アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

汚染水放出を「外交(中国)問題」にすり替える常套手段

2023年09月28日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 高市早苗科学技術担当相は25日のIAEA(国際原子力機関)の総会で、「IAEAに加盟しながら事実に基づかない発信や突出した輸入規制をとっているのは中国のみだ」と述べ、福島原発事故汚染水の海洋放出に反対している中国を非難しました(写真左)。

 岸田政権と東電が汚染水海洋放出を強行して24日で1カ月。政府、東電は今月末にも2回目の放出を強行しようとしています。

 この1カ月の特徴は、海洋放出自体の是非についての議論は棚上げし、「反対しているのは中国だけ」としてこれを「外交問題」=「中国問題」にすり替え、肝心の海洋放出は既定事実として強行しようとしていることです。高市氏の発言はその典型です。

 この構図には既視感があるのではないでしょうか。

 そうです、政治家の靖国神社公式参拝問題です。「8・15」や春・秋の例大祭のたびに繰り返される閣僚や国会議員の靖国への参拝や「玉ぐし料」「真榊」の奉納。A級戦犯も合祀している靖国神社への公式参拝は、日本の侵略戦争・植民地支配の責任を否定するもので、絶対に許されることではありません。

 これに反対するのは、日本人の責任です。「靖国公式参拝問題」は日本人の、日本の国内問題です。それを「中国が反対する」という「外交(中国)問題」にしてきた(している)のが自民党政権であり日本のメディアです。 

 汚染水放出問題はこれとまったく同じ構図です。これは自民党政権の常套手段です。
 この常套手段には二重の危険性があります。

 第1に、日常的に醸成されている中国に対するマイナスイメージ=「嫌中感情」を土台に、「反対するのは中国だけだ」と喧伝することによって、汚染水海洋放出や靖国公式参拝に反対しづらい空気がつくられることです。「汚染水」という言葉を使うことすらタブーとされてきています。

 第2に、実際は国内問題、日本人自身の問題であるにもかかわらず、「外交(中国)問題」だとすることによって、日本人が主体的に問題を考える(賛成にせよ反対にせよ)ことを阻害していることです。
 これは主権者である日本の市民が国政の重大問題(汚染水問題、靖国問題)を自分事として考えることを妨害する国家権力の巧妙な統治手法です。

 汚染水海洋放出問題で今必要なことは、海洋放出以外の方法の検討です。

 原子力工学の専門家・今中哲二氏(京都大複合原子力科学研究所研究員)はこう主張しています。

「海洋放出の話が出た当初から私は…放射性廃水は大きなタンクで貯留するか固定化するかして、東電の責任で長期保管すべきだと言ってきた。…第1原発敷地内でもタンクの増設はまだまだ可能だ。政府・東電がやるべきことは、まずは海洋放出を中止して関係者の意見を聞き、同時に根本的な地下水流入防止対策を進めることだ」(8月24日付沖縄タイムス=共同)

 「中国だけが反対」(高市氏)といって国内問題を外交(中国)問題にすり替えることによって、今中氏が主張するような代替案の議論は封殺され、日本人の主権者としての自覚・責任感が奪われていることを銘記する必要があります。

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汚染水放出「ごまかし」と「非科学性」

2023年09月22日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 「忘れていませんか福島原発事故のこと~これまでのこと・これからのこと」と題した講演会が16日、京都市の龍谷大学でありました。講師は守田敏也氏(同志社大学社会的共通資本研究センター客員フェローなどを経て、現在フリーライタ、写真中)。

 守田氏は「3・11」以降一貫して東電福島原発事故を追及。現在各地で汚染水放出問題を分かりやすく解明しています。特に「汚染水放出ごまかしのテクニック」が注目されています。その中から5つの「ごまかし」を紹介します。

「ALPS」という呼び名。清らかな「アルプス山脈」をイメージさせる印象操作。多核種除去設備の訳としては無理がある。

最初から62核種を無視し、焦点をトリチウムだけに誘導している。62核種が「基準値以下」で残っていることを明記していない。62核種の残存量を示すべき。

そもそも「規制基準」が「濃度」になっている。これでは薄めればいくらでも排出できる。

実際には7割が基準値以上に残存。それを「処理途上水」などと命名している。

トリチウムは水と同じ成分で安全だというが、実際は身体を通過する過程で被曝によって細胞を傷付ける(内部被曝)

 守田氏はこう強調します。

「一番大事なことは、すでに膨大な放射線によって環境が汚染されたということ。私たちは被曝させられ汚染されている。膨大な健康被害が起きて当たり前。このことに正面から立ち向かうことこそ大事。放射能から命を守ろう」

 科学史家の隠岐さや香氏は、科学の特性に立って、政府の「科学的正しさ」なるものの不確実さを指摘しています。

「科学といってもさまざまな分野があり、時に視点や考え方が異なる。科学は常に更新されるし、しばしば多様な見解を含む。社会的に責任を伴う決定をするためには、科学のそうした特性も考慮に入れ、議論を尽くして納得する考えを導くことが望ましい。

 海洋放出の全体像についてはIAEA(国際原子力機関)が分からない部分もあり、その部分で専門家の見解は分かれている

 私自身も現時点で何が正しいか分からない。唯一確かなのは、識者同士でも見解の食い違いがまだ残るという事実である。

 日本政府にとって本来必要なのは、国内の対立や太平洋地域の分断を助長しないよう動くこと、そして損なわれた信頼の回復への努力ではないか。

 「科学的に正しい」を主張するだけだと、真の解決への道は遠のくばかりである」(15日付沖縄タイムス「論考」=共同、写真右)

 隠岐氏は守田氏のように明確に汚染水放出の危険性を断言する立場ではありませんが、両氏が共通して指摘するのは、岸田政権が繰り返す「科学的正しさ」なるもののいいかげんさです。守田氏は「だまし」だと指弾し、隠岐氏は「むしろ非科学的な考えに近い」と断じています。
 岸田政権・東電による汚染水放出にはまったく道理はなく、絶対に許すことはできません。


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汚染水放出・最初も最後も“金目”なのか

2023年09月06日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 内外で批判が強い東電福島原発汚染水の海洋放出。岸田政権は4日、対策として「新たな支援策」を発表しました。従来の基金800億円に、予備費から207億円を積みますというものです。

 「対策」の1つに、これまで中国で行ってきた水産物加工を国内に移すというものがあります。これに対し、現場の水産業者は―。

「北海道網走市で水産加工会社を営む根田俊昭さんは…「人手がないのに、『カネを出すからすぐ作れ』と言われて、できるのか。国はもっと現実を知ってほしい」と話す」(4日付朝日新聞デジタル)

 カネを出せばいいんだろ、カネでなんとかなる。そういう政府に対する現場からの痛烈な批判です。

 かつて、安倍晋三政権下で石原伸晃環境相(当時)は、福島原発事故に伴う除染廃棄物の中間貯蔵施設建設を巡り、候補地の福島県との交渉が難航したときにこう言い放ちました(2014年6月16日)。
最後は金目でしょ

 自民党政権のやり方はこの時からまったく変わっていません。むしろ何の恥じらいもなくカネを積むことで反対論を抑えようとする思惑が露骨になっています。

 琉球新報の社説(8月29日付)がこう指摘しています(抜粋)。

「海洋放出は、日本だけの問題ではない。…韓国国民の反発は強い。日本政府は国内でも、漁業団体の理解を得るという約束をほごにした。国内、国外とも、理解を得ずに強行する日本政府の姿勢が今回の事態を招いた。放出を停止し、代替策の検討も含めて、国内も周辺各国とも真摯に協議をやり直すべきだ

 政府は、希釈しての海洋放出による影響は「科学的に」ないと主張している。…しかし、30年以上も放出が続けば長い半減期の放射性物質の総量は増え続けることにならないか。微量でも人体に入れば内部被ばくが起きる可能性がある。

 代替策は十分検討されたのか。…政府・東電にとって最も都合のいい方法として、海洋放出という結論が初めからあったのではないか。

 原発事故は周辺国も震撼させた。日本政府は、その反省と責任を認識しているのか。それが問われている」

 汚染水放出は、海洋汚染・内部被ばくの危険性があるうえ、市民や識者が提案している代替案をまともに検討もせず、地元漁業者との約束を公然と踏みにじって強行されたものです。

 それは、2011・3・11の原発事故からの、否、それ以前からの「原発は安全」というウソと、カネで反対論を抑える政府のファッショ的原発推進政策の帰結です。内外の反対の根源はここにあります。


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汚染水放出・国際研究は「放射線に安全基準なし」

2023年08月24日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 「関係者の理解なしに、いかなる処分もしない」という公約を公然と踏みにじって、岸田・自民党政権は24日、核汚染水を海洋放出しようとしています。「自国の漁業者や周辺国の反対を押し切り、汚染水放出という「レッドライン」をついに越える」(22日付ハンギョレ新聞日本語電子版)のです。

 岸田政権は、汚染水は「国際的な安全基準に合致する」とするIAEA(国際原子力機関)の「包括報告書」(7月4日)を“錦の御旗”にしていますが、IAEA自体が「原発拡大」を優先しており、その公平性に国際的疑念が向けられています(7月6日のブログ参照)。

 加えて、岸田政権やIAEAが唱える「国際的安全基準」なるものが絶対的なものでなく、「放射線に安全基準はない」とする国際共同研究の結果があることが分かりました。
 以下、21日付ハンギョレ新聞日本語電子版から抜粋します(太字は私)。

< 放射線作業従事者に認められている年間放射線被ばく量の半分にも満たなくても、被ばくによってがん発症による死亡リスクは高まりうる。このような国際共同研究の結果が発表された。

 国際がん研究機関(IARC)、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、フランスの放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)などの研究者で構成された国際共同研究チームは先日、米国・フランス・英国の原子力産業従事者に対する調査の結果を発表した。これまでに行われた放射能の健康への影響を見る疫学調査の中で最大規模。

 この研究で特に注目されるのは、ごくわずかな累積線量であってもがん発生リスクを高めるということだ。

 問題は、原発産業界が固く信じている線量限度は、主に第2次世界大戦中に日本に落とされた原子爆弾の生存者を対象とした研究にもとづいて設定されているということだ。これらの生存者の放射線被ばくはほとんどが原爆の爆発から1秒以内のものであり、低線量で長期間にわたって被ばくする原発労働者や一般人の状況とは異なる。

 研究チームはこの論文で「私たちの研究は、低い線量の放射線にさらされる労働者たちの中からは、単位被ばく量当たりの固形がん発症リスクが低下する証拠を発見できなかった」と述べた。低線量が累積しても発がんリスクはあるということだ。

 ソウル大学医学部のペク・トミョン名誉教授(元ソウル大学保健大学院長)は、「福島第一原発の汚染水の放出による環境放射線の問題について、『低線量は大丈夫だ』と言ってはならないというもう一つの根拠になりうる研究」だと語った。>

 
 核汚染水は、いくらALPS(多核種除去設備)を通してもトリチウムをはじめ多くの放射性物質は残ります。政府はそれが「安全基準以下」だから安全・安心だと喧伝しますが、その「安全基準」自体がきわめて不確かで、事実上「安全基準」はあり得ないという注目すべき研究結果です。

 政府は海洋放出以外に手段がないと言いますが、それはウソです。放出に反対する多くの市民は「地下埋蔵」を主張しています。政府はなぜその声に耳を貸さないのか。

 政府は2016年に①海洋放出②地下埋蔵③大気放出の3手段を検討したことがあります。その結果、「海に放出すれば34億円程度で済むが、大気放出には349億円、埋設には2431億円かかる」と計算しました(6月1日付ハンギョレ新聞)。海洋放出にこだわるのはそれが安上がりだからです。

 上記の研究結果からも、核汚染水を海に流すことは絶対に許せません。これは漁業関係者だけでなく、放射能被害の拡散に反対するすべての市民の声です。

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「事件の涙」・自主避難者を死に追いやったのは誰か

2023年08月10日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 8日のNHK「事件の涙」は、「何が彼女を追いつめたのか ある自主避難者の死」でした。

 郡山市の高橋由美さん(仮名)は2011年3月11日の東電原発事故直後から、線量計を買って放射能を計測する日々を余儀なくされました。やがて息子(当時13歳)、娘(同12歳)、そして夫も鼻血を出すようになりました。

 8月、政府が避難方針を示さない中、娘を連れて東京の団地に「自主避難」しました。息子は仕事のある夫と郡山に残り、二重生活が始まりました。家賃は補償されましたが「自主避難者」には東電からの賠償金は出ません。

 夫からの仕送りも十分ではなく、由美さんは非正規のダブルワークで娘との生活を維持しました。苦しくても娘には手作りの料理を続けました。

 月2回、夜行バスで郡山へ帰りましたが、夫婦間の衝突は増えるばかり。由美さんが本音を出せるのはSNSでのつぶやきだけでした(以下<>は由美さんのつぶやき)。

<郡山でダンナサンとまたケンカ 俺の家庭を壊しやがって!って>
<ウチの家庭は壊れてしまうかもしれません>

 根底には放射能の脅威に対する夫婦間の大きな考え方の違いがありました。

<相談する人がいない。一番つらいのは、本来、相談するべき夫が敵になってしまったこと>
 
 息子も高校進学とともに上京し、3人の生活に。夫からの仕送りはさらに少なくなり、由美さんは仕事を3つに増やし、ギリギリまで生活を切り詰めました。

<娘は自分が“被災者”“避難者”として学校にいるのが居心地悪いそうだ>
<眠っている娘に謝った あなたの大切なもの… お母さんが捨てさせてばっかりいるね、ごめんね>

<ワタシが「ほ」を怖がりすぎたために…みんなを不幸にしてしまうのかもしれないという、深い悲しみを感じています。>

 2014年、由美さんは「子ども脱被ばく裁判」の原告に名を連ねました。

 しかし、世間からは「自己責任だ」「被害者ヅラするな」など罵声が浴びせられました。

<あの事故で「避難の必要なし」と判断した人も、「避難が必要」と判断した人も、それぞれの価値観なのだから、どちらも正しかった、と認めて欲しいだけなんだけどな>

 1年後、由美さんは病気(心因性ジストニア)になり、働けなくなりました。原告団からも降りました。

 16年6月、福島県の内堀雅雄知事は「自主避難者」への家賃補償を2年後に打ち切ると発表。由美さんの心労はさらに深まりました。

 17年4月、うつ病発症。由美さんは子どもたちを自宅に残し、施設に入らざるをえませんでした。

<私が放射能に鈍感だったら 家族がバラバラに生活することはなかったのに>

 由美さんの“つぶやき”は13147にのぼりました。その最後つぶやき―。

<助けてください! 私が今できることを知っていたら、どうか助けてください。>

 17年5月、由美さんは自らの命を断ちました。通帳には子どもたちのための貯金が残されていました。

 以上が番組の概要です。

 由美さんは心優しいだけでなく、とても聡明で、全力で頑張る人でした。
 子どもの命と健康を守るために多くの困難を覚悟のうえで避難した人たち。称賛されこそすれなんら責められるべきでない自主避難者をこれほど苦しめ、ついに死に追いやったものは、いったい何だったのか。

 東電原発の放射能汚染を過小評価し、避難指示を出さなかった政府。放射能の人体への影響について明確な情報を示さなかった政府・学者ら。「自主避難」は「自己責任」だとして賠償を行わない東電、政府・県。「自主避難者」に悪罵を浴びせた世間。そして母親と父親のジェンダーギャップ…さまざまな原因があります。

 由美さんが命を断ったのは6年前ですが、これはけけっして過去の話ではありません。
 「自主避難者」の経済的・精神的苦痛続いています。政府の放射能汚染の過小評価・隠ぺいは、いま汚染水放出をめぐって表面化し、被災地に新たな分断を生んでいます。

 問題はそれだけでしょうか。

「どうか助けてください」という由美さんの最期の叫びに応えられなかった、応えなかったこの社会。私もその社会の一員として、責任を免れることはできません。同時代に生き、同じく「3・11」を体験した者として。


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汚染水放出・「IAEAは国際的権威」は本当か

2023年07月06日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 IAEA(国際原子力機関)は4日、東電福島原発の汚染水について「国際的な安全基準に合致する」とする「包括報告書」を公表しました。岸田政権は「報告書を「錦の御旗」に掲げ、内外の反対論や不安の声を鎮静化させたい考え」(5日付共同配信)です。

 政府はIAEAを「原子力の国際的権威」(西村康稔経済産業相、3日付共同配信)だとして「報告書」に「権威」をもたせようとしています。日本のメディアも、「IAEAは…国際社会に透明性をと安心感をもたらすため…監視活動を続けるとした」(5日付共同配信)など、IAEAを持ち上げています。

 日本政府やメディアのIAEAに対するこうした評価(持ち上げ)ははたして正当でしょうか。

 韓国のハンギョレ新聞(日本語電子版、6月1日付)は、「40年間海に捨て続ける汚染水、人類にどんな危険をもたらすか」と題した「7問7答」の特集記事を掲載しました。その中の1項目「IAEAによる検証は信頼できるか」という「問い」にこう「答え」ています。

< 汚染水の安全性についての検証を独占するのはIAEAだ。客観的な検証能力に疑問を呈する声は絶えない。1957年に設立されたIAEAは、原発の平和的利用を強調する。そして基本的に「原発拡大」を重視する。原発の危険性を全世界に知らしめた福島第一原発事故の円満な決着は、日本とIAEAの共通の目標だ。

 原発大国である日本はIAEAへの影響力も強い。IAEAの正規予算の分担率(2021年)を見ると、日本は8.32%で、米国(25.25%)、中国(11.15%)に次いで第3位。4つの連絡・地域事務所のひとつは東京にある。現職のラファエル・グロッシ事務局長の前にIAEAを率いたのは、日本人の天野之弥(1947~2019)だった。彼は2009年から2019年に亡くなるまで事務局長を務めた。

 汚染水の海洋放出はIAEAと協議して決定されたものだ。日本政府が放出を決めると韓国、中国、台湾、ロシアは強く反発したが、グロッシ事務局長は真っ先に「歓迎する」との立場を示した。海洋放出決定にかかわった主体が検証を担っている格好だ。彼らは試料採取などを独占し、他国による独自の追加検証を徹底して阻んでいる。このような閉鎖性不信を募らせる大きな原因となっている。>

 ハンギョレ新聞はこの他にも、「IAEAの原発汚染水分析は「検証」ではない…海洋放出を後押しするのが本来の目的」(5月30日付)、「IAEA報告書、汚染水処理の核心「ALPS」の性能については言及なし」(6月2日付)など、独自の調査報道でIAEAの実態を暴露・追及しています。韓国市民の「汚染水放出反対」の強い世論の背景にこうした報道の力があることは明らかです。

 IAEAが「中立」的な「国際的権威」だなどとは、日本国民向けプロパガンダ以外のなにものでもありません。

 汚染水放出では、危険性を無視した日本政府と東電の暴挙が批判されているだけでなく、それを追及することなく容認している日本メディア、日本市民の姿勢も問われています。

 日本メディアは独自の調査報道で汚染水放出問題を徹底追及しなければなりません。そして日本市民はこの問題を自らの問題と捉え、責任ある意思表示をしなければなりません(写真右は「汚染水放出反対」を訴える韓国市民)。

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放射能汚染水放出は近隣諸国への犯罪行為

2023年06月08日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 きょう6月8日は世界海洋デーです。韓国の環境団体、市民団体による「放射能汚染水海洋投棄阻止共同行動」は、日本政府が今夏にも強行しようとしている東電福島第一原発汚染水の海洋放出を阻止するため、今日付で「国際共同声明」を発表しました。

 「声明」は、「海はすべての生命の源です。放射能汚染水の海洋投棄は、命を奪う行為であり、地球市民として許せません」と宣言。次の4点を要求しています。

  • 日本政府は、福島原発の放射能汚染水を海洋投棄しないでください
  • 日本政府は、福島原発の放射能汚染水を陸上で保管してください
  • 日本政府は、海洋放出が安全であるというプロパガンダをやめてください
  • IAEAは、日本政府と東京電力の汚染水海洋投棄の擁護をやめてください

 韓国のハンギョレ新聞は1日付で、「40年海に捨て続ける汚染水、人類にどんな危険をもたらすか・7問7答」という特集記事を組みました。その2問目が「なぜ海に放出?」。前記「声明」も要求している「陸上保管」をなぜしないのかにかかわる問題です。答えを抜粋します。

「日本政府は2016年に、海洋放出▽大気放出▽地下埋設などの複数の汚染水処理方法を検討した。海に放出すれば34億円程度で済むが、大気放出には349億円、埋設には2431億円かかる。福島の漁業関係者が強く反対したため、大気放出案も最後まで検討された。毎日新聞は「政府内では放射性物質を含む気体が東京まで達したらどうするのかという不安が高まったため、海洋放出でまとまった」と報じている。海への放出が「唯一の代案」ではないことは日本政府が最もよく知っている」(1日付ハンギョレ新聞)

 汚染水放出に強く反対しているのは韓国市民だけではありません。

 太平洋の島々は18カ国・地域からなる太平洋諸国フォーラム(PIF)が中心となり、昨年3月から核物理学、海洋学、生物学などの専門家からなる独立の諮問団を組織しⅠ年間調査検討してきました。

「PIFの専門家たちは、日本に対する資料の提供要請、オンライン討論、原発の視察などによって汚染水放出問題を徹底的に掘り下げた。その結果、彼らが下した最終結論は「放出延期」だった。PIFのヘンリー・プナ事務総長は2月、PIFのウェブサイトにおいて、日本の汚染水放出について英語と日本語で「すべての関係者が科学的手法を通して汚染水の海洋放出の安全性を立証するまで、それは実施されるべきではない。我々の地域のこの断固たる立場は変わることはありません」と表明した」(4月11日付ハンギョレ新聞)

 PIFの加盟国の1つであるフィジーの内務長官が3日、シンガポールで開催された第20回アジア安全保障会議の「海洋の安全保障秩序」関連セッションで、浜田靖一防衛相と同席しました

「討論の中である参加者が浜田防衛相に福島汚染水の海洋放出について質問を投げかけた。浜田防衛相は「…安全性を確認したうえで…放出していきたい」と説明した。
 浜田防衛相の話が終わると、近くにいたフィジーの内務長官は「日本が汚染水は安全だと言うなら、なぜ自分のところにとどめておかないのか」と批判した」(6日付ハンギョレ新聞、写真中・右も)

 フィジーの内務長官の批判は正論です。韓国や太平洋の島々の科学的調査に基づいた批判・反対を無視して、日本政府・東電があくまでも放射能汚染水を放出することは、海洋に面した諸国の人々の健康・生命・生活環境を脅かす犯罪的行為です。
 それを止めさせるのは、私たち日本人の責任です。

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原発廃止の責任と展望示した小出裕章講演

2022年11月24日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 京都大学退官後も各地で講演するなど原発廃止への活動を精力的に続けている小出裕章氏(元京大原子炉実験所助教)の講演会が5日、広島県尾道市でありました(主催・小出裕章さんに聴く会)。当日は残念ながら参加できなかったので、先日、ユーチューブで聴きました。

 原子力の基礎知識から「3・11」フクシマ原発事故の実態、焦点の汚染水放出問題などが簡潔・明快に解説されました。とりわけ感銘を受けたのは、問題点が指摘されただけでなく、原発を廃止する展望が語られたことです(写真は尾道講演での小出氏と示されたパネル)。

 多くのことを教えられましたが、改めて見過ごしてはならないと痛感した問題を1点挙げます。それは、原発が東京、大阪、名古屋の都市圏を避け、地方(周辺)に立地していることです(写真中の地図)。

 これは常識ですが、その異常さが今改めて痛感されるのは、沖縄を自衛隊のミサイル基地化する動きが重大な局面を迎えているからです。
 軍事基地と原発はまさに相似形です。このことは「3・11」直後にも指摘されましたが、改めて強調される必要があります。

 危険なものは地方に追いやり、その恩恵を都市部が得る。これはまさに日本国内における地方(周辺部)の植民地化といえるのではないでしょうか。沖縄は「軍事植民地化」されていると言われますが、原発立地地域は「原発植民地化」されていると言えるのではないでしょうか。

 小出氏は、「この点だけでも日本の原発が容認できないことは明白だ。しかし、そういう議論が日本では起きてこない」と指摘しましたが、その通りだと思います。

 厳しい現実が強調され、暗澹たる思いになっていた時、最後に小出氏が示したのが写真右の地図です。これはこれまでに全国で住民が原発(再処置・廃棄物処理等含む)の建設を阻んできた地域です。私は初めて見ました。

 数えてみると、その数は60地域にのぼります。これだけの地域が、そこに住んでいる住民たちが、「原発反対」の声を上げ、実際に原発施設の建設を阻止してきたのです。
「そこでは、きれいな水、美しい海や里山を守りたい強い意志と、農漁業の振興を自ら問い直す努力が原発計画をはねのけ、結果として地域を越えて仕事や人材交流を生み出し、安全な食を求める消費者を獲得することにもつながっていったのです」(小出氏)

 小出氏は最後に講演をこう締めくくりました。

「もし私たちが本気で原子力を許さない、原子力のない世界をつくろうと思うなら、できるはずです。そのためには、みなさんの力がどうしても必要です。1人ひとりが、それぞれの個性を生かして、できることを積み重ねて、日本から原子力を追い出すことを、私はやりたいと思います」

 「1人ひとりが個性を生かしてできることを積み重ねていく」。それしかできないし、それこそが政治・社会を変える力になる。背中を押されました。

 小出さんの講演は約1時間半、ユーチューブで聴くことができます。
 ちなみに、小出さんのような優れた学者が「助教」にしかなれなかったのは、権力・体制に抗して信念を貫いてきたからです。真の科学者の姿を見る思いです。小出さんの生きざま自体に励まされます。

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福島原発・小中高生に“放射線神話”振りまく自民党政権

2022年03月12日 | 原発・放射能と政治・社会

     
 「3・11」東京電力福島原発「事故」をめぐっては、いまも重大な問題が山積しています。その1つは、自民党政権が昨年4月、汚染水(政府・東電は「処理水」と偽称)を来年にも海に放出すると決めたことです。

 政府・東電は汚染水について、「関係者の理解なくしてはいかなる処分もしない」という約束を福島県漁協、全漁連と交わしています(2015年8月)。海洋放出の一方的決定は、この約束を反故にする明白な背信行為です。

 政府・東電は、「処理水」は薄めてあるから安全だと言いますが、「どれだけ薄めても、放出する(放射性物質の)総量は変わらない。64種類もの放射性物質がそれぞれ数百億ベクレルから数百兆ベクレルも放出されてしまう」(伴英幸原子力資料情報室共同代表、季刊誌「アジェンダ」22年春号)のです。

 日本世論調査会の調査でも、「処理水の海洋放出」に「反対」が35%で、「賛成」(32%)を上回っています(6日付共同配信記事)

 にもかかわらず、政府は汚染水を「安全」と強弁するキャンペーンを展開しています。ターゲットは小中高生です。

 朝日新聞デジタル(3月3日)によれば、経産省と復興庁は昨年12月、「処理水は安全」とするチラシを230万枚作成し、全国の小中高校に配布しました。教育委員会を通さず直接学校に送付しました。

 チラシは、「処理水」は「人間が食べたり、飲んだりしても健康に問題のない安全な状態」だとし、「処理水」に含まれている放射性物質・トリチウムについても「健康への影響は心配ありません」と言い切っています。

 チラシは被災地の自治体・教育委員会・学校から猛反発を受けました。
 岩手県宮古市、釜石市、大船渡市、宮城県塩釜市、気仙沼市、福島県いわき市、相馬市などの市教委は、いずれも児童・生徒には配布しないように指示しました。
「処理水の安全性について、きちんと確認が取れた情報なのか吟味が必要」(塩釜市教委)、「事前に配布の連絡がなかった。保護者にとってはデリケートな問題なので、慎重にしてほしかった」(相馬市教育長)などと困惑しています(以上、朝日新聞デジタルより)。

 チラシだけではありません。文科省は全国の小中高校に「放射線副読本」(写真左)を配布していますが、2018年の改訂で2014年版の内容が大幅に改悪されたのです。なかでも重大なのは、次の文章が削除されたことです。

「専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う国際NGOである国際放射線防護委員会(ICRP)は、科学的には影響の程度が解明されていない少量の放射線を受けた場合でも、線量とがんの死亡率増加との間に比例関係があると仮定して、合理的に達成できる範囲で線量を低く保つように勧告しています
 高線量被曝が原因で将来がんになる可能性は、大人より子供の方が高いことが知られています。」(文科省HPより)

 この文章がすっぽり削除されたことは、放射線被曝とがん発症の関係、とりわけ「大人より子供」が「がんになる可能性が高い」ことを隠ぺいすることにほかなりません。これが当の子どもたち向けの「副読本」だけに、問題はさらに重大です。

 大惨事となった東電福島原発「事故」の根源は、歴代自民党政府が振りまいてきた「原発は安全」という「原発神話」ですが、政府はいま新たな「放射線神話」を、これからの社会を担う小中高生に振りまこうとしているのです。

 


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政府・東電を免罪する「風評被害」という言説

2021年04月13日 | 原発・放射能と政治・社会

    

 菅政権は13日、東電福島原発「事故」の汚染水を海に放出する方針を正式決定します。これに対し市民グループは12日、記者会見で反対を表明し、代替案の検討を要求しました(写真中)。全漁連(全国漁業協同組合連合会)はすでに昨年6月の通常総会で、「断固反対」を全会一致で決議するなど、福島県内外に強い反対があります。

 菅政権はそれを無視して強行するもので、政権のファッショ的体質を露呈しています。しかも「復興五輪」とうそぶく東京五輪の「聖火リレー」をメディアがお祭り騒ぎで報道しているドサクサの中で、「復興」とは対極の暴挙を強行することは言語道断です。

 そもそも政府・東電やメディアは、一定の「処理」をしたとして「処理水」という用語を使い、まるで放出する水が無害であるかのような印象を振りまいていまが、放射能で汚染されていることに変わりはなく、「汚染水」というべきです。

 汚染水の処理問題をめぐって黙過できないのは、「風評被害」という言葉が多用されていることです。

 「風評」とは国語辞典でも「うわさ」と定義してあるように、根拠がない評判という意味・ニュアンスになります。しかし、汚染水に対する不安はけっして根拠がないものではありません。放出されようとしている水にトリチウムが含まれているのは厳然たる事実です。しかもこの汚染水は福島第1原発のデブリ(溶解核燃料)に注水されたものであることを見落とすことはできません。
1原発の処理水はデブリに触れた水だ。不安の声があるのも無理はない。東電と政府が不安解消へ向け手を尽くしたのかは疑問だ」(10日付琉球新報=共同)。

 にもかかわらず、当然の不安を「風評被害」とすることは、政府と東電の加害責任を免罪し、福島・東北の生産者と消費者を分断するものと言わねばなりません。

 ジャーナリストの吉田千亜さんは、「風評被害」について、福島県農民連の根本敬会長(二本松市の農家)の言葉(2017年11月『現代農業』掲載)を紹介して問題提起しています。

「消費者の過剰な反応を「風評被害」だと言います。しかし、今起こっていることは、東電が起こした原発事故による放射能が大地と作物を汚染している「実害」です。風評被害と片付けるのは、消費者に責任をなすりつけ、東電を免罪することです。心ある方々から、福島の産品を買い支えたいという申し出がきます。でも、私はこう応えています。「お気持ちは嬉しい。でも、みなさんにお願いしたいのは、国・東電はあらゆる損害をすべて補償せよという世論を消費地で起こしてほしい」と…。」(根本敬さん。吉田千亜著『その後の福島 原発事故後を生きる人々』人文書院2018年より)

 東電の被害を受け続けている生産者・根本さんの言葉は、「風評被害」という言説の危険性、そして私たち消費者が主張すべきことやるべきこと、生産者と消費者の団結のあり方を示しており、きわめて示唆的です。

 政府・東電の免罪に通じるこの「風評被害」という言葉を、天皇徳仁が公に使ったことを改めて想起する必要があります。
 徳仁天皇は今年3月11日に行われた政府主催の追悼式で、「原子力発電所の事故の影響により…農林水産業への風評被害の問題も残されています」と述べたのです(写真右)。

 追悼式での天皇の「ことば」は、全体として「国民」の「共助」を強調したもので、その中での「風評被害」発言は、問題の根源である政府・東電の加害責任を隠蔽・免罪するものであり、けっして黙過することはできません。


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