アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

朝鮮人とアイヌ民族と天皇制<下>「抵抗」と「協力」の狭間で

2021年03月24日 | 天皇制と差別・人権・民主主義

    

 石純姫氏「朝鮮人とアイヌ民族のつながり」(「抗路」8号)の紹介を続けます。

◇結び

 天皇制という巨大なフィクションを国家の根幹に据え、明治以降の日本は「国民」を作り上げて来た。「経済上には略奪者の張本人、政治上には罪悪の根源、思想上には迷信の根本」(菅野スガ「大逆事件」における「聴取書」1910年6月3日)である天皇・天皇制は、愚民を支配するには最も効率のいいシステムだった。権力者や資本家は、その虚偽を充分知り尽くした上で利用していたのである

 日本が植民地支配や先住民支配について、いっさいの謝罪をしないのは、「欧米中心主義」と「罪刑法定主義」であるとも言われているが、筆者が思うのは、それがかつて天皇の名においてなされた暴虐であったからである

 近代絶対天皇制の下で、天皇は「神」であり、神は過ちを犯さないのであるから、謝罪などしない。それが、どれほど愚劣で虚妄に満ちたフィクションであっても、明治以来の日本は、神である天皇のもとに国家を構築することにより、先住民・植民地支配とアジア侵略を正当化してきた

 敗戦後の「人間宣言」も、実は天皇が神の子孫であることは否定していない。ゆえに、象徴天皇制下の現在も、天皇は神の末裔であり、神は間違いを犯さないゆえ、謝罪はしない。陳腐で愚劣で明らかな虚構であることがわかっていても、それを守り抜くこと、すなわち戦前の「国体」護持が現在も日本においては挙行されていると思わざるを得ない。

 北海道における先住民アイヌと植民地被支配者である朝鮮人のつながりは、従来のアイヌ像を覆すものであると同時に、「協力」と「抵抗」の狭間で生まれた一瞬の奇跡的な希望の行為として記録・記憶されるべきものであろう。それは、在日朝鮮人の形成過程についても新たな視点をもたらすものではないだろうか。

 こうした局面を大きな視点から再考した時に見えるものは、思考力を失わず、生命の大切さや他者との共存を目指したアイヌの人々の、「国民」ではなく、人間としての自立した行為の際立った尊さである。

 最近、北・中南米の先住民がアフリカ奴隷の脱出を助け匿い、共生してきた歴史が明らかにされてきている。それは、植民地支配と帝国主義がもたらす普遍的な暴力の構図といえるのではないか。

 グローバル化の中で世界的な規模での絶対的「他者」が常に作り出され、経済の絶望的な格差は臨界点に達している。コロナの脅威がこれまでの世界や社会システムを根底から覆しつつある現在、これまで何度も繰り返されてきたように、人々は権力やメディアが煽動する恐怖に滑稽なほど家畜的な盲従を示している

 分断された世界に抗い、過酷な歴史の中で共に生きた人々のように、権力や資本の恫喝に屈せず、自立した意思を持つ人々の連帯と協力が、天皇制の偏狭な排外主義と世界システムの暴虐を超え、多様性に満ちた豊かな世界を再構築する希望へとつながる可能性があるのではないだろうか。

 以上が論稿「朝鮮人とアイヌ民族のつながり」の要旨です。石純姫さんは著書『朝鮮人とアイヌ民族の歴史的つながり』(寿郎社、2017年)の中で、こうも書いています。

 「植民地支配は、植民地とされた地域から労働力を暴力的に搾取する。システム化されたそうした暴力が宗主国の国民にとっては日常となると同時に、国民は無意識のうちに植民地支配者としての意識・思想を形成していく。その結果、圧倒的な暴力のシステムを肯定し、それを否定することは「悪」であり「犯罪」だと思うようになる

 この指摘ははたして過去の日本国民にだけ該当するものでしょうか。

 天皇制が象徴天皇制と名を変えながらその本質を温存しているように、私たち「国民」も「無意識のうちの植民地支配者としての意識・思想」を継続させているのではないでしょうか(写真左・中は、「北海道命名150年記念式典」=2018年8月5日に出席した明仁天皇・美智子皇后=当時の前で民族舞踊をさせられるアイヌの人々)。

 そして、韓国に対する「嫌韓」、朝鮮民主主義人民共和国、中国に対する偏見・差別・敵視が国家権力とメディアによって煽られ、日米安保体制の下で、「圧倒的な暴力システム」である軍備・軍事同盟が肯定され、それを否定することが「悪」「犯罪」とみなされる。それがまさにいま私たちが生きているこの国の姿ではないでしょうか。
 だからこそ、「権力や資本の恫喝に屈せず、自立した意思を持つ人々の連帯と協力」、その思想と人間性、たたかいに学びたいと思います。

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