ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 大瀧雅之著 「平成不況の本質」 岩波新書

2012年10月11日 | 書評
平成不況はデフレによるものではなく、構造改革(金融自由化)のためだ 第1回

序(1)
 久しぶりに「眼から鱗が落ちる」思いがする書に出会った気がする。一気に読めて理路整然と状況が整理されている。本書は理論経済学とかマクロ経済学という立場から、10年というスパンで経済指標を見ると日本経済の大きな流れがつかめる。そして1990年以来の平成不況の本質は、アメリカ流のグローバル金融資本のやり方をまねた規制緩和という反社会的破壊活動によるものであると云う結論は、けだし簡単明瞭で対策も立ちやすい。しかし分かりやすさは1種危険である。なぜなら要因を単純化して強引に結論つけるからである。はたして本書の根拠が妥当なものかをここで考えてみよう。私は「日本の原発政策は政治だ」と思ったが、やはり経済はさらに政治的だといわざるを得ない。むき出しのエゴ(誰が儲けるかという)がぶつかる政治の世界の出来事であった。そこでこのような結論を導いてくる著者大瀧雅之氏とは何物かと思われるので、大瀧氏のプロフィールを紹介する。1957年福島県生まれ、東京大学大学院経済研究科終了、1996年4月より東京大学社会科学研究所助教授 、1996年4月-1998年3月 大蔵省財政金融研究所主任研究官(併任) 、1998年6月-2004年5月 経済企画庁経済研究所客員主任研究官(併任) 、2001年4月より東京大学社会科学研究所教授である。大学での所属は比較現代経済部門:財政金融分野 教授である。専門はマクロ経済学、景気循環論、貨幣論だそうである。主な著書には、「景気循環の理論」(東京大学出版会 1994年)、「動学的一般均衡のマクロ経済学」(東京大学出版会 2005年)、「基礎から学ぶ経済学入門」(有斐閣 2009年)、「貨幣・雇用理論の基礎」(勁草書房 2011年)などがある。
(続く)

文芸散歩 徳善義和著 「マルティン・ルター」 岩波新書

2012年10月11日 | 書評
キリスト教会の一元支配を改革し欧州の中世を終らせたマルティン・ルター 第5回

序(5)
 著者は「ルターは言葉に生きた人であった」といい、本書も「ことば」の段階によって章分けを行っている。「ことば」とは「聖書のことば」という理解であって,言語学のことばといういみではない。聖書の文脈を理解するために「聖書読み」に徹し、聖書の言葉を日常語のドイツ語(ザクセン地方語)で語ったというところにルターの革新性がある。仏教の「お経」も誰が聞いてもちんぷんかんぷんであるが、まだ文章にすれば中国語であるので理解不可能ではないが、ところどころ中国語の翻訳不可能なところは古代インド言語で音だけを追ってあるところはまるで呪文である。玄侑宗久著 「般若心経」(ちくま新書2006年) によると、般若心経中に漢字に翻訳されていない箇所が三つあるという。「般若波羅蜜多」、「阿耨多羅三藐三菩提」、「羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶」 この部分は古代インド文字でヴェーダ(呪文)といっている。浄土宗で「ナムアミダブ」をとなえれば浄土へ行けるというのと同じことだ。仏教徒は響きのままに唱えれば全体性の中に生命の喜びを感じるらしい。これと同じように、当時の聖書や祈祷書、賛美歌はラテン語やギリシャ語で書かれており、一般庶民では読める人はいなかった。これでは「呪文」と同じである。 したがって誰も聖書に基づいてキリスト教を理解していなかった。牧師や教会の言うとおりにキリスト教を信じているに過ぎなかった。そこを日常ドイツ語で聖書を読めるようにした意義は大きい。イスラム教では21世紀の今もなおアラブ語のコーランを他の言語に翻訳することは禁じられている。聖書の解釈は当時の教会の権威の下で疑ってはいけない教義として教えられた。だから随分いい加減な便宜的なことがまことしやかにやられていた。「免罪符」がそうである。お金を出せば(寄付)、罪を認め悔い改めをしたのと同じ効果があるという、教会の経済行為である。ルターはここに噛み付いた。宗教改革とは聖書の言葉によってキリスト教を再形成した出来事であった。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「人生漠漠」

2012年10月11日 | 漢詩・自由詩
豈知過雁幾時還     豈ぞ知らん過雁 幾時か還る

辞職三年髯已班     職を辞して三年 髯已に班なり

志業功名都化夢     志業功名 都て夢と化し
 
採蕨老骨買得     蕨を採る老骨 を買い得たり


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(韻:十五刪 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)