砕かれた神話である。あの大事故を起こした原因は「国会事故調」報告に見る様に、原発村組織の傲慢さと安全神話にあった。科学技術テクノクラート(専門家・官僚)による社会の支配が、正しい警告を無視し、独善的な管理体制がもたらした惨事であったと国民は理解した。ドイツの脱原発の決定は「倫理委員会」の広汎な分野の人々が参加し、決して自然科学者だけの議論ではなかった。本当に安倍首相はめちゃくちゃなことを平然と言ってのける愚か者であることを世界にさらした。

⑧ 基地を抱擁することはない沖縄のプライド
2014年9月半ば、著者白井氏は嘉手納基地とその周辺を訪問した。基地への抵抗と依存という沖縄の苦悩を象徴する基地の街である。米軍基地と原発は典型的なNIMBY施設(迷惑施設)である。それは日本の首都が安全で快適な生活を、特定地域の犠牲の上で享受するための必要悪という構図である。米軍基地が戦後日本の「平和」を、原発が戦後日本の「繁栄」を可能にしているという強い観念が日本を支配している。原発立地自治体は脱原発を志向していない。共存と引き換えに過疎の市町村から財政的に裕福な自治体へ約束される。それと同じように沖縄経済は米軍基地に深く依存している。沖縄に米軍基地があるおかげで世界の平和が保たれ、日本は一流国として尊敬されるという思考回路は安倍首相の頭の中では「積極的平和主義」というらしい。

⑨ 護憲ではない、制憲を
2014年10月矢部宏治著「日本はなぜ基地と原発を止められないのか」(集英社)が発刊された。日本ではある分野の政策はどれほど合理的な反対や批判があっても、民意はぜったに尊重されず、政策は強行されるのだろうか。その分野とは米軍基地(日米安保体制)と原子力である。原発事故の惨事を引き起こした東電は解体もされず訴追もされない。そして次々と再稼働が申請されている。米軍基地も基本構造は同じである。基地反対の声がどれほど高まろうとも政府は一顧だにしない。訴訟はいつも玄関払いである。事実上米軍は日本全土の空を支配している。オスプレイの飛行ルートさえ日本政府は容喙できないことを当時の野田首相は明らかにした。矢部氏の著書で、基地と原発を止められない理由を同一のものであるという。俺はアメリカの意志と、アメリカに自発的に隷従することで国内の権力基盤を強固なものとし、対米従属利権をむさぼる官僚と政治家が日本の中枢部を握っているという構造からである。基地の場合は日米安保条約と地位協定、原発は日米原子力協定のこれらが日本の国内法の上位に位置し優位に立っている。2012年の原子力基本法改正によって、「安全保障に資する」という文言が入れられ、原子力政策の基本が電力供給だけでなく安全保障という点から必要であるという、とんでもない原子力の軍事利用というこれまで隠されていた意図が全面に出てきたのである。表向きの憲法を頂点とする法体系と、国民の目から隔離された米日密約による裏の決まり事の体系という二重性が明らかになった。これらを正すためには、護憲ではなく革命による制憲をと著者は訴える。

(つづく)