ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 白井 聡著 「戦後の墓碑銘」 (金曜日 2015年10月)

2017年03月01日 | 書評
永続敗戦レジームのなかで対米従属路線と右傾化を強行する安倍政権の終末 第2回

序(その2)

そして「反復」といえば、安倍晋三は2度も首相になった。一度目は政治色(反動性)を露骨に出し過ぎて1年を満たず惨めな退陣となった。そして政権交代した民主党が東電原発事故に直撃され、原発を推進してきた自民党政権の責任を一手に引き受けさせられて窮地に追い込まれ、石原慎太郎が仕組んだ尖閣諸島国有化で中国の反発を受け、消費税増税の先鞭をつけ国民の総スカンを食い、ほとんど野垂れ死に状態で2011年12月の総選挙で惨敗した。第2次安倍内閣は衆議院での圧倒的多数の議席と翌年の参議院選挙で安定多数を獲得し政権運営を確かなものにした。第2次安倍内閣は発足当初は政治問題を避け、もっぱら経済問題で国民の目をさらった。日銀の黒田総裁は異次元の金融緩和政策、株高、円安誘導政策を実施し、アベノミクスなる経済政策の実施となった。ここまでは安倍政権は順風の滑り出しであった。しかし1年もたたないうちに2012年12月には靖国神社参拝をおこなって米国を失望させ中国。・韓国の猛反発を招いた。これ以降の動きは本書に沿って順次述べてゆくことになるが、どうしてこのような反動的な安倍第2次内閣の出現を許してしまったのか。「安倍なるもの」が、日本の政治に大きな勢力となってきた要因については、中野晃一著 「右傾化する日本政治」(岩波新書 2015年7月)、柿崎明二著 「検証 安倍イズム」(岩波新書 2015年10月)に述べられているように、安倍はこれまでの保守政権による日本の政治の右傾化傾向の総仕上げを狙ったものと見なされる。これは強さの証明ではなく、日本の支配層の最期が近いことを物語るものである。要するに彼らの愚かさは戦後日本社会が行き着いた愚かさの象徴なのである。「ポツダム宣言」を読みたくない安倍の基本的エートスが永続敗戦レジームの中核たる「敗戦の否認」にある。今日の保守政権での「敗戦の否認」は「在特会」のヘイトスピーチに最も先鋭に表れている。安倍の「我々はあの戦争に負けたわけではない」という歴史意識は、サンフランシスコ講和条約の戦勝国英米やロシア・中国の最も嫌うことである。「一度目は悲劇、二度目は茶番」とマルクスは行ったが、二番目の茶番につき合わさせられる日本国民は笑うに笑えない悲劇である。第2次安倍内閣はその持続が長ければ日本社会に対して深刻な傷を残すことになる。安倍は祖父岸信介の遺志を継ぐと度々明言しているが。岸と安倍の能力さは歴然としているうえ、岸はCIAとの取引で巣鴨プリズンから放免された経歴の持ち主である。そして安保改定をおこなって不平等のまま占領政策を固定化した人である。反復する出来事の茶番性が最初の出来事の悲劇性を歴史遡及的に侵食する。悲劇はそこから何の教訓をも汲み取れなかった単なる愚行となる。ここで本書の構成を見ておこう。第1章「戦後の墓銘碑」は2014年2月から2015年7月までに「週刊金曜日」に連載されたコラムである。これが本書の書名にもなっている。全体の1/3を占め、現在起こっている出来事の本質を見る上で重要なので、17篇からなるが一つ一つ見てゆこう。第2章「永続敗戦レジームの中の安倍政権」は7篇の投稿記事からなる。筆者の政治理論である「永続敗戦レジーム」を解説しているので丁寧に読んでおこう。第3章は戦後と対峙した人の思想を伝記風にまとめている。元首相の石橋湛山、文学者で良識保守派の論客江藤淳、不能者の倫理を説く野坂昭如の3人を取り上げている。石橋湛山賞を貰ったいきさつから行ったお礼講演会の原稿から起している。第4章「生存の倫理としての抵抗」は主に新聞寄稿12篇を収録したもので、原発事故関係が多い。

(つづく)