ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 山岡耕春著 「南海トラフ地震」 (岩波新書2016年1月)

2017年03月19日 | 書評
M8-9規模の南海トラフを震源域とする巨大地震をどう予測し、何が起きるか、どう備えるかを考える 第5回

1) 南海トラフ地震の特徴と歴史 (その3)

南海トラフでは600年以降を見ても、100年から200年の間隔でマグニチュード8クラスの地震が発生している。プレートの動きは地球全体のマントル対流の一部なので、急に方向が変わったり、休止するものではない。時間予測モデル(規模の大きな地震の後は長く休み、規模の小さな地震の休み感覚は短い)を用いた予測では、今後30年間で南海トラフの巨大地震が起きる確率は60-70%と言われるのである。過去の地震発生履歴から将来の地震発生を確率的に予測するためには一つの仮定と三つのデーターが必要である。整理して下に記す。
仮定: 「同じ規模の地震が一定の間隔で発生する」 固有地震モデル、または「同じ規模の地震発生頻度が一定」 ポアソン・モデル
三つの情報: ①平均繰り返し間隔 ②繰り返しのばらつき ③最後に発生した地震の時期に関する情報
地震確率予測は別にして、地震関連データーは着々と計測され蓄積されてきている。地震予測観測データーの一つは、GNSS(グルーバルナビゲ―ションサテライトシステム GPS)により観測される地殻変動である。国土地理院による全国1300点以上観測点が設置されている。 衛星電波を利用すると数ミリの移動測定精度も可能である。これにより日本列島の変形がわかる。不動の大陸が日本にはないので、対馬を不動点として相対的に表現している。中部から西日本全体は北西方向へ動いており、それも南海トラフ沿いの動きが大きい。地震時に飛び跳ねるためのエネルギーを着々と蓄積していることを示している。又地震計の記録から南海トラフ沿いにプレートが30Km沈み込んだ場所で「深部低周波地震」の分布頻度が高くなっている。ここはプレートがゆっくりずれるスロースリップ現象による地震である。プレート境界面に働く摩擦力はその場所の温度によって変化する。温度が300度よりも高くなると、境界面でずれが始まっても摩擦力は小さくならず、ずれの速さが大きくなればなるほど摩擦力が大きくなるという性質がある。南海トラフでおおよそ40Kmよりも深い場所である。ここは低周波地震を伴うスロースリップが発生する領域である。その場所でスロースリップが始まると歪は解消されるが、同時にさらに浅い場所のプレート境界の歪を増大させる。これが巨大地震の震源域となる。この作用はひずみエネルギーを深部から浅い部に運送されると表現してもいい。

(つづく)