ブログ 「ごまめの歯軋り」

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慎改康之著 「ミッシェル・フーコー」ー自己を抜け出す哲学

2021年09月13日 | 書評
奈良県橿原市 西芳寺付近 今井町9

慎改康之著 「ミッシェル・フーコー」 自己を逃げ出す哲学

岩波文庫 (2019年10月刊)


1 フーコーの年譜と序

ミシェル・フーコー(フコ)(1926年10月15日―1984年6月25日)は、フランスの哲学者。『言葉と物』(1966)は当初「構造主義の考古学」の副題がついていたことから、当時流行していた構造主義の書として読まれ、構造主義の旗手とされた。フーコー自身は自分が構造主義者であると思っていたことはなく、むしろ構造主義を厳しく批判したため、のちにポスト構造主義者に分類されるようになる。代表作はその他、『狂気の歴史』『監獄の誕生』『性の歴史』など
年譜
1926年 ポワティエ市にて出生
1943年 バカロレア(大学入学資格試験)に合格
1946年 高等師範学校 入学
1948年 哲学学士号取得、自殺未遂事件
1950年 大学教員資格試験に失敗、再び自殺未遂事件、フランス共産党に入党
1951年 大学教員資格試験に合格
1952年~ 1955年 高等師範学校の復習教師、ついでリール大学の助手(心理学)に採用
1955年~ 1958年 スウェーデンのウプサラ にてフランス会館館長に着任、その後、ウプサラ大学図書館の医学文庫に通って博士論文『狂気と非理性』(『狂気の歴史』の原形)を著す
1966年 『言葉と物』出版、ベストセラーとなる
1969年 ヴァンセンヌ実験大学の哲学教授に就任
1970年 コレージュ・ド・フランス教授に就任
1975年 『監獄の誕生』を出版
1984年 後天性免疫不全症候群(AIDS)にて逝去

序章
ミシェル・フーコーとは、ジル・ドゥルーズ、ジャック・デリダらとともに20世紀後半のフランス思想をけん引した哲学者である。前頁の写真に見る独特の容貌、強烈な個性に彩られた人物である。パリ高等師範学校で学び、コレージュ・ド・フランス教授に至る輝かしい経歴、権力に抗う社会的闘争活動、麻薬使用者・同性愛者・エイズとの闘いといった私生活の話題、そして「知」、「権力」、「自己との関係」という3つの軸に添った分析と研究活動、歴史的観点から展開する一連の著作集を完成した。彼は識別しやすい、分かりやすそうな人物に見えるが、その実はそのような識別から逃れよう願望、身の振り方で、常に変化する自分を演出しているようでつかみどころが難しい人物であった。かれは「自分が誰であるかは尋ねないでほしい」という。一定の顔を持たないために書き続けている、自分自身が何物かと決定されることの拒絶、自分自身であり続けないようにするための努力を怠らなかった。自分自身からの離脱は、日常的に「好奇心」を持ち続け同じものを別の方法で見ようとする熱意が可能してくれ、別のやり方で考え、別の事を行い別のものになろうとする「哲学」の事である。「哲学的活動」とはまさしく思考の思考者自身に対する批判活動である。自分自身からの離脱についてフーコ―は次の二つを表明してきた。第一にフーコ―は自らの歴史研究を、我々が通常自明と考えることを改めて問いに付すのである。第二に彼の研究は絶えざる変貌として表明される。1960年代の「考古学的」探究は、70年代に「権力分析」に、80年代に「自己の技術の考察へと研究の軸が変更される。自分自身になじみ深い領域に留まり続ける代わりに、危険を冒して絶えず新しい探索に首を突っ込み、それによって別のやり方で考える術を獲得することである。こうしたやり方も「フーコ―的」なやり方である。本書の進め方は以下のようになる。

・1960年代の「知の考古学的」探究を、次のように進める。
第1章 「狂気の歴史」
第2章 「臨床医学の誕生」
第3章 「言葉と物」
第4章 「知の考古学」
・1970年代の「権力」をめぐる研究では、
第5章 「監獄の誕生」
第6章 「性の歴史」第1巻 「知への意思」
・1980年代の自己をめぐる実践では、
第7章 「性の歴史」第2巻―第4巻
晩年のフーコーは、どの著作においても、西洋社会で「生の権力」という新しい権力、つまり、伝統的な権威の概念では理解することも批判することも想像することもできないような管理システムが発展しつつあることを示そうとした。従来の権力機構においては、臣民の生を掌握し抹殺しようとする君主の「殺す権力」が支配的であった。これに対して、この新しい「生の権力」は、抑圧的であるよりも、むしろ生(生活・生命)を向上させる。たとえば、住民の生を公衆衛生によって管理・統制し、福祉国家という形態をとって出現する。フーコーは、個人の倫理を発展させることによって、この「生の権力」の具体的な現れである福祉国家に抵抗するよう呼びかけた。

(つづく)



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