パピとママ映画のblog

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アルゲリッチ 私こそ、音楽! ★★★.5

2014年11月12日 | あ行の映画
世界的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチの実の娘ステファニー・アルゲリッチが監督を務め、生身の母親の姿を捉えたドキュメンタリー。メディアの取材を受けないアルゲリッチの、家族だからこそ撮れた名ピアニストの素のままの姿を映し出す。元夫のロバート・チェン、シャルル・デュトワ、スティーヴン・コヴァセヴィッチらも登場。彼らとの間の3人の娘たちとの関係を軸に描かれる、一人の女性の生きざまに魅了される。
あらすじ:1941年、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに生まれたマルタ・アルゲリッチは、幼いころからすでに音楽家としての頭角を現す。ペロン大統領のはからいにより奨学金をもらい、12歳でウィーン留学した彼女は16歳で二つのコンクールで優勝する。その後、24歳でワルシャワのショパン国際ピアノコンクールで優勝し、世界各地で人々を魅了し続けている。

<感想>実は私はこの映画に出会うまで、マルタ・アルゲリッチの演奏を聴いたことがなかった。この作品で初めて知り天才とは彼女のこと、今世紀最高のピアニストの一人と言って良いだろう。
彼女は気難しくてエキセントリックらしいのだが、老いて大病を患ったせいか現在の彼女は、好々婆あにしか見えず、若日のそうしたエピソードが紹介されるも、なんだかサラリとした繰り出し方なのだ。結局は、娘の一人が映像で綴った家族アルバムといった域だし、その側面も確かにあるのだろうが、やっぱり他所の家の事情は、みんな覗きたい性分なので見入ってしまう。

3人の男性との結婚や未婚を経て3人の娘を授かる。長女でヴィオラ奏者のリダ・チェン。次女でアリゾナ州立大学教授のアニー・デュトワ。三女でこの映画監督であるステファニー・アルゲリッチ。天才の名をほしいままにしながらも、ピアニストとしての自己の生き方に忠実であるが故に、余儀なくされたやや錯綜した私生活や家族関係。

この中でアルゲリッチが公園に行くシーンがある。着いた途端に彼女はこう言い放った。「公園に来たのだから木を感じてよ」と、やたら話しながら素足の裏や足指のペディキュアを塗る娘たちのされるがままで、幸せそうに見えた。
芸術家は人生のあらゆるものに感じて生きている。たくさんの物、場所、人と出会い感じる。そして己の感性に一番あったものを職業として、技術を身に付ける。だが、アルゲリッチほどの天才になると、家庭に対しても感じたままに行動するのだ。であるからにして、家庭は崩壊してしまう。

しかし、血を分けた家族というものは、論で結びつくべきものではなく、やはり感じて結びつくものだから、家庭は崩壊しても親子の絆は決して崩れない。なんと、天才ピアニストを追い掛けながら、見事な家族物語を描いて見せてくれる。
自分よりも34歳年長の母親である世界的ピアニストの、姿をとらえた娘による記録映画である。いつもながらこの種の女性は、男性の場合とはちょっと違った子供のような愛らしさを持ち、同時に自我を宇宙規模に拡大しようとして、次の瞬間には落ち込んだりする。
男も登場するが、基本的には女性たちの映画で、父親の違う娘たちの芝生にくつろいでアイスクリームを嬉しそうに食べている場面は観ていて気持ちがいい。

わがままぶりを才能に結びつけているこの母親はのふり幅の大きさを、もっと見せて欲しかった気がする。演奏中も私生活でも、表情豊かなマルタ・アルゲリッチに魅了されます。奔放な恋多き女というよりも、何かにつかまってしまうことを怖れているかのようであり、だから誰のことをも束縛しようとはしないのだけれど、その彼女に娘たちは逆説的に縛られてしまう。
それが良かった。感じたままだから、アルゲリッチの想い、そしてショパンのピアノ協奏曲の演奏がすんなりと入って来た。

やはり映画とは、それが芸術家の作品であるならば、感じたままに観るのが正しいのである。
偉大過ぎる規格外の女性に、実の娘が迫るという大きな枠組みが素晴らしくて魅力的で、監督が少女時代から撮りためたホームビデオ映像の使用が、また大変な効果を上げているのだ。クラシックファンならもちろん必見だが、そうでなくとも驚きの面白さに納得の出来栄えです。
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