ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 羽田 正著 「新しい世界史へ」 岩波新書

2012年10月20日 | 書評
「ヨーロッパ中心主義」による世界史からの脱却 第2回

序(2)
 著者は「最近、歴史学と歴史研究者に元気がない」とつぶやく。しかしテレビでは大河物語として歴史物は相変わらず人気がある。昨年は日露戦争を描いた「坂の上の雲」、徳川秀忠の妻「お江」の物語が人気を博し、そして今年は「平清盛」が始まる。ものすごく現代的でとても歴史とはいえないセリフが出てきて違和感を覚えるが、所詮歴史とは今を生きる人間の過去を見る目であるからこそ力があるのだ。今や歴史学は現代人の興味をなくしているかずれている。「靖国神社参拝問題」に端を発する日韓中の歴史共同研究などには誰も興味は持てない。まして安倍元首相のいう「美しき日本」は教育勅語や皇国史観の亡霊が出てきそうで危なくて近寄れない。私たちが学び、知っている世界史は、もう時代に合わなくなってきている。現代の人が興味を持てる世界史を必要としている。戦後、復興を願い時代を先導する歴史学の時代があった。それは近代主義とマルクス主義の歴史学であった。ライバル同士が欧米に追いつく事を至上命題とする戦後の日本社会の骨格と方向性を議論したからである。日本の高度経済成長期に歴史が人を動かす力を示したのだ。これらはランケ、ミシュレといった19世紀の国民国家の歴史が勃興した時期もそうであった。時代にふさわしい歴史の話題が提供されると、人々の間に活発な議論が起り、時にはそれが社会全体を動かすエネルギーとなる。ではなぜ歴史学研究者のセンスが社会とずれてしまったのだろうか。時代がエゴ丸出しか覇権主義の国民国家の時代から、すでに地球全体で考えないといけない時代になっているのに、なぜか2.30年前で歴史研究が止まっている。研究テーマは細分化され、時代遅れのテーマで誰も読まない論文が拡大生産されているのだ。なぜそのような研究をするのかという自覚が明確ではない。現代には現代が必要とする歴史認識があるはずだ。現代世界が一体の構造で連結しながら働いていることは明白である。つまり「地球社会の世界史」が求められている。著者は「現在私たちが学び,知っている世界史は、時代に合わなくなっている。現代にふさわしい新しい世界史を構想しなければならない」と提案する。
(つづく) 

読書ノート 大瀧雅之著 「平成不況の本質」 岩波新書

2012年10月20日 | 書評
平成不況はデフレによるものではなく、構造改革(金融自由化)のためだ 第10回

1)マクロ経済から見る平成不況の本質 (7)
 そこで経済的因果関係を整理しておく。上の図に因果関係の連鎖を記す。日本経済停滞の初発的原因は金融危機を背景にした対外直接投資の増加による国内需要の減少からであるとする。アメリカのグローバル金融資本が故意に巻き起こした3度にわたる世界金融危機は世界不況となって、消費需要への抑制的効果を生んだ。こうして低下した有効需要は生産を鈍らせ失業率を上昇させた。雇用者の減少は企業内の職場教育環境を悪化させスキルの涵養に悪影響を与えた。この結果イノベーションへの意欲は失われ労働生産性を低下させた。一度解雇された低い生産性の労働者に支払われる賃金の上昇は低下し名目賃金上昇率はマイナスとなった。これは個人の消費に極めて悪い影響を与え消費の減退により有効需要はさらに悪化した。こうして悪循環が始まり経済は長期の手痛い状態へ落ち込んだ。なお直接投資の持つ円高傾向も経済を苦しめている。海外に移転した日本企業が利益をドルで扱っているうちは問題は起きないが、日本に本社をもつ日本企業であると云うことが、利益の円建て送金のためにドルを円に換金すると、海外進出企業の円買いによって為替レートは円高ドル安となる。とんでもない誤謬となった。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「原発行政」

2012年10月20日 | 漢詩・自由詩
便宜第一恤人言     便宜第一 人の言を恤れ

操作安全法令煩     操作安全 法令煩し

修復無能多改変     無能の修復 改変多く
 
発生事故幾興亡     事故発生し 幾興亡


●○●●●○◎
●●○○●●◎
○●○○○●●
●○●●●○◎
(韻:十三元 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)