アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

大河でまた「秀吉」を取り上げるNHKの不見識

2024年10月07日 | 日本人の歴史認識
   

 NHKが2026年に放送する大河ドラマの主要キャストが決まり、2日記者会見しました(写真左)。タイトルは「豊臣兄弟!」。主人公は秀吉の弟秀長(仲野太賀)で、準主役はもちろん秀吉(池松壮亮)です。

 また「秀吉」なのか!

 大河ドラマは第1作「花の生涯」(1963年)から「豊臣兄弟!」まで65作。そのうち秀吉を主人公、準主人公、主人公周辺の人物として取り上げた作品は実に13作品(20%)にのぼります。内訳は以下の通りです(NHKHPの大河一覧表から分析)。

 第65作 「豊臣兄弟!」(準主人公)
 第62作 「どうする家康」(主人公周辺)
 第59作 「麒麟が来る」(主人公周辺)
 第50作 「江~姫たちの戦国~」(主人公周辺)
 第45作 「功名が辻」(主人公周辺)
 第41作 「利家とまつ」(主人公周辺)
 第35作 「秀吉」(主人公)
 第30作 「信長」(準主人公)
 第21作 「徳川家康」(準主人公)
 第19作 「おんな太閤記」 豊臣秀吉(準主人公)
 第16作 「黄金の日日」(主人公周辺)
 第11作 「国盗り物語」(主人公周辺)
 第 3作 「太閤記」(主人公)

 大河は戦国ものが多いのですが、それにしても秀吉は突出しています。

 日本では秀吉は農民から身を興した立身出世の象徴的人物とされていますが、朝鮮半島の人々にとっては、侵略者の象徴です。

 秀吉が1592年~1598年にかけて行った朝鮮侵略は、日本の教科書では「文禄・慶長の役」などと記述されていますが、朝鮮半島では「壬辰・丁酉(じんしん・ていゆう)の倭寇」と呼ばれる侵略として記録・記憶されています(写真右は秀吉の水軍を破り救国の英雄とされている李舜臣の像=ソウル光化門広場)。

 「前後六年あまりにもおよんだ日本(秀吉)の侵略で、何十万という人が命を奪われた上に、耕地は荒れ、さらには強制的に日本に連れ去られた人もあり、…ソウルの景福宮(キョンボックン)などの由緒ある建築物が焼きはらわれるなど、さんざんな被害を受けたのです。…豊臣秀吉の朝鮮侵略は、後々まで日本人の思想に大きな影響をもたらしました」(中塚明著『これだけは知っておきたい日本と韓国・朝鮮の歴史』高文研2002年)

 秀吉の朝鮮侵略は明治政府の「征韓論」、さらには日清戦争へとつながっていきます。秀吉以外の、そうした朝鮮侵略の立役者となった人物も、NHK大河の常連です(同じく一覧表から分析)。

 第60作 「青天を衝け」 渋沢栄一(主人公)
 第57作 「西郷どん」 西郷隆盛(主人公)
 第54作 「花燃ゆ」 吉田松陰・伊藤博文(主人公周辺)
 第52作 「八重の桜」 吉田松陰・西郷隆盛・伊藤博文(主人公周辺)
 第49作 「龍馬伝」 坂本竜馬(主人公)
 第43作 「新選組!」 坂本竜馬(主人公周辺)
 第28作 「翔ぶが如く」 西郷隆盛(主人公)
 第23作 「春の波濤」 福沢諭吉・伊藤博文(主人公周辺)
 第15作 「花神」 吉田松陰・伊藤博文(主人公周辺)
 第6作 「竜馬がゆく」 坂本竜馬(主人公)
 第5作 「三姉妹」 西郷隆盛(主人公周辺)
(伊藤博文・福沢諭吉・渋沢栄一は政治・思想・経済の各両面から朝鮮侵略推進、吉田松陰は伊藤の思想的師、西郷隆盛は「征韓論」、坂本竜馬は「竹島開拓」構想など=備仲臣道著『坂本龍馬と朝鮮』かもがわ出版2010年参照)

 朝ドラと並んで大河はNHKの看板番組。いわば“国民的番組”とされていますが、その番組に秀吉をはじめ朝鮮侵略・植民地化の歴史を推進した人物がこれほど頻繁に登場するのはまさに異常と言わねばなりません。

 多くの日本人は秀吉はじめ彼らの歴史的役割を知らず、ただエンタメとして楽しむ。紙幣の肖像画と同様、こうしたことの繰り返し、積み重ねが日本の侵略戦争・植民地支配の加害の歴史を風化させることにつながると考えます。

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