ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 白井 聡著 「戦後の墓碑銘」 (金曜日 2015年10月)

2017年03月05日 | 書評
永続敗戦レジームのなかで対米従属路線と右傾化を強行する安倍政権の終末 第6回

1) 「戦後の墓銘碑」 2014年2月から2015年7月までの出来事  (その4)

⑩  永続敗戦レジームと闘う沖縄の政治
2014年12月翁長雄志氏が沖縄県知事に選出された。戦後日本政治の代議制民主主義において、政権交代はあくまで米国の許容できる政権交代でなければならない。そのため米国の意図を忖度する日本側の勢力(親米保守、日米安保マフィア)は、危険な動きは萌芽の内に摘み取る。こうした日本の政治空間の傀儡性、従属性は沖縄の米軍基地問題でいみじくも凝縮した形で現れる。翁長知事の誕生によって安倍首相の敗北が予見されたからこそ、安倍首相は解散総選挙を打つという争点不明の不可解な選挙が行われた。政策を問うというよりは、追い込まれた安倍首相の権力維持の合法化と長期政権化を狙った賭けであった。民主党政権が無残にも自壊した本当の理由は、永続敗戦レジーム(対米従属を原理とする)と本当に戦う気概がなかったからである。そして野田内閣では進んでこのレジームと一体化してしまった。民主党の中には安保マフィアもいるから当然の帰結であったのかもしれないが、民主党政権の崩壊により自民党の圧勝を許した責任は重い。

⑪ 安倍政権が変更しようとしているもの
2014年12月 衆議院総選挙が終わり安倍政権は大勝を収めた。衆議院総選挙はその本質上政権選択選挙である。それにしてもこの投票率の低さ(52%)は日本国民の消費者化の進展をまざまざと見せた。投票に行かない原因は消費者化した有権者にとっておいしい候補者や政党がないからである。しかしその結果権力のいいようにされひどい目にあるのは国民の愚かさの報いと言い捨てるには、安倍政権はあまりに危険なことを計画している。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、武器輸出解禁はワンセットで用意されていた。さらに原発再稼働、TPP、格差社会の固定、メディアへの政治介入(朝日新聞への言論統制)、ネトウヨ的ヘイトスピーチの横行などなど。この転換は確かに「戦後レジームからの脱却」と呼ばれに値する。戦後「消極的平和主義」は保守本流でも継承された基本方針であったが、それをかなぐり捨てて「積極的平和主義」に転換したのである。この「戦後レジームからの脱却」は同時にというか表裏一体になって「対米従属路線」を純化し強化することである。これは米国隷従によって権力を維持する政治勢力が強いのではなく、追い込まれた権力集団の「断末魔の凶暴性」を意味している。

⑫ 人質事件を奇貨とする安倍政権の狙い
2015年2月週刊ポストによると、湯川遥菜氏は2014年8月に、後藤健二氏も11月にイスラム国によって拘束されていたことはン本政府は把握していた。2015年1月17日安倍首相が訪問中の中東イスラエルで、イスラム国対策支援金25億ドルを記者会見で公表した。これに反発するようにイスラム国は二人を殺害した。安倍政権は真剣の人質救出に取り組まないでいたばかりか、軽率にも敵の面前で挑発行為を行ったのである。1月25日国会を控えた記者会見で安倍首相は「海外で法人が危害に遭った時、自衛隊が救出できるよう法整備をしっかりする」と発言した。しかし人質奪回作戦は米国が何度も失敗しているように、困難な特務である。軍艦を遠くで巡行させても事態は解決しないことは関係者なら熟知している。情報収集能力を米国に依存し、軍隊の特殊訓練もできていない自衛隊がおいそれとできることではない。反対にテロ組織は対抗措置として人質を殺すだけの簡単な行為で終結する。それより安倍首相の敵前でのIS殲滅援助の表明により、日本はISの敵としてはっきり宣言され、日本でISのテロがいつ起きても不思議ではない状況を作り出したのである。安倍首相はその対米従属路線からどうしても対テロ戦「有志連合」に加わりたいのであろう。そのための状況作り「改憲のまえに参戦を」を狙って、このIS人質事件を利用する(奇貨とする)策動を行ったのである。

(つづく)