たにしのアブク 風綴り

86歳・たにしの爺。独り徘徊と追慕の日々は永い。

安部公房「砂の女」を読んだ。爺の「夏休み読書感想文」です

2022-08-13 15:29:52 | 本・読書
令和4年8月13日 久しぶりに硬派な小説を読みました。
新潮日本文学46 安部公房集「砂の女」
--罪がなければ、逃げる楽しみもない。



8ポイント活字で2段組、文字がぎっしり詰まった本。
小さな文字を一日3、4ページづつ「ハズキルーペ」と、
エッシェンバッハ光学の「ワークルーペ」を併用し読みました。
眼が疲れました。20日は眼科に行く日です。





何で、今、安部公房「砂の女」を読む気になったのか、
6月ごろ、NHKラジオ、高橋源一郎の「飛ぶ教室」で、
漫画家・文章家のヤマザキマリさんとの「読書会」を聞いて、
思い出したので、図書館から借り出した。


 
こんな書き出しで始まる。――

八月のある日、男が一人、行方不明になった。
休暇を利用して、汽車で半日ばかりの海岸に出かけたきり、
消息をたってしまったのだ。
捜査願いも、新聞広告も、すべて無駄に終わった。



7年たち、民法第三十条によって、死亡の認定となった。
 
男は学校の先生で昆虫採集を趣味としていた。
砂地に住む希少種の新種発見が願望であった。
彼は双翅目蝿の仲間の変種に目をつけていた。
黄色い前足のニワハンミョウ採集に傾注した。
鞘翅目ハンミョウ族は砂地に住む昆虫だった。
 
彼は砂浜海岸を歩いているうちに、
砂の斜面を掘り下げた、
くぼみの中に沈んだ家が点在する集落に足を踏み入れていた。

夕暮れが近づいていた。
漁師らしい老人の案内で、一夜の宿を紹介された。
「縄ばしご」で砂の斜面を下りるような穴の底に、
半分砂に埋まりかけたような家だった。
30前後の女が出迎えた。
 
一夜明けて男は、砂底の家からは出られない。
「縄ばしご」は引き上げられてしまっていた。
 
毎日、流れてくる砂を掻きだし、
モッコで引き上げてもらわないと、
埋まってしまうような穴の底で、女と暮らすことになった。
 
女は男の身辺に気遣ってくれているようだったが、
一日の大半は砂の掻きだしと砂の搬出に精を出していた。
水はモッコの砂と引き換えだった

砂は流体。空気のように体中、口の中まで積もる。
女は夜、砂の積もった裸体で床に伏して寝ている。
男は体に自制できない何かが動き出すのを感じた。

男と女の営み、男の官能を通じて何ページも続く。
 
砂の壁から出られない男は不条理な境遇を呪った。
自由だった世界に戻りたい、幾度か脱出を試みた。
「底なしの流砂地獄」に嵌って、徒労に終わった。
村人たちに助けられて穴の家に戻されてしまった。
 
 「失敗したよ……」
 「はい……」
 「まったく、あっさり、失敗してしまったもんだな。」
 「でも、巧くいった人なんて、いないんですよ……まだ、いっぺんも……」
 
 女は、うるんだ声で、しかし、まるで男の失敗を弁護するような、力がこめられている。
 なんていうみじめなやさしさだろう。このやさしさが、酬いられないのでは、あまりに不公平すぎはしまいか?
 
 「納得がいかなかったんだ……」
 「……このまま暮らしていってそれでどうなるんだと思うのが、一番たまらないんだな……」
 「洗いましょう……」はげますように女が言った。
  
ギクシャクしていた女との関係も、
いつしか馴染める関係になっていた。
流れてくる砂を掻き、モッコで引き上げることや、
生活労働が二人の共同作業になっていた。
 
男が外界との連絡を取る手段に、
鴉の脚に手紙をつける作戦を思い立った。
鴉を捕獲しようと仕掛けた穴の桶に、
ある日、「水が貯留」しているのを発見した。

女が妊娠した。
街の病院に入院するため「縄ばしご」が下ろされ、
女はオート三輪で連れ去られた。
 
男は残されていた「縄ばしご」をゆっくり上った。
久しぶりに外界を眺めた。海が見えた。
空は黄色く汚れていた。
海も黄色くにごっていた。
深呼吸したがざらつくばかりだった。
穴の底で、何かが動いた。自分の影だった。
 
桶の底に溜まっていた水は、切れるように、冷たかった。
べつに、あわてて逃げ出したりする必要はないのだ。
溜水装置のことを、村人に話したいと思いはじめた。
逃げるてだては、またその翌日にでも考えればいいことである。

ここも悪くないな~なんて思い始める…… 
以上が、小説のストーリーの概略です。


  
いま「砂の女」読んでみれば、
この小説が発表された1962年の時代状況とは、
「砂穴の壁」が様々な意味を持って感じられる。
 
貧富、上流民、下流民、正規、非正規、ジェンダー……
社会に張りめぐされた既得支配「エスタブリッシュメント」
金子みすゞ「見えないけれど、あるんだよ」的な壁です。



ところで、ヤマザキマリさん、テレビ、ラジオに、
著作にと、すごい活躍(?)ぶりです。それに話が面白い。
「壁とともに生きる わたしと「安部公房」とか、
「100分de名著」テキスト(NHK出版)など
書店に平積みで並んでいます。

たにしの爺は、ときどき立ち読みでページをめくっています。
たにしの爺にとって、「歳、年齢」が越えられない壁です。

夏休みの課題「読書感想文」のつもりです。
膝の痛みは、なかなか良くならないが、
頭の方は、なかなか大丈夫のようです。
困ったものだ。