月が出ているよ、と身近なだれかがいう
久しぶりに月をみたような気がする、とあなたが応える
意味をもちながら意味をもたない
ただ言葉を交換することだけが何かであるような
風景の隙間に織り込まれたかそけきひととき
「どこかで同じ月を見ているだれかがいる」
はるかな祖霊たちにつながる
なつかしい記憶の感触に付き添われ
だまし絵のように
あなたの輪郭を曖昧にぼかし
風景との境界を消し去るように
秘蹟のように現象した刹那の時間
*
ニンゲンとニンゲンの闘争と
その帰結としての蓋然的な和解や憎悪があり
だれもがその道で演じる非情や計略や
一切が勝敗へと換算されるゼニやもろもろをめぐるせめぎあいがあり
駆け引きがありつづけた
それはコスモスの本質の顕現において
必然化された絶対の関係性として
ニンゲンの歴史の運行と存続にかかわる
究極のガバナンスに准じるものであったのか
はたしてそれらすべての営みたちが
最後の最後に欲しがったものが何であったのか
*
キレイな月は前触れなく
ニンゲンを訪れ
不可触の光とこころがまじわる
世界のもう一つの所在を告げた
消えゆく時間のあわいに
ただ一方的な訪れとしてだけ
許された偶然の邂逅
そしてその訪れの回数だけ
光のカケラを積み上げられた
さらにもう一つの光景が
静かにあなたを呼んでいた