ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 山口二郎著 「政権交代とは何だったのか」 岩波新書

2012年10月26日 | 書評
マニフェストを実行できない民主党の問題と民主政治への展望 第3回

序(3)
 岩波新書は世間でよく言われるように、「こんな見方や選択肢もある」ということを提案することにある。だからこそ私は岩波新書の愛読者を長年続けている。私が岩波新書で学んだ政治学を本書の趣旨にそって年代順にまとめておこう。
① 飯尾潤 「日本の統治機構」ー官僚内閣制から議院内閣制へ (岩波新書 2007): 日本を支配しているのは官僚か、はたまた政治家かという単純な政権担当2元論が横行していた。たしかに戦前から議会政治を敵視した超然内閣というわけのわかない制度を元老西園寺公望が作ってきた。それが戦後にも後を引いて独特の官僚内閣制になって、政治家が民主憲法で保障された大胆な政治力を発揮できない。議院内閣制を存分に機能させるにはどうしたらいいのだろうか。衆議院選挙における政権選択選挙の実現と内閣総理大臣の強化である。有権者が選挙で政権政党と首相候補と政権公約の3つを同時に選ぶことが必要だ。
② 山口二郎著 「政権交代論」 (岩波新書 2009): なぜ政権交代が必要なのかということを、政治権力の暴走を防ぐためと、国民が必要とする政策選択のための2点から説き進める。健全な一元的民主主義が育つためには、第1に強力な野党が存在し常に政権交代の可能性が存在することである。イギリス・アメリカがこれに相当する。第2に野党にも行政府に対するアクセス権を与えて次の政策を効果的に出せないハンディギャップをなくすることである。第3に与野党間で政治的競争のルールを共有することである。第4に検察や裁判所は権力の犬になるのではなく、民主主義を学ばなくてはいけない。メデァも与野党に公正な批判を加え、国民のために判断材料を提供しなければならない。
③ 佐々木毅著 「政治の精神」(岩波新書 2009): 高踏的・哲学的で、思想史として歴史的に記述されており、政治家の精神とは何かを哲学的に述べた書である。第1章が丸山真男氏の「軍国支配者の精神構造」という論文の提起にはじまり、政治の精神「政治的統合」を原点に戻って問いただす事から始まる。第2章では政治家の精神、第3章では政治に関与する国民側の精神、第4章では政党政治の精神を取り上げている。
④ 菅直人著 「大臣」増補版 (岩波新書 2009): 第1部 大臣とは何か (旧自民党政権における考察、旧著「大臣」に同じ)、第2部 政治主導への転換(民主党政権の課題)からなり、イギリス政治制度視察報告と鳩山新政権の目標を明らかにした。目標とする制度はイギリスのウエストミンスターモデルである。
⑤ 大山礼子著 「日本の国会」 (岩波新書 2011): 議院内閣制では選挙で選ばれ国会議員が民意に沿った政策を行う内閣を構成し、必要な立法を行なう場であった。国会はなぜ実質的な審議を行ない得ないのか。国会がここまで無力なのは立法府として恥ずべき事である。国会改革とは議員数の削減や政治と金の問題だけではないはずである。今最も緊急を要する課題は、国会審議を通じて政策決定への民意の反映を実現することであろう。今日のねじれ国会審議の空洞化をもたらした最大の原因は、国会の制度にあると考えられる。議院内閣制の下での議会では、内閣提出法案を審議の中心としてどれだけ実質的な審議を行い必要な修正を施せるかが議会側の実効性となり、現行の国会関連法規と各議員規則を視野に入れた議論が必要である。
(つづく)

読書ノート 羽田 正著 「新しい世界史へ」 岩波新書

2012年10月26日 | 書評
「ヨーロッパ中心主義」による世界史からの脱却 第8回 最終回

4)新しい世界史の構想

 本書は2009年より日本学術振興会からの科学研究費を受託して行なわれている共同研究「ユーラシアの近代化と新しい世界史叙述」の中間報告的色彩がある。構築途上で公には出来ない部分もあり、私案という形で出版された。著者は使用言語は日本語とする理由を長々と述べているが割愛する。本書のこの章で述べる「新しい世界史の構想」には、立脚すべきポイントを明らかにするものであって、具体的な内容をまとめる段階には無いという。対象は人間の歴史である。地球の歴史については自然科学者に任せる。新しい世界史の構想の趣旨は、「ヨーロッパ」と「非ヨーロッパ」を区分して世界史を理解しようとする態度を改め、一体として世界史の把握方法と叙述の仕方を開発することである。そして著者は兼原信克著「戦後外交論」から、現代地球社会において人々が持つべき重要な価値として、①法の支配、②人間の尊厳、③民主主義、④戦争の否定、⑤勤労と自由市場の尊重 を参考にすべきだという。叙述の仕方として次の3つの方法を考える。

 ① 世界の見取り図を描く: 主権国家やその集合体からなる現代世界の構造の歴史性を浮かび上がらせるよう、国や民族、国家という形態もまた歴史的存在だと考え、特に19世紀以前の世界では人間集団のあり方が実に多様であって、社会秩序と政治体制に強く縛られていたわけではない事を明らかにする。そして政治権力と社会秩序が形成され①法の支配、②人間の尊厳、③民主主義の価値が確立していった過程に留意する。その中から④戦争の否定(平和)の価値を明らかになってくるだろう。
 ② 時系列史に拘らない: 国民国家時代に固有な時系列史(通史、日本では皇国史観)は廃止する。たいした理由もないのに因果律ばかりを追い求めるより、はっきりした時代の変化に重点を置くのである。過去の歴史は現代を理解するためにある。歴史の効用は優れて現代を理解するためである。不変に実在するものは少なく、国家領域は変幻極まりないものと理解する。そんな事を議論しても仕方ない。大きな特徴を有する時代(19世紀以前が100年間隔で、現代は30年くらい)をレイアー(相)とみて、その間の人間集団の関係を見るのである。日本という国家は見ない。(日本国が出来たのは19世紀後半、それまでは小国の集合にすぎなかった) 敢えて時系列にみると、世界1、世界2、世界3、・・・世界nを叙述し、その世界の内部関係を明らかにして、その時代の変化の原動力を見るのである。
 ③ 横につなぐ歴史を意識する: ヨーロッパ中心史観から脱却するには、世界中の人々の生産、流通、消費活動の総合としてヨーロッパの生産力を見る見方である。⑤勤労と自由市場の尊重という価値が主役を占める。世界各地の人々が交易と流通の分野で関係を持って、生活をしているわけを明らかにしたい。商品を軸としてこれに係る人々が作り出すネットワークやシステムには中心はない。基軸通貨は必要かもしれないが覇権は必要ない。産業革命と経済発展はイギリスとフランス・ドイツのみが生み出したものではない。世界中の人々の活動の結果である事を示したい。
(完)

筑波子 月次絶句集 「霜月水楼」

2012年10月26日 | 漢詩・自由詩
白似青蛾霜月寒     白きこと青蛾に似て 霜月寒く

酔為丹瞼笛聲残     酔うて丹瞼と為り 笛聲残る

泛江遊艇両三隻     江に泛ぶ遊艇 両三隻

映水竹林千萬竿     水に映ず竹林 千萬竿


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(韻:十四寒 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)