ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 服部茂幸著 「アベノミクスの終焉」(岩波新書 2014年8月)

2015年07月29日 | 書評
政府・日銀が語る異次元金融緩和を柱とするアベノミクスの検証 経済は本当に回復したのか 第1回

序(その1)

政府と日銀によって「アベノミクスによって日本経済は回復しつつある」という「物語り」は真実なのだろうか。2013年4月から始まった日銀の「異次元金融緩和」の大合唱からすでに1年半が経とうとしている。アベノミクスという「神話」はすでにあちこちでほころび、つまずきが明らかになっている。それを回復基調の中の一時的な些細なことといって片づけていいのだろうか、そうではなくアベノミクスの本質が暴露されたというべきなのだろうか。経済と政治は科学ではない、価値観に基づいた政策なので、やり直しもできないし、もしやらなかったらどうなっていたかという検証も厳密にはできない。そこで思わしくないことが起きても、様々な言い逃れや弁解が可能である。結局経済政策と権力は一致していなければ、犬の遠吠えに過ぎないとよく言われる。経済学者は政治権力者と一体化していなければ、政策の実行と成果の享受は不可能である。そこで経済学者は権力奪取を図れという過激な言説も出てくる。経済を富と定義するなら、金の力で政治権力を意のままに動かすことは容易であり、アメリカでは金融資本が国策を決めているといわれる。アメリカの経済学者キンドルバーガーは、経済のブームが「詐欺需要」を作り出し、詐欺需要が詐欺供給を生み出すと論じている。「供給は自らの需要を生み出すというセイの法則よりも、需要は自らの供給を決定するというケインズの法則にしたがうと我々は信じている。ブームの時、詐欺師たちは欲張りで目のくらんだ人々を丸裸にしようと虎視眈々と狙っている」という。需要があってこそ供給手段が講じられるという健全な経済活動から、金融資本の貨幣供給能力から需要が惹起されるという逆立ちした論理に埋没して、1997年と2008年の金融恐慌が発生した。権力者とそれを取りまく経済界と主流派経済学者はあの忌まわしい記憶を忘れさせよう努め、何度でもブームを再来させることで儲けようとするスクラップ&ビルド破壊戦略である。バブルと金融恐慌がセットになった過ちは何度でも繰り返される。それは貨幣の量で価値を評価するからである。キンドルバーガーは、経済のブームが「詐欺需要」を作り出し、詐欺需要が「詐欺供給」を生み出すと論じているが、長期的な経済停滞もまた詐欺需要を作り出す。ブームの時の詐欺需要は金融の分野で拡大するが、長期停滞の詐欺需要は政治の分野で拡大するのである。2012年11月まだ首相になっていなかった安倍氏は日本のデフレを解決するために日銀による無制限の金融緩和を訴えた。安倍氏が政権に就いたのは21012年12月末のことで、日本のリフレ派を代表し日銀攻撃の先頭に在っていた黒田東彦氏と岩田規久男氏が日銀総裁、日銀副総裁の就任したのが2013年3月のことで、「異次元金融緩和」は2013年4月より始まった。岩田氏と並んでリフレ派の経済学者浜田宏一氏が指南したといわれるアベノミクスは3本の矢からなるといわれた。①異次元金融緩和(日銀マネタリズム、ニューケインジアンの金融政策)、②公共事業拡大による内需拡大(政府債務拡大、土建ケインズ主義)、③成長戦略(民間企業、新自由主義経済)のことである。3本の矢には軽重があり、第1に無制限金融緩和、脇役が土建公共事業、そしてまだ形も見えない成長戦略の順である。2012年11月、安倍氏が無制限金融緩和を訴えてから急に株価上昇と円安が進行した。円安で儲けたのは自動車を中心とする輸出産業、大きな損出をだしたのは石油を中心とする輸入貿易で、外貨準備金の減少と貿易収支赤字をだしそれは物価上昇となった。つまり消費者が大きな痛手をこうむったのである。株価も円安も金融緩和が始まってしばらくすると停止した。政府支出と、2014年4月の消費税増税前の駆け込み需要である民間住宅投資、耐久財消費財を除けば13年後半の経済成長はゼロかむしろマイナス成長であった。円安と輸入コスト増、インフレ気分と物価値上げ、消費税増税と企業減税の付けを消費者に回す政策はかならず消費者の疲弊となり経済の縮小という代償を払わなければならない。

(つづく)


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