数多くの個性的な作品を世に送り出してきた北野武監督が、ユニークかつ異色の設定で放つコメディータッチのドラマ。オレオレ詐欺の被害者となって憤慨する元ヤクザの組長が子分を引き連れ、孫のような若さの首謀者たちを成敗していく。藤竜也、近藤正臣、中尾彬らベテランや実力派俳優たちが世直しに息巻く血気盛んなヤクザを快演する。高齢化社会や詐欺犯罪といった社会問題を巧みに盛り込んだストーリーに加え、バスの暴走などハードなアクションも見もの。
<感想>主要キャスト陣は平均年齢72歳の“ジジイたち”というけれど、ベテランの俳優陣たち。金なし、先なし、怖いモノ無し! という元ヤクザの老人たちが、弱者を食いものにする悪徳詐欺集団を相手に抱腹絶倒の大立ち回りを繰り広げるのだ。
かつては“鬼の龍三”と鳴らしながらも、今じゃすっかり息子家族から煙たがられている70歳の元ヤクザ組長・龍三が、「会社の500万円をなくした!」と息子を語って掛けてきた電話を取ったことから始まる。まんまと“オレオレ詐欺”の口車に乗せられてしまい、家中から金目の物、鰐皮のベルトに昔のヤクザの組のバッジとかを、かき集めて待ち合わせ公園へ駆けつけるが、そこへ兄弟分のマサもたまたま通りがかり、金が都合つかなくて「俺の指をつめるから」といきなり短刀で指を切る仕草をする。それを見て、オレオレ詐欺の若者はビビって一目散に逃げ帰ってしまう。
本作で藤竜也が演じたのは、以前は誰もが畏れた元やくざの親分・龍三。引退した現在は大企業(食品業界)で働く息子家族の家に肩身の狭い思いで身を寄せながら、世知辛い世の中を嘆いているというキャラクター。これまで凶悪犯や用心棒などの悪役を演じることの多かった彼にとっては久々のアウトロー役となり、今なお衰えぬいぶし銀の男の色気を醸し出している。
近藤正臣が扮するのは、体を張って龍三の命を救ったこともある龍三の兄弟分“若頭のマサ”。生活保護を受けながらひとりで団地に住んでおり、丁半博打が大好きで何かと賭けたがるのが特徴だ。この二人が漫才よろしく、蕎麦屋で入ってくる客が注文する蕎麦とうどんで賭けをするのだ。負けてばかりの龍三が、最後の賭けの客がかつ丼を注文したのに腹を立てて、ドスを抜いての立ち回りに怖いどころか笑いが込み上げた。ですが、こんな客は迷惑ですよね。
「義理も人情もあったもんじゃねえな!」とタンカを切る龍三は、かつての仲間に会いに行こうとすると、商店街で不良に絡まれるモキチ(中尾彬)に遭遇。その場を取りなしたのが、昔なじみの刑事・村上(北野武)の話から、暴走族上がりのワルが集まるサギ集団“京浜連合”の存在を知る。こいつら“オレオレ詐欺”の他にも“浄水器に羽毛布団”の詐欺もしていた。
「若いヤツらに勝手な真似はさせられねぇ!」と、年賀状などから昔の仲間に招集を掛ける。中には老人ホームに入っている人も、それに恩師が100歳で登場とは。
そして、龍三をはじめとする“ジジイ”たち7人の子分が集まった。丁半博打が大好きな「若頭のマサ」(近藤正臣)、寸借詐欺で生活する「はばかりのモキチ」(中尾彬)、肌身離さず拳銃を持ち歩く「早撃ちのマック」(品川徹)、仕込みステッキが武器の「ステッキのイチゾウ」(樋浦勉)、心臓病を患う「五寸釘のヒデ」(伊藤幸純)、老化で自分の髭剃りもままならない「カミソリのタカ」(吉澤健)、軍服をまとう右翼まがいの「神風のヤス」(小野寺昭)と、元ヤクザたちが集まってくる。だが、平均年齢は72歳、手がプルプルと震え、足元もおぼつかない者も……。すっかり時代遅れとなった龍三と7人の“ジジイ”の大集合となったのだ。
それぞれが個性があっていい。龍三の息子の食品会社で食品偽造問題で、デモをしている住民たちのもめごとを引き受けますとばかりに、会社の上司と掛け合い200万円を巻き上げる龍三たち。その金は、すべて競馬に使ってしまいすっからかん。笑ったのが、最後の賭けで大穴の5-5に10万円賭けようと、モキチに言うも、龍三の指が片手が小指と薬指が欠損していて3本に。両手を広げても5-3に見える。モキチが間違ったわけではない。龍三が指をつめてヤクザの仁義を果たした証の欠損した2本の指。笑えるこれは。
紅一点のキャバクラのママ役の萬田久子、龍三に昔惚れていたといい部屋へ連れて行き、背中の龍の刺青を見せてと、そこへパトロンの京浜連合の西が来る。慌てて風呂場へ、裸なのでママのピンクの服を着て、シャンプーハットを被って外へ出ると、オカマ連中に新顔は引っ込んでなと叱られる始末。藤竜也のこんな姿は初めてかもしれない。
特にモキチ役の中尾彬が絶品でした。中尾彬が今作で演じているのは、孫娘に面倒をみてもらいながら寸借詐欺で生活する“はばかりのモキチ”。北野武監督作への出演は、「アキレスと亀」「アウトレイジ ビヨンド」に続いて3度目となるだけに、堂に入った演技を披露している。
孫娘が誘拐されると聞いて、独りで京浜連合の事務所に殴り込みをする。中華店の“一龍店”のおかもち下げて、トイレに入るも現在のトイレは水洗で洋式タイプ。隠れる場所がないのでおろおろ、それに入ったトイレが女子トイレで大騒ぎに。ドスを持ち事務所へ殴り込みに入るも、反対に返り討ちに遭いボスの西に金属バットで頭を殴られて死亡。
マサの部屋で、モキチの弔い合戦をしようではないかと、ジジイたちは奮起を起こして、京浜連合の事務所に殴り込みをかけるのだが、相手はのらりくらりと逃げてしまう。この時も、モキチの白装束の遺体を車いすに乗せて、事務所に行き、拳銃を発砲する相手にモキチを盾にして弾丸を避けるとは。これは、ちょっと笑えなかったぞ。
京浜連合のやつらを追いかけるジジイたち。バスジャックをして彼らのベンツを追いかけるのだが、裏どうりの細い道を追いかける彼ら。商店街はメチャクチャになる。そして、バスと京浜連合の車が正面喪突だ。もちろん警察も来る。
みんな逮捕されます。刑事役の北野武監督の動に行ったもので、一見落着ということ。マサの捨て台詞がいい、ムショから出たら、今度は俺が親分をやると意気込む。だが、「その時分にはみんなあの世へ行っている」と龍三が言う。お疲れさまでした。
とにかく、全編に渡って抱腹絶倒の笑いがあり、若い人には少し“寒い笑い”もあったでしょうが、ジジイ、ジジイと連発する若者たち。ババァ、ババァ、と邪魔にされないよう奥に引っ込んでましょうかね。そういう、あんたたちもいずれは年をとるのだから。
2015年劇場鑑賞作品・・・85映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
<感想>主要キャスト陣は平均年齢72歳の“ジジイたち”というけれど、ベテランの俳優陣たち。金なし、先なし、怖いモノ無し! という元ヤクザの老人たちが、弱者を食いものにする悪徳詐欺集団を相手に抱腹絶倒の大立ち回りを繰り広げるのだ。
かつては“鬼の龍三”と鳴らしながらも、今じゃすっかり息子家族から煙たがられている70歳の元ヤクザ組長・龍三が、「会社の500万円をなくした!」と息子を語って掛けてきた電話を取ったことから始まる。まんまと“オレオレ詐欺”の口車に乗せられてしまい、家中から金目の物、鰐皮のベルトに昔のヤクザの組のバッジとかを、かき集めて待ち合わせ公園へ駆けつけるが、そこへ兄弟分のマサもたまたま通りがかり、金が都合つかなくて「俺の指をつめるから」といきなり短刀で指を切る仕草をする。それを見て、オレオレ詐欺の若者はビビって一目散に逃げ帰ってしまう。
本作で藤竜也が演じたのは、以前は誰もが畏れた元やくざの親分・龍三。引退した現在は大企業(食品業界)で働く息子家族の家に肩身の狭い思いで身を寄せながら、世知辛い世の中を嘆いているというキャラクター。これまで凶悪犯や用心棒などの悪役を演じることの多かった彼にとっては久々のアウトロー役となり、今なお衰えぬいぶし銀の男の色気を醸し出している。
近藤正臣が扮するのは、体を張って龍三の命を救ったこともある龍三の兄弟分“若頭のマサ”。生活保護を受けながらひとりで団地に住んでおり、丁半博打が大好きで何かと賭けたがるのが特徴だ。この二人が漫才よろしく、蕎麦屋で入ってくる客が注文する蕎麦とうどんで賭けをするのだ。負けてばかりの龍三が、最後の賭けの客がかつ丼を注文したのに腹を立てて、ドスを抜いての立ち回りに怖いどころか笑いが込み上げた。ですが、こんな客は迷惑ですよね。
「義理も人情もあったもんじゃねえな!」とタンカを切る龍三は、かつての仲間に会いに行こうとすると、商店街で不良に絡まれるモキチ(中尾彬)に遭遇。その場を取りなしたのが、昔なじみの刑事・村上(北野武)の話から、暴走族上がりのワルが集まるサギ集団“京浜連合”の存在を知る。こいつら“オレオレ詐欺”の他にも“浄水器に羽毛布団”の詐欺もしていた。
「若いヤツらに勝手な真似はさせられねぇ!」と、年賀状などから昔の仲間に招集を掛ける。中には老人ホームに入っている人も、それに恩師が100歳で登場とは。
そして、龍三をはじめとする“ジジイ”たち7人の子分が集まった。丁半博打が大好きな「若頭のマサ」(近藤正臣)、寸借詐欺で生活する「はばかりのモキチ」(中尾彬)、肌身離さず拳銃を持ち歩く「早撃ちのマック」(品川徹)、仕込みステッキが武器の「ステッキのイチゾウ」(樋浦勉)、心臓病を患う「五寸釘のヒデ」(伊藤幸純)、老化で自分の髭剃りもままならない「カミソリのタカ」(吉澤健)、軍服をまとう右翼まがいの「神風のヤス」(小野寺昭)と、元ヤクザたちが集まってくる。だが、平均年齢は72歳、手がプルプルと震え、足元もおぼつかない者も……。すっかり時代遅れとなった龍三と7人の“ジジイ”の大集合となったのだ。
それぞれが個性があっていい。龍三の息子の食品会社で食品偽造問題で、デモをしている住民たちのもめごとを引き受けますとばかりに、会社の上司と掛け合い200万円を巻き上げる龍三たち。その金は、すべて競馬に使ってしまいすっからかん。笑ったのが、最後の賭けで大穴の5-5に10万円賭けようと、モキチに言うも、龍三の指が片手が小指と薬指が欠損していて3本に。両手を広げても5-3に見える。モキチが間違ったわけではない。龍三が指をつめてヤクザの仁義を果たした証の欠損した2本の指。笑えるこれは。
紅一点のキャバクラのママ役の萬田久子、龍三に昔惚れていたといい部屋へ連れて行き、背中の龍の刺青を見せてと、そこへパトロンの京浜連合の西が来る。慌てて風呂場へ、裸なのでママのピンクの服を着て、シャンプーハットを被って外へ出ると、オカマ連中に新顔は引っ込んでなと叱られる始末。藤竜也のこんな姿は初めてかもしれない。
特にモキチ役の中尾彬が絶品でした。中尾彬が今作で演じているのは、孫娘に面倒をみてもらいながら寸借詐欺で生活する“はばかりのモキチ”。北野武監督作への出演は、「アキレスと亀」「アウトレイジ ビヨンド」に続いて3度目となるだけに、堂に入った演技を披露している。
孫娘が誘拐されると聞いて、独りで京浜連合の事務所に殴り込みをする。中華店の“一龍店”のおかもち下げて、トイレに入るも現在のトイレは水洗で洋式タイプ。隠れる場所がないのでおろおろ、それに入ったトイレが女子トイレで大騒ぎに。ドスを持ち事務所へ殴り込みに入るも、反対に返り討ちに遭いボスの西に金属バットで頭を殴られて死亡。
マサの部屋で、モキチの弔い合戦をしようではないかと、ジジイたちは奮起を起こして、京浜連合の事務所に殴り込みをかけるのだが、相手はのらりくらりと逃げてしまう。この時も、モキチの白装束の遺体を車いすに乗せて、事務所に行き、拳銃を発砲する相手にモキチを盾にして弾丸を避けるとは。これは、ちょっと笑えなかったぞ。
京浜連合のやつらを追いかけるジジイたち。バスジャックをして彼らのベンツを追いかけるのだが、裏どうりの細い道を追いかける彼ら。商店街はメチャクチャになる。そして、バスと京浜連合の車が正面喪突だ。もちろん警察も来る。
みんな逮捕されます。刑事役の北野武監督の動に行ったもので、一見落着ということ。マサの捨て台詞がいい、ムショから出たら、今度は俺が親分をやると意気込む。だが、「その時分にはみんなあの世へ行っている」と龍三が言う。お疲れさまでした。
とにかく、全編に渡って抱腹絶倒の笑いがあり、若い人には少し“寒い笑い”もあったでしょうが、ジジイ、ジジイと連発する若者たち。ババァ、ババァ、と邪魔にされないよう奥に引っ込んでましょうかね。そういう、あんたたちもいずれは年をとるのだから。
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