パピとママ映画のblog

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山河ノスタルジア ★★★

2016年06月09日 | アクション映画ーサ行
「長江哀歌」「罪の手ざわり」の名匠ジャ・ジャンクー監督が、別れて暮らす母と息子を主人公に、過去・現在・未来でのそれぞれの人生模様を通して、互いを想う心の機微を切なくも繊細に見つめた感動叙事詩。主演はジャ・ジャンクー作品のミューズ、チャオ・タオ。共演に「最愛の子」のチャン・イー。
あらすじ:1999年、山西省・汾陽(フェンヤン)。小学校教師のタオは、炭鉱労働者のリャンズーと実業家のジンシェンという2人の幼なじみから想いを寄せられ、やがてジンシェンと結婚、息子のダオラーを授かる。2014年、汾陽で一人で暮らしていたタオ。ジンシェンとは離婚し、ダオラーも父に引き取られ、上海で暮らしていた。ある日、タオの父が亡くなり、葬儀に出席するために戻ってきたダオラーとの束の間の再会を果たす。タオはそこでダオラーがジンシェンとともにオーストラリアに移住することを知らされる。2025年、オーストラリア。19歳になったダオラーは、中国語も話せなくなり、父との間にも確執が生まれ、アイデンティティの問題に直面して孤独な日々を送っていたが…。

<感想>作品は、時代に翻弄(ほんろう)され、離ればなれになった母と息子の強い愛を、1999年から近未来の2025年までを、二人の男に言い寄られ、野心的な実業家と結婚するが、結局は離婚をして息子を夫にとられしまう、中国女性の女の一生ともいえる内容であった。
過去、現在、未来、3つの時代から、ひとりの女性の人生と、遠く離れた場所にいる息子の成長を、洗練された構成と映像美で描く珠玉の作品でもあります。

ジャ・ジャンクー監督の母親に対する思いが濃厚に込められているようだ。また監督の故郷・山西省の汾陽(フェンヤン)が今回も物語の舞台となっている。ジャ監督作品のミューズであり、私生活の伴侶でもあるチャオ・タオは、本作でも確かな存在感で別れた息子を想いひとり故郷に暮らす母親を演じている。

国破れて山河在り、中国は、中国人は、どこへゆくのか、・・・。手にしたものと、失ったもの。故郷の河は、何も語りません。激情のダイナマイトも、万感の思いを込めたダンスも、ただただ包みこむように、流れてゆくのみです。

この映画は個人がこれまでの価値観と違った、より斬新で新しく見える価値観と出会い、その価値観によって生き生きと輝くさまや、検証が足らなくて計り切れなかった部分もあり、それが命の有限性だと気が付いたときやり直しは不可能だと気付き、以前に持っていたはずの価値観はもはやどこにもないという。切ない思いがする映画で、主人公と伝統と風景が画面の中で頻繁にいろんな次元で爆発するのだ。
同時代の空気をもっとも繊細につかまえてきたジャ・ジャンクーがこの作品で差し出しているのは、このような問いだと思う。
気心知れた炭鉱夫でなく、野心のある実業家との結婚を主人公が選んだことは、経済発展をこれとした中国の後戻りできない選択を暗示しているに違いないのだから。この明らかな寓意が未来さえも見通しているように見えるのだ。

そして、その中で救われたのが、ところどころに挿入される、ストーリーとはあまり関係のない、一人の人間の幼少時の記憶の風景である。それは普段は忘れているだけで、心の奥に誰にでもある記憶の風景であり、間違いなく自分の記憶の風景でもあるからだ。
過去から断絶し、未来の時間は残り少ないけれども、人間は記憶の断片があればそれだけで生きていける。雪の残る荒れ野で自分の首につながる見えない鎖を外し、一人で楽しく踊ることもできるはずだから。
今回は、ペット・ショップ・ボーイズの「GO WEST」や台湾生まれの歌手で女優のサリー・イップの「珍重」など、90年代当時の流行歌が効果的に使われている。当時の若者の一番の娯楽、流行はディスコでこの曲が流れていた。あの時期は経済改革が一回あって、もう一回波が来て急速に上がっていき、経済が開放されるという豊かな希望に満ちた時代だった」とし、「『珍重』は別れを惜しむ曲で、この作品には沢山の別れが表現されているので使用した」という監督の言葉。時代をつなぐいくつかの流行歌がこの上なく切ない。
観ていて、特に2025年を舞台にした最終章が興味深かった。異国で育ち、ルーツが見えない自身のアイデンティティーを、母の記憶の中に探そうとする青年の渇望。生き物としての不思議。人を生へと向かわせるノスタルジーに心が沁みた。

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