青森駅から五所川原駅までは車で約1時間である。
できれば電車を使いたかったが、ストーブ列車の時間に間に合わない。
仕方なくレンタカーを借りた。
車はJR五所川原駅の前に止めた。
大きな駅にもかかわらず人影はほとんどない。
対照的に、小さな津軽鉄道の駅舎はストーブ列車を待つ乗客であふれかえっていた。
津軽鉄道は、沿線の過疎化で利用客が激減し、存続が危ぶまれていた。
第3セクターではないので、自治体からの赤字補填もない。
この危機的状況を救ったのがストーブ列車である。
東北新幹線の開通も追い風になり、今や、観光による定期外収入が売り上げの4分の3を占めるようになった。
2008年にはついに黒字化を達成、まさに奇跡的な出来事である。
この日は、ストーブ客車2両、一般車両1両の3両編成。
ストーブ客車には、乗車券のほかに、400円のストーブ列車料金がかかる。
これは年間1200万円の維持費用を賄うための措置だという。
予約してあった「ストーブ弁当」を受け取り、さっそく乗車。
運よく、ダルマストーブに最も近い席に座れた。
金木まで26分間の小さな旅である。
動き出すと、アテンダントの女性がスルメを焼き始めた。
すると乗客が一斉に立ち上がりカメラを向ける。
奇妙な光景である。
スルメは意外に早く焼ける。
焼けると、スルメを買ったお客さんのもとへ急いで届ける。
ダルマストーブは車両の前後にあるので、混み合った車内を頻繁に往復する。
なかなか大変だ。
しばらくすると、津鉄のはっぴを着た車内販売のワゴンが入ってきた。
狭い車内がさらに混雑する。
スルメのほかに、飲み物や菓子などが積まれている。
ストーブ列車の刻印がはいったどら焼きを2つ購入。
しばらくすると、今度は手にマヨネーズを持った男性が現れた。
「ストーブ弁当ですか、通ですねー」
津鉄の職員で、乗客と会話しながら、スルメを買ったお客さんにマヨネーズのサービスをしている。
列車が嘉瀬駅に着くと、アテンダントの女性がしゃべり始めた。
「わたし、これでもアテンダントなんです。業務の一環でスルメ焼いてます。 ・・・・」
「ここ嘉瀬は吉幾三さんの故郷ですが、電気も信号もあります。 ・・・・」
津軽弁で話す機智に富んだ語りが楽しい。
スルメひとつで、ここまで盛り上げるとは大したものである。
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