ブログ 「ごまめの歯軋り」

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アリストテレス著 「詩学」    ホラティウス著 「詩論」

2021年09月04日 | 書評
奈良県橿原市今井町1 蘇武の井

 アリストテレス著 「詩学」   
ホラティウス著 「詩論」
      
岩波文庫(1997年1月)
ホラティウス (その2)

(12) 悲劇作品の部分について
量的な意味での区分で悲劇作品が区分けされる部分は次のようである。
①はじまりの部分
②俳優の対話と所作の部分
③終りの部分
④合唱隊コロスの部分である。俳優の歌や哀悼の歌は特定の悲劇作品にしか認められない。

(13) 筋の組みたてにおける目標について
優れた悲劇の組み立ては単一なものではなく、複合的なものでなければならない。そして怖れと憐れみを引き起こす出来事の再現でなければならない。そのために避けるべきことは、
①善い人が幸福から不幸に転じることは避ける
②悪人が不幸から幸福になってはいけない
③全くの悪人が幸福から不幸になることは憐れみも恐れも起こさないから避けるべきである
④中間にある人間は何らかの過ちによって不幸になる者であり、大きな名声や富を持つものである
したがって優れた悲劇の筋は、むしろ単純である。伝承に基づく話は何でもかんでも筋に取り込んではならない。

(14) おそれとあわれみの効果の出し方について
怖れと憐れみを引き起こすものは、出来事の組み立てそのものから生じる方が優れた演出である。このような効果を視覚的装飾で生み出すことは、詩作の技術の範囲に属しない。怪異なものを作るために視覚的装飾を用いる人は悲劇とは縁のない人びとである。怖れを引き起こす行為をなすものが親しい関係にある人びとの間で苦難を生じる場合(父親殺しなど)を作者は求めるべきである。恐ろしい行為と知りながら、あるいは気が付かずに実行し後で近親関係を認知する場合がそれである。これ以上の仕方はないため、悲劇はわずかの家系をめぐる物語しか取り上げない。

(15) 性格の描写について
人物の性格については次の四つの事を目標としなければならない。
①性格は優れたものであること
②性格はふさわしいものにすること
③性格を私たちに似たものにすること
④性格を首尾一貫して再現することである
性格においても、出来事の組み立ての場合と同じように、必然的なこと、ありそうなことを常に求めなければならない。従って筋の解決もまた、筋そのものから生じなければならない。悲劇の主人公は優れた人物の再現であるから、作者は優れた肖像画家にように性格を表現し美しく描かなければならない。

(16) 認知の種類について
①印による認知、あまり能があるとは言えないがそれ以外に方法がないからである。キリスト教の十字架、仏教の阿弥陀さま
②作者によって作られた認知、作り物であるから、技法としての価値はない、自分の素性を明かすこと
③記憶による認知、何かを見てはっと気が付くこと
④推論による認知、それ以外考えられないからである
⑤観客の誤った推論を利用する複合的な認知、観客の早合点を利用して自分の正体をあきらかにする
⑥最も優れた認知、出来事そのものから知ること
である。優れた認知の順は⑥、④であり、①は最低である。

(17) 悲劇の制作について―矛盾・不自然の回避、普遍的筋書きの作成
筋を組み立て、言葉によって仕上げる前に、その出来事をできる限り目に浮かべて、初歩的な矛盾を摘出することである。作者はできるかぎり、様々な所作によって筋を仕上げなければならない。感情を経験した作者が一番人を説得できる。また天分に恵まれた役者はさまざまな役割をこなすことができる。劇の筋書きは普遍的な形になっていれば応用も効くからである。普遍的な筋書きの骨子ができあがれば、それ以外はすべて場面である。

(18) ふたたび悲劇の制作について―結び合わせ、解決、悲劇の種類
全ての悲劇には、出来事の結び合わせの部分と、解決(解きほぐし)の部分がある。ここでいう結び合わせとは。始まりから展開しだす前までの事である。解決とは変転の始まったところから結末までのことである。悲劇には次の四つの種類がある。
①複合劇 全体が逆転と認知からなる
②苦難劇 
③性格劇
④視覚的装飾を主とする劇
作者はできれば悲劇の構成要素のすべてをまたは最も重要な要素をなるべく多く取り入れるよう努力しなければならない。作者は叙事詩的な構造を悲劇に作り上げることはしてはならない。例えばホメーロスの「イーリアス」の筋の全体を悲劇に作ることは止めた方がいい。悲劇で常用する驚きの手法は悲劇特有であるからだ。

(19) 思想、語法について
悲劇を構成する要素として(6)で六つの要素を述べたが、ここでは残っていた③語法、④思想、について述べている。思想に関しては、言葉によって成し遂げるすべてのものをいう。
①証明あるいは反証する
②感情例えば憐れみや怒りを引き起こすこと
③事柄を大きくまたは小さくすることである。
語法に関しては話すときの様々な型がある。演技的語り口にするため、命令、祈り、叙述、脅迫、問、答などについてどのような型であるかを知ることである。次に数節で語法について述べる。

(20) 語法について
語法の全体は次の部分よりなる。(言語構造論)
①字母 それ以上分けることができない音声(母音、半母音、無声) それから合成された音声が生じる。
②音節 無声と、音声を持つ要素とから合成される、それ自体は意味を持たない
③接続語 意味を持たない音声 意味のある音声は引き起こさない言葉と、ある意味を持つ複数の音声からある意味が生まれる。
④文節語 意味を持たない音声で、文のはじめまたは終り、切れ目を示す。
⑤名づけ言葉 ある意味を持つが時間を著わさない。どの部分でも意味を持たない。人名
⑥述べ言葉 ある意味を持ち、時間をあらわす。それだけでは意味をなさない。
⑦語の屈折 名づけ言葉あるいは述べ言葉に見られる。意味を伝えるための必須の関係を指示する。
⑧文 ある意味を持ち、合成された音声である。構成部分のあるものがそれだけで意味を持つ。

(21) 詩的語法に関する考察
前節に続きである。名付け言葉(名詞、形容詞など)は単一構造のほかに、二重構造、三重構造、多重構造の語もある。名付け言葉は
①日常語
②稀語
③比喩語(転用)
④修飾語
⑤新造語
⑥延長語
⑦短縮語
⑧変形語
のいずれかである。

(22) 文体(語法)についての注意
文体(語法)の優れたところは、明晰であって平板ではないことである。日常語は平板に流れる。凡庸を避ける文体は、稀語、比喩、延長語などである。言葉のような言葉ばかり使った文体は謎になる。事実を語りながら連絡がつかないからである。文体を明瞭にするばかりか、凡庸を出ないものをつくるため、語の延長や短縮は役に立つ。文体(語法)の適切な使用は、叙事詩の韻律の中に日常語を置けば、あまりに品が落ちることから明瞭にわかる。悲劇の詩作には比喩を作る才能を養うことが重要である。

(23) 叙事詩について―その一
叙述形式をとり、韻律を用いて再現をする詩作(叙事詩)について、悲劇の場合と同じようにはじめと中間と終りを持つ完結した一つの全体としての行為を中心に、劇的な筋として組み立てなければならない。ホメーロスはトロイア戦争の全体から一部分だけを取り上げ、出来事の多くを場面として用いた。叙事詩から何本かの悲劇作品が生まれた。「キュプリア」、「小イーリアス」から多くの悲劇作品を生んだ。



(つづく)


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