──坂口安吾「紫大納言」1939年
「わたくしの笛をお返しなされて下さいませ」
……
私は、ここに、このような、あさましい姿となっているのです。
しかも、あなたの悲しさの一分すらも、うすめることができずに。
あなたは、いま、どこに、どのようにして、いられますか。
もはや、お目覚めのことでしょうね。
このうすぎたない地上でも、あなたの目覚めに、なお、
いくらかは優しい慰めを与えたものがあったでしょうか。
もう、郭公も、ほととぎすも、鳴く季節ではありません。
せめて、うららかな天日が、夜の嘆きを、いくらか晴らしはしませんでしたか。
また、一夜のねむりが、悲しさを、いくらか和らげはしませんでしたか。
ああ、どうしていいのか、私は、もはや、わからない……
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