ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 羽田 正著 「新しい世界史へ」 岩波新書

2012年10月19日 | 書評
「ヨーロッパ中心主義」による世界史からの脱却 第1回

序(1)
 本書の著者羽田正という名をみて、どこかで聞いたことがあるなと思って調べたら、やはり東洋学西域史の泰斗羽田亨の孫であり、アジア史オリエント学者羽田明の息子であった。羽田正氏はイスラム学を専門とする。祖父・父・本人三代にわたって西ユーラシア史研究者という「名門」の一家である。彼ら三代について知ることは日本のそして京大の東洋史学の歴史を知ることであるので、簡単に三代のプルフィールを見て行きたい。
羽田亨: 1882年(明治15年) - 1955年(昭和30年) 京都生まれ、京都帝大を卒業、元京都大学総長・京都大学名誉教授、文化勲章受章者、内藤湖南・桑原隲藏らと共に京大東洋史学の黄金期を築き、「塞外史」の「西域史」の研究においてユーラシア大陸各地の遺文を解明するなど、日本の西域史学の確立に貢献した。内藤・桑原の亡き後は、宮崎市定や田村實造らを率い、世界的な東洋史研究の拠点としての京大の立場を確固たるものとした。
羽田明: 1910年-1989年、歴史学者。研究分野はアジア史。京都大学名誉教授、京都帝国大学卒、62年「中央アジア史研究(近世篇)」で文学博士、京大人文科学研究所助教授、教授、70年文学部西南アジア史講座初代主任教授。
羽田正: 1953年大阪生まれ、1976年京都大学文学部史学科卒業。78年同大学院修士課程進学、80年パリ第3大学に留学し、83年博士号取得。1986年京都橘女子大学文学部助教授、89年東京大学東洋文化研究所助教授を経て教授。現東洋文化研究所所長、専門は、イスラーム建築史、近世イスラーム史。主な著書には、『モスクが語るイスラム史―建築と政治権力』(中央公論社[中公新書] 1994年) 、『勲爵士シャルダンの生涯―十七世紀のヨーロッパとイスラーム世界』(中央公論新社 1999年) 、『イスラーム世界の創造』(東京大学出版会〈東洋叢書〉 2005年) などがある。
(つづく)

読書ノート 大瀧雅之著 「平成不況の本質」 岩波新書

2012年10月19日 | 書評
平成不況はデフレによるものではなく、構造改革(金融自由化)のためだ 第9回

1)マクロ経済指標から見る平成不況の本質 (6)
 ⑥雇用者と労働市場: 
 労働単位をいくらでも細分化し、労働賃金の最低賃金化傾向は、こうした労働市場は全く技術を要しない意味で均一労働市場を求めている。はたしてそのような労働が存在するのだろうか。古典的限界原理で決定できない名目賃金の決定は、「対照的ナッシュ交渉解」という交渉に委ねられる。企業の対外直接投資は、労使関係における日本の雇用者の交渉力を著しく削いでいる。⑥の雇用者数を見ると雇用形態は別にして一貫して平均雇用者数は増加している。そして雇用者の組織率(組合加入率)が20%以下にまで低下したことが雇用者の交渉力がなくなった事を意味する。対外直接投資には海外へ雇用の輸出だけでなく、国内投資を抑え景気を低迷させる事を通じて、雇用を一層悪化させるというネガティブな効果をもたらした。海外投資が国内景気を悪化させることは、実は1世紀前の英国帝国主義の時代の経験済みであったという。もし企業の社会的貢献(責任)ということが重視されるならば、先ず雇用の確保が図られるべきである。労働者なしに利益が生まれると幻想するのは宇宙人か、一握りの世界金融資本であろう。もちろん食い物にする対象は貧困者であるが。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「秋晩病翁」

2012年10月19日 | 漢詩・自由詩
老樹風生向晩寒     老樹風生じ 晩に向て寒く

傷神狂鬼入脾肝     傷神狂鬼 脾肝に入る

年来病骨晨炊薬     年来病骨 晨に薬を炊き
 
衰臥蒼顔夜治丹     衰臥し蒼顔 夜に丹を治す


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(韻:十四寒 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)