十訓抄
第一 人に恵みを施すべき事
序
人を大事にし、その人材を生かすべきである。小さなな過失は見逃し許し、優れた才能に目を向けよう。
蜂の恩返し
中納言文屋和田麿の子孫に余呉大夫と云う侍がいた。大和の三輪に城を築いたが、敵に破られ山城の笠木の山に逃げた。岩ノ下に網を張っていた蜘蛛の巣に蜂が引っかかり今にも蜘蛛に絡め殺されそうであった。余呉大夫は可哀そうに思って蜂を蜘蛛の網からはずして逃がしてやった。その夜の夢に男が出てきて云うには、蜂の恩を返したいので云う通りの戦術で敵をおびき寄せたら加勢をする。敵は三百騎ばかりで押し寄せたが、蜂の大群が雲霞の如く湧き出て敵を刺し傷つけたので、余呉大夫の一軍は見事敵を打ち殺したと云う話。そして元の城に戻り死んだ蜂のために堂を建て供養したという。
色好み道清の失態
この話は「人に恵みを施すべき事」と云う訓とどう関係するのかといいたいような、色好みの男の失態を描いたものである。土佐判官道清はなかなかの好色家であちこちと徘徊しては、女房で手をつけない女はいなかった。東山のある宮の女房にしきりに手紙を送ってはいたが、忙しいとか言われてはかばしい返事がない。中秋の頃女房の屋敷に行きしきりに誘ったところ、持佛堂で立ち話ならと云う返事を貰い、天にものぼる思いで持佛堂で待っていた。御簾の破れたあけすけの間に女房がすたすたとやってきて、直ぐに腰紐を解き袴を脱いで隅に押しやって、男ににじり寄ってさーどうぞと前を広げてくるのであった。あまりの情緒のなさで男は完全に気後れがして何も出来なかった。女は「なんて厭な男」といって消え去ったと云う話。色好みとしては実にお粗末な話ではないか。
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