「愛がなければ通り過ぎるしかない」(ニーチェ)
すべてこの格率どおりに生きることはできない
通り過ぎれない状況、通り過ぎれない関係、生活世界がある
見渡せば逃れようのないのっぴきならなさがひしめいている
生かすちからと滅ぼすちからとせめぎあっている
せめぎあい、駆り立てられ、焦燥し、動き回りながら
四六時中、〝決済〟を求める怒号に呑み込まれる
勝つか負けるか、生きるか死ぬか──
ひと皮めくれば獰猛さを競いあうゲームのなかにいる
それでずっとやってきた
そのことは認識したほうがいい
そのうえで、通り過ぎれない心が自らに告げる
この状況に〝人間の知恵〟を連結しなければならない
そのために状況の本質をえぐり出さなければならない
現実に耐えること
与えられ示されるまま
諦めて歯を食いしばって生きる
このルートには救いがない
生も死もゲームプランの内側で進行する
享楽と荒廃のカップリング
全体収支は荒廃へ向かっている
たくさんのものがこぼれ落ちていく
不幸を加算しつづけるゲーム
そうではなく
生きるに値しないものを
生きるに値するものに変換する
現実は甘くないに決まっている
甘くないものを甘いものに作り変えていく
愛がなければそのまま通り過ぎてしまいたい
通り過ぎれない心がみずからに告げる
「ceasefire」(ある哲学者は別の言い方でエポケーと呼んだ)
そうしてはじめて気づくことができる
ゲームが教えない未踏のルートがある
どんなにすさんだ風が吹き荒れても
すさみをすさみとして感じる心がいる
感じる心がどこにもいなければ
世界はのっぺらぼうのまま滅びていくしかない
この明晰な了解において
感じる心に生きるスペースをあつらえておく
そうしてはじめて人間の知恵が芽吹く土地が確保される
ちょっと道草しようか
俺はいつでもオーケーだ