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教誨師(きょうかいし★★★★★

2018年10月20日 | アクション映画ーカ行

2018年2月に急逝した名優・大杉漣が自ら初プロデュースも務めて主演したヒューマン・ドラマ。受刑者を教えさとす宗教者“教誨師”という存在にスポットを当て、教誨師を務める牧師を主人公に、彼と6人の死刑囚との対話を通して、様々な反応を見せる死刑囚それぞれの心のありようと、主人公自身の葛藤を静かに見つめていく。6人の死刑囚役には光石研、烏丸せつこ、古舘寛治、玉置玲央、五頭岳夫、小川登。死刑に立ち会う刑務官を描いた大杉漣出演作「休暇」の脚本を手掛けた佐向大が監督・脚本を務める。

<感想>本作のエグゼクティブプロデューサーも務めた大杉さんが演じるのは、受刑者に対して道徳心の育成・心の救済につとめ、彼らが改心できるよう導く存在である教誨師(きょうかいし)。独房で孤独に暮らす6人の死刑囚と対話する主人公の佐伯に扮し、その苦悩や葛藤を描き出す。

ほぼすべての場面が拘置所の教誨室内で、大杉演じる佐伯と死刑囚の1対1の芝居が続く。ある者は威嚇し、ある者はおびえ、それを佐伯が自らも悩みながら誠心誠意、受け止めようとする。

部屋は殺風景でせりふは膨大、カメラもほとんどカット割りをせずに2人のやりとりをじっと見つめるという大胆な作りだが、死刑囚を演じる光石研や古舘寛治らと大杉さんとの真剣勝負がいずれも見事で目が離せなかった。

佐向大(さこう・だい)監督は死刑制度の是非を問うのではなく、生きることの意味を探るというテーマを根底に据える。「人はみな罪を背負いながら、それでも生きていくことが大切だ」と訴える亡き大杉のせりふには、胸を打たれずにはいられない。

死刑制度の廃止が叫ばれる中、今年我が国では13名もの死刑が執行された。生きるとは何か?、そんな答えの出ない大きな問いに、死刑因を描くことで挑んだのがこの「教誨師」であります。

プロテスタントの牧師・佐伯保は、教誨師として月に2回拘置所を訪れていた。一癖も二癖もある死刑因と面会する。最大の難題は教誨師が、死刑因に何を語るかと言う部分だろう。もちろん、主人公の佐伯保は、自分が教誨師になった原点ともいえる少年時代のある不幸な事件を語り始める。

それも兄が殺人者だということで、刑務所で自殺をしたという話が聞かされる。伯父さんが牧師で、両親が亡くなり、伯父さんに引き取られ、自分も自然と牧師の道を歩むことになる。

6人の死刑因には、始めに無言を貫く鈴木を演じているのが、古舘寛治。まるで失語者のような雰囲気でもある。

気のいいヤクザの組長の吉田睦夫には、光石研。牧師・佐伯保に困ったことがあったら、何でも相談しろと言い、電話番号まで書いてくれる。

年老いたホームレスの進藤に扮した、五頭岳夫。本当なら罪を犯すような人ではなく、お人よしで、自分のことをちゃんと説明できなかったために共犯者にそそのかされてしまう。学校にあまり行っていないのか、字が書けないのが悩みであり、牧師・佐伯から読み書きを教えられ、洗礼を受ける進藤。

関西弁の中年女性、野口に扮している烏丸せつこ。彼女は一見親しみやすい関西のおばちゃんで、いつもニコニコしているけど、怒ったら怖い。どこか狂気を感じさせるキャラクターであります。イメージとしては、和歌山の毒物カレー事件の林真須美や首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗のような、凄みの中にもチャーミングな部分がしっかりとある女。だが、一瞬にしてもろいところがある、それは腕の傷跡でリストカットを何度もしており、死を恐れているのだった。

我が子を想い続ける小川には、小川登。息子の幽霊が出て来て、涙ぐむ父親の顔もある。罪の意識を真摯に受け止め反省する男。彼はプロの俳優ではなく、監督の友人であると言うのだ。

自己中心的な若者、高宮真司に玉置玲央。彼は大量殺人を犯した若者で、高宮の犯人像は、相模原の事件をヒントにしている。彼は物凄く極端で、相手の急所をつき尊厳を踏みにじるような言葉を吐き続ける。

生と死にまつわるやり取りで、高宮が咄嗟にある行動をするとてもスリリングな場面がある。リアクションはとても生々しく、ものすごく感情が高ぶって、エネルギーと言うか気みたいなものを感じましたね。映画初出演とは思えない繊細で奔放な演技に驚きました。

高宮に対して誠実に向き合っていた佐伯が、動揺を抑えきれず怒りの感情を堪え切れずに追い詰められるも、佐伯が答える「私は高宮さんが怖いと、何故かと言うとあなたを知らないからだと。でも知ることを理解することではない。私の役目は穴を見つめることです。空いてしまった穴を逃げずに見つめることだと。だから、私はあなたの傍にいます」と。このシーンの大杉さんの存在感は圧倒的でした。

死刑を宣告された人間と対峙していくうちに、どのように対応していくか悩むのだ。彼を使って死刑の延期を画策するもの。関西弁の野口という女性は、想像上の看守をこしらえて、彼に報告するから何て言う。キャラクター一人一人に物語的な仕掛けが凝らされており、それらが会話主体でありながら、ふと映像的に昇華されるのが圧巻でした。

そして初めての死刑執行の日である、洗礼を受けて死刑執行を受ける進藤なのだが、その時に進藤からメモ紙を受け取る。何が書かれているのかは観客には判らないが、佐伯は帰り道に読んでしまい愕然とする顔が印象的でありました。

それは取り返しのつかないことでもあり、もしかして進藤さんが無実の罪で、死刑宣告を受けたのかもしれないと言うこと。

大杉さんが6人の死刑因に対する態度は、それぞれ全く異なりますが、その表情によって死刑因それぞれへの思いが伝わって来るのだ。もちろん死刑因側の演技があってこそですがね、大杉さんって本当に凄い役者さんだなぁと、改めて感じました。計算された演技ではなく、リアクションは生々しく、ものすごく感情が高ぶったシーンでは、エネルギーと言うか気みたいなものを感じました。本当に惜しい俳優さんを亡くしました。人の命の儚さに、ただただ、ご冥福をお祈り申し上げます。

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