パピとママ映画のblog

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ある過去の行方 ★★★

2014年05月19日 | あ行の映画
『別離』が第84回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したイラン出身の鬼才、アスガー・ファルハディが放つ人間ドラマ。お互いの子どもを連れて再婚しようと考える男女が、女性の娘のある告白を機にそれぞれが抱えていた思いも寄らなかった秘密を知ることになる。『アーティスト』などのベレニス・ベジョと『パリ、ただよう花』などのタハール・ラヒムが、主人公のカップルを熱演。全編にあふれる不穏なムードとサスペンスフルな語り口や、それによって浮かび上がる人間の深層心理の闇に圧倒される。
あらすじ:4年前に別れた妻マリー(ベレニス・ベジョ)と離婚手続きを行うため、イランから彼女のいるパリへと飛んだアーマド(アリ・モサファ)。かつて妻子と日々を過ごした家を訪れると、マリーと長女のリュシー(ポリーヌ・ビュルレ)が子連れの男サミール(タハール・ラヒム)と一緒に暮らしていた。マリーとサミールが再婚する予定だと聞かされるものの、彼らの間に漂う異様な空気を感じ取るアーマド。そんな中、マリーと確執のあるリュシーから衝撃の告白をされる。

<感想>まず、これには心底驚かされました。離婚する夫婦の人間ドラマだと思って見ていると、幾重にも張り巡らされた蜘蛛の巣のように、ミステリー・サスペンスへと移行する。
マリーは、過去の失敗を断ち切り、新しい恋人とやり直そうとするが、彼のサミールの置かれた状況が、それを容易に許さない。つまり、奥さんが店で洗剤を呑んで自殺未遂をして、植物人間となる。その原因が、実は夫のサミールがマリーと浮気をしていることに腹を立てての自殺だというのだ。

一方、アマードはマリーが妊娠していることを知り、彼女の願いを叶えるために温厚に事を進めるつもりが、予期せぬ事態に巻き込まれていく。自分の子供ではないが、長女のリュシーが母親と喧嘩をしているのだ。だが、アーマドの誠実さが娘の心を開き、全てを話してくれた。
つまり、娘のリュシーが母親の再婚を良く思ってないらしく、サミールの奥さんに、メールで浮気をバラしてしまったというのだ。そのことで母親とは喧嘩をしており、奥さんの自殺の原因を作ったのがマリーだと信じている。

その謎解きが「別離」ほどテーマやドラマに馴染んでいないため、ややあざとく違和感を覚えた。余裕のないヒロインのマリーも、女性の身勝手でヒステリックな面ばかりが強調されているようで、サミールの妻の自殺未遂事件も、彼女の鬱病が原因だと言い切るし、中々肯定しづらいキャラクターになっている気がしました。

両親の離婚となると、子供たちの置かれる立場ですよね。家の中は、いつも喧嘩状態でいこごちが悪い。行ったり来たりと、定まらない居場所。子供にとっては親の身勝手で、一番、幸せな子供時代が不幸の連続に陥ってしまうのだ。
ファルハディの脚本が巧妙で、ゆったりとした展開からやがて痛ましいミステリーをめぐる密度の濃いドラマへと物語りが進みます。加えて演出の鮮やかさ、大人たちの愛憎劇こもごもの深層心理など。子供たちのその年齢なりの心理を、心の奥底に分け入るように写し取っている。

子供を含めた全キャストの演技が完璧です。状況に直面した感情の揺れが、登場人物の怒鳴り声と共に台詞の喧騒にはうんざり。主人公が誰かも判らないなんて。
入り組んだ人間関係、そしてささやかな幸福を求めながらも、そこへ辿り着けない人々のありようは、前作の「彼女が消えた浜辺」や「別離」と共通しているようですね。ですが、本作では、過去という見えない足枷が登場人物たちを縛りつけ、その現在と未来に影響を与えていくのです。

ラストでいくらか救われた感じがしました。マリーに「子供を産むのを認めないと言い切る」これは、妻に対してのせめてもの罪滅ぼしでしょうか。サミールが奥さんの病院へ行き、奥さんの使っていた香水を自分の首に付けて、眠っている妻に囁きます。「もし、この匂いが気に入ったら、手を強く握ってくれと」奥さんが、画面からは、サミールの親指を握っているように見えました。
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