――G・ベイトソン&C・ベイトソン『天使のおそれ』星川淳訳
父 多くの生物種が、遺伝物質を何度も混ぜ直すこと(※有性生殖)によって、
有効な遺伝的組み合わせやものになる適応を大量に捨てている。
これは相互チェックというものにともなう高い代価だ。
The species sloughs off a vast number of effective genetic combinations and
workable adaptations by reshuffling genetic material.
It's a high price for the opportunity of closs-checking.
娘 そうね。だれかに会って、わあ、この人は遺伝と環境とのみごとな組み合わせの産物だ、
これは絶やしちゃいけないぞって思う、それが恋かしら。
I know. You meet someone and you think, wow, this person is a product of a superb combination of genetics and environment,
we ought to be able to keep this one going.
生命間のさまざまな関係パターンが創られる基底に、相互チェックの複雑な力学が働いている。
関係パターンは、希望が訪れるようにも、絶望を強化するようにも変化していく。
しかしその前提を問えば、すべての生命にとって、よりよい生存のあり方を示す関係パターンを探索することが、
相互チェックにおける第一の課題として存在している。
生命史を含む関係の履歴が蓄積した「関係の記憶」、そしてそこから予期として派生する「関係の未来」。
そしてこの過去から未来へわたる時間的厚みのなかに、すべての関係選択のポテンシャルが埋め込まれている。
生物種として長らえるために、どのような関係選択がベターでベストかは常に未規定である。
しかし、過去から未来へわたる時間的厚みが放棄され、特定のパターンが固定されてしまうと、
関係の選択プールはやせ細っていき、生存のポテンシャルも枯渇していく。
どんな関係のあり方が選ばれ、どんな関係のあり方が捨てられていくかは、相互チェックの総体が決めていく。
それがどんな帰結に至るかをだれも知らない――そこから希望と絶望の二極が生成する。
そして、単純に希望することも絶望することも許されないものとして、「生きられる現在」がある。
未規定なものを未規定なものとして受け容れること、そして一方的に希望や絶望を強いるものに抗うこと、
――そこに関係探索を継続する生命にとって、重要な「エチカ」が存在するかもしれない。
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