ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 羽田 正著 「新しい世界史へ」 岩波新書

2012年10月23日 | 書評
「ヨーロッパ中心主義」による世界史からの脱却 第5回

2) 今の世界史の問題点
 現行の世界史理解がなぜ時代と会わなくなってきているかという問題点は、そもそも出発点である19世紀の近代歴史学から引き継いでいるからである。その問題点を3つにまとめると
① 現行の世界史は、日本人の世界史である: 先ず日本で教えている世界史の見方は、世界のどこでも通じるほど一般的でも普遍的でもない。例えばフランスの高校の教科書はギリシャから始まってキリスト教とイスラム文化を比較し、ルネッサンスで人文主義を再発見したことから宗教改革が始まり、フランス革命・産業革命で19世紀の民主主義と国民主義の成立を述べ、現代史に入るという流れで、日本については20世紀初めの日露戦争に言及するだけである。欧州では「非ヨーロッパ:のことは自国と関係したところだけを述べるに止まり系統的な非ヨーロッパ文明は無視されている。日本歴史教科書と決定的に違うところは、因果応報的に時系列に歴史を述べるわけではないことである。又中国の世界史の教科書ははっきりと中国史と区別され、中国史と世界史との関係は何も述べられない。次代は前工業時代と地域の歴史、工業文明の勃興、現代文明の発展と20世紀という三区分で記述される。ようするに世界の異なった国々は互いに異なった世界史認識を持っていると見るべきである。
② 現行の世界史は、自と他を区別や違いを強調する。: 世界史はある人間集団と他の人間集団の違いを強調する性格を持っている。世界には現実に数多くの主権国家があるのだから、各国の世界史とは世界の現状をそのまま追認していることになる。マルクス主義の歴史学はもうすこし一般理論に基づいた理解を示したが、国民国家の世界史は現状を固定し、違いを荒立て格差を助長するような側面があった。「文明の衝突」以来、イスラーム文明がことさら違うかのように著述されるが、イスラム経典がすべての基本ではなく、そしてイスラーム文明圏の国々が一色にイスラームで統一されてはいない。19世紀にイギリスが作ったアラブの秩序に基づいた、欧米の虚像である。
③ 現行の世界史はヨーロッパ中心史観から脱却できていない。: ヨーロッパの近代知が世界をリードしてきたというヨーロッパ中心史観の問題がある。ヨーロッパの優位性を明らかにするために、ルネッサンス以来の「勝者の歴史」が書かれた。ところが地域としてのヨーロッパといっても、北欧、中欧、南欧、東欧、さらにウラル以西のロシアなどあって、どこのヨーロッパをいうのだろう。この問題はEUのように統一ヨーロッパの内部問題と重なる。現在EUの信用を落としているのは南欧であり、牽引しているの中欧である。ぶら下がっているのが東欧、そ知らぬ顔をしているのが北欧で、イギリスはヨーロッパではないアングルサクソン国だという。したがってヨーロッパの近代知とは概念に過ぎないとか、狭く言えばフランスの啓蒙思想の事ではなかろうか。ここに地位としてのヨーロッパと概念としてのヨーロッパがあり、世界史でいうヨーロッパとは19世紀半ばにようやく固まって、進歩、民主主義、自由、平等、科学、世俗、普遍などの正の価値が与えられた。
(つづく)

読書ノート 大瀧雅之著 「平成不況の本質」 岩波新書

2012年10月23日 | 書評
平成不況はデフレによるものではなく、構造改革(金融自由化)のためだ 第13回 最終回

2)構造改革とは何だったのか、今何が求められるか (3)
 外貨建て資産運用は、金利がほぼゼロの日本の国債や預貯金所有者の懐を狙った金融商品である。利回りが高い外貨建て投資信託は将来円高となることを前提とした場合のみ有効であろう。もし円安になれば差益はあっという間に消滅する危険性をもつのである。しかし先物商品や株式オプションなどの金融デリバティブに至っては、ゼロサムゲームであって誰かが得をすれば誰かが損をするという仕組みで危険な賭博である。しかも手数料分だけは確実に目減りする。このような金融商品をもてはやす「経済評論家」は消費者の懐を空にしようと虎視眈々と狙っている金融資本の提灯持ちに過ぎない。郵貯の民営化は恐ろしく奇怪な複雑な非効率的な郵貯組織を生み出した。効率化という顧客の要求さえ無視され、過疎地の郵便局の廃止などの不便を強いることになる。郵貯の民営化は政府系銀行の民営化と密に関係する。これまで郵貯や簡保の預金は国債にしか投資できないという枠がはめられていたので、国際グローバル資本の餌食にならないできた。それを裸同然でヘッジファンドの前にさらけ出そうとする資本側の要求に屈したのが郵貯民営化に本質である。公的な資源を私的に食い荒らすことが構造改革の本質であった。

 「IT革命」という情報処理文明の進歩は何をもたらしたのだろうか。オタク族という偏奇な性格を持つ若者が一時メディアでもてはやされたが、科学者はある意味ではオタク族なのであり、天才と鬱との関係もあるようだが、それらは社会的なつながりの中で成果をあげてきた。ところが最近は社会から隔絶した自我の持ち主が恐ろしい勢いで増えてきているという。「IT革命」と相乗した「偏差値教育」の全国的浸透により人間個性の規格化が進行している。情報革命はごみのような情報を社会に撒き散らし、情報を選り分ける能力や情報を棄てる力までが失われつつある。規格化された人間の生産性は低いので、さらに徹底した偏差値教育が施される。すると怪物のような奇妙な人間が出来、自分だけが生きる権利があると言い出す。彼らエリートはあとの人間は屑だと思っているらしい。教育の失敗はここにある。積極的な産業政策は経産省の得意と宣伝するところだが、いまだ失敗の残骸しか見当たらない。その失敗の最大は「大規模小売店舗法」の廃止である。これにより旧市街はシャッター通りになり、社会のコミュニティはズタズタに分解された。大量の安物商品(中国製)が良貨を駆追し、違いの分かる人はいなくなった。物や舌の痴呆化現象である。我々旧世代が次世代のためになすことが出来る「産業政策」とは、社会的共通資本としての教育の充実のみである。
(完)

筑波子 月次絶句集 「賀挙子」

2012年10月23日 | 漢詩・自由詩
花娘有縁結親姻     花娘縁有りて 親姻を結び

香水盆中産鳳麟     香水盆中に 鳳麟を産す

微笑孩児朱綬帯     微笑む孩児は 朱綬帯
 
抱孫爺老白綸巾     孫を抱く爺老は 白綸巾


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(韻:十一真 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)